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≠勇者  作者: 単参院 涼
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#6 メイドの矜持


 時は昼を少し過ぎた頃、煉紅郎が国王達に三つの要求を提示している頃、シャルルは同室の侍女達五人と食堂で昼食をとっていた。

 彼女達、侍女や使用人の食事の質は城の中では最も低く、野菜のスープと硬い黒パン、あと日替わりのおかず、この日は、魚のフライだった。


「シャルルって幸せそうに食べるわね」

「そうね、カルメン」

「私達は結構、運が良いもんね。奴隷になった時はこの世の終わりだと思ったもんね」


 シャルルを含めテーブルを囲む六人の侍女は亜人である。

 シャルルは子猫族ケットシー、ミエルは猫人族ネコマタ、カルメンと呼ばれ侍女は黒髪の綺麗な髪を肩まで伸ばし、クリクリッとした綺麗な一つ目が象徴的な女性であった。彼女は単眼族モノアイ、単眼族は華奢な体躯はしているがぞの単眼による広域視野と超人的視力を持っている。

 アキュとチャムは姉妹で、姉妹揃って栗毛で大人しいのが妹のアキュ、活発なのが姉のチャムである。姉妹は犬人族コボルドという種族で、犬人族は子猫族と同じく犬そのもに近い体躯をしている。しかし、子猫族とは違い猫人族と同じく身長は人間とそう変わらない。優秀な嗅覚を持つのが特徴である。

 トートは小人族ホビットで、この中では最年長者でみんなのお姉さん代わりをしている。心の優しい女性である。


「チャム、そういう話はココではしない約束でしょ?」

「はーい、トート姉・・・じゃあ、シャルル~?」

「んニャ?」

「勇者様とは何処までいったの?」

「はニャ!?」


 チャムの一言で五人の視線がシャルルに集中する。

 今朝の一件である。その一件以降、会う者会う者に聞かれ茶化されしてシャルルはいい加減、辟易していたのだが、自分と似た身の上の友人達を無下にも出来ず。昨夜の事を多少誤魔化しながら説明した。

 それを聞いた五人の反応は一つだった。


「「「嘘だね」」」

「うニャ!嘘なんてついてないニャ!侵害ニャ!」

「じゃあ、本当にご飯食べてお話をしたら寝ちゃったの?」

「そうニャ」

「なんかねぇ~」

「ちょっとねぇ~」

「うう~」


 ミエルとチャムは楽しそうに顔をあわせる。二人にとってシャルルはからかい易い可愛い妹の様な存在だった。なので、少しやり過ぎる事もあったが、そこは姉妹の絆がある。


「・・・シャルルちゃん」

「アキュ~うニャ~」

「・・・よしよし」


 その場の空気を察したのか、チャムの妹のアキュがシャルルを慰める。大人しいアキュはシャルルが大好きで慰めると同時にシャルルの身体を撫で回している。

つまりは、ミエルとチャムはからかい楽しみ、頃合いを見計らってアキュが慰めながら撫で回す。三人にとってシャルルを中心に得する構図が出来上がったのだ。

トートとカルメンはというと、それの傍観に徹していた。下手に騒ぎ過ぎないように様に気を回しながら四人のやり取りを微笑みながら眺めている。トートは昔の家族、カルメンは手に入らなかった姉妹を思いながら・・・



 食事の時間も終わり、各々の持ち場に戻ってゆく六人の侍女達、ミエル、トート、チャム、アキュと別れ、向かう場所が近いカルメンが、途中までシャルルと一緒に行く。

 食堂を出て暫くすると前方からガチャガチャと鎧を鳴らしながら騎士達、つい先ほど謁見の間から殆ど国王により追い出されたダリオン達が歩いてくる。

 シャルル達二人が騎士達に道を明けるように端により通り過ぎるのを待っていると、騎士達の会話が聞こえてくる。


「全く腹立たしい限りだ!」

「・・・・・・」

「なぜ我々が追い出されなければならんのだ!」

「全くだ。確かにヤツの言い分も解らないわけでもないが・・・」

「なに!デズモンド、貴様!我等に非があると言うのか!」

「そうは言ってませんよ。グルールさん。唯、ヤツの言ってる事もあながち間違って・・・」

「デズモンド」

「はっ!ダリオン団長、何でしょうか?」

「ヤツの、勇者の言ってる事は間違っている。ヤツが真の勇者ならば何故今すぐ魔王討伐に出向かん?それでこそ勇者であろう。それが出来ぬ時点でヤツは勇者ではない!偽勇者!つまり唯の腰抜けよ!」

「・・・・・・」

「ご主人様を馬鹿にするニャ!」

「ん?」

「ちょっと、シャルル」

「ご主人様は腰抜けなんかじゃニャい!」

「何だ貴様!?」

「我等を王国騎士団と知ってのことか!」

「すみません。この子、ちょっと調子が良くなくて・・・」

「そんなこと無いニャ!この人たち、ご主人様を馬鹿にしたニャ!腰抜けって言ったニャ!」

「ん?ご主人様?そう言えば、勇者に側使えをつけたと聞いたが、お前か?」

「そうニャ!それがなんニャ!」

「その首輪・・・ふっ、亜人の奴隷が側使えか・・・」

「なんニャ!なんニャ!」

「・・・うるさい」

「ギニャ!?」

「シャルル!」


 子猫侍女の身体が跳び上がり壁にしたたかに打ち付けられた。床に倒れ落ちた彼女のもとに単眼侍女が駆け寄り抱き起こす。

 

「シャルル、大丈夫?」

「うニュ・・・」

「ダリオン団長、流石にやり過ぎなのでは?」

「やり過ぎ?マリオン、可笑しな事を言うな。俺は、騎士団に悪態をつく者を払っただけだ。何も問題あるまい?」

「事が知れたら・・・」

「いったい何の騒ぎですか?」


 不意に後方からの声かけに驚きながらもその場に居る者がその声のする方に視線を向けると其処には一人の侍女が居た。


「・・・マグナカル・・・メイド長・・・」

「何があったんですか?」


 坦々と喋りながらもマグナカルは倒れているシャルルの下への歩みを進める。


「ふん、マグナカル、貴様のところのメイドが我等に失礼な口を聞くので躾けてやるところよ!」

「グルール、貴方は何時からそんなに偉くなったのですか?ちょっと前まで膝を擦り剥いただけでビービー泣いていたのに・・・嘆かわしい」

「そっ、そんな大昔の事、今出さんでも良いではないか!?」

「・・・大丈夫ですか?」

「マグナカル様・・・」

「カルメン、シャルルを医務室に連れて行きなさい」

「でも・・・」

「ココは私が引き受けます。良いから行きなさい。早く」

「はい、ありがとう御座います!」


 そう言うとカルメンはシャルルを背負い、医務室へ走ってゆく。


「おい、マグナカル、どういうつもりだ?」

「どういうつもり?私は唯、騎士に暴力を振るわれた部下を医務室へ向かわせただけですが?何か問題でもおありで?」

「問題だと?アレは暴力では無い。躾けだ。俺や王国騎士団に対して悪態をついてきた身の程を弁えない亜人の奴隷を態々、この俺が、マグナカル、貴様の変わりに躾けてやろうとしたまでよ。それを、貴様は邪魔をしたのだぞ」

「それでしたら私が後で確りと言い聞かせますのでご安心を。それとも、手も足も出ない女を甚振るのが騎士団の仕事ですか?」

「なっ、貴様!」

「違うのですか?」

「違うに決まってるだろうが!」

「では、仕事にお戻りください。・・・それと、彼女達は奴隷ですが、国王ルアンス・ファルシム様の所有物でもあります。それに手を出すという事は、ルアンス様に弓引く好意だという事をお忘れ無く、今回は貴方がたの顔を立てて不問にしておきますが、次は違いますよ。解りましたか?」

「ふん!行くぞ!」


 マグナカルに言い負かされ気分を害したのか、奥歯をギリッっと噛み締めながら、他の団員を連れてその場を立ち去ってゆく。マリオンが去り際にマグナカルに近づき一言「申し訳ありません」と言い、先を行く者達を追い立ち去ってゆく。

 立ち去る騎士達の後姿を見ながら哀愁とも悲しみとも言い難い視線を向けるマグナカルであった。




 シャルルが煉紅郎の部屋に戻ったのは夕日が地平に隠れる少し前であった。

彼女は、カルメンに背負われ医務室に到着し治療して貰っている途中に目を覚ましたが、医務室常駐の医師つまり、プシュケー国でも指折りの医者である。シャルダン医師に暫しの安静を言い渡され大人しくベットで横になっていた。

 カルメンはというと、医務室にシャルルを届けると自分の仕事に戻って行った。・・・が、日が落ちかけ始めた頃、再び顔を出し、シャルルと共に煉紅郎に会いに行くと言い出したのだ。

当初、カルメンは顔を見て仕事に戻るつもりでいたが、頭や腕に包帯を巻いているシャルルの姿を見て彼女の主人である煉紅郎の下に送ってやらねばと決心した。彼女の名誉の為に言っておくが、決して包帯姿が保護欲を駆り立てた訳ではない。決して。

 そうしてシャルルとカルメンの二人が煉紅郎の部屋の扉を叩くと煉紅郎の声が聞こえ、二人は少しばかり緊張しながらも部屋の中に入って行くと其処には・・・




 猫メイドが医務室で目覚める少し前・・・

 部屋に戻った煉紅郎とバルボドッサの二人は未だに気を失っている暗殺者をベットに寝かせた。暗殺者の顔を隠していたフードも取り払われ、整った素顔をを現していた。それはまるで人形の様に中性的でどことなく神秘的な雰囲気を醸していた

そして、二人はそんなベットに眠る暗殺者をよそに思案をめぐらせていた。

 先ずは、援助資金の金額を決める事だが、兎にも角にも煉紅郎はポルモルの貨幣価値を知らない。なので、バルボドッサにこの世界の貨幣価値について御教授願う事になった。ポルモルにおいて通貨は統一されており、それを『ハル』と呼ばれ、八種類の硬貨で取引されている。

価値としては、石貨一枚で一ハル、大石貨だと十ハル、銅貨一枚で百ハルで大銅貨になると千ハル、銀貨は一枚一万ハル、大銀貨では十万ハルで金貨になると百万ハルで最高金額の大金貨は千万ハルとなる。普通の硬貨と大硬貨の違いは硬貨自体の大きさと刻まれた紋様により判別できる。

 このプシュケー国の物価については、一般家庭では大銀貨三枚あれば一年生きるのに事欠かないそうだ。


「そうか・・・」

「で、マダラメ・・・」

「バル爺、急にどうした?」

「なにがじゃ?」

「いや、何でも無い、続けてくれ」

「・・・ふむ。そうか・・・では、マダラメよ。お前さん、どれ程の金額を要求するんじゃ?折角じゃから大金貨の一枚でもいってみるかのぉ?」

「そんなにはいらないよ。そうだな・・・銀貨一枚で良いんじゃないか?」

「そんなもんで良いのかい?折角じゃから色つけても良いんじゃよ?」

「まぁ、宿代が二日三日持てばいいんだし、大丈夫だろ?」

「ん?マダラメお前さん、この城を出るのか?」

「あぁ、あれ?言ってなかったっけか?」

「そんな事は一言も聞いとらん!?城を出るとはのぉ・・・アリステリア様の事はどうするんじゃ?まさか、城から連れ出して一緒に暮らすとか言わんじゃろうな?そんな事になったら大変じゃぞ」

「そんな事しねぇよ。訓練は城の訓練所でやりゃいい、その方がこいつみたいに襲ってはこねぇだろ」


 煉紅郎はベットで横になっている暗殺者を眺めながらそう言った。


「じゃあ、その後はどうするんじゃ?」

「この王都にも働き口ぐらいあるだろうさ、さすがに一年もこの城で負んぶに抱っこって訳にもいかねぇしな。・・・バル爺、質問して良いか?」

「あぁ、なんじゃ?」

「もし、シャルル、俺に今ついているメイドが俺について来るって言った場合はどうなる?」

「そうじゃのぉ・・・」


 バルボドッサは暫し思案をめぐらし始めると、ベットで横になっていた暗殺者が目を覚ました。天井を見つめながら全てを理解したのか静かにその身をゆっくりと起こし煉紅郎を見つめ、一呼吸おいて口を開いた。


「なぜ殺さない」

「殺す理由はなんかねぇだろ」

「俺はお前を殺そうとしたんだぞ!」

「そうだな。でもそれは、殺される理由があるってだけで、殺す理由がある訳じゃないんだよな・・・そうだ。あんた名前は?」

「なっ・・・」

「ふぉふぉふぉ」


 煉紅郎の歯に衣着せない物言いに絶句する暗殺者と堪え切れず笑い出すバルボドッサ。

 ハッと意識を取り戻した暗殺者がズイッとベットを降りて煉紅郎の眼前に躍り出た。


「何を言っているんだ貴様は!?いいか!今、貴様の目の前にはなぁ、自分を殺そうとした奴がいるんだ。そいつは抵抗できない状態で、何故殺さない!」

「だから、それは殺す理由じゃねぇだろうって・・・そうだ名前」

「はぁ?」

「だから、君の名前?まさか、名無しじゃあねぇだろ?」

「ぐっ・・・・・・はぁ~、わかった。俺の名はラシュナートだ」

「ラシュナート・・・家の名か?」

「いや、家族と言える者は疾うの昔に居なくなったよ。だから、今は、唯のラシュナートだ」

「ふ~ん。じゃあ次は、依頼主の事を教えてもらえるか?」


 煉紅郎の問いかけの返答は別の方向から帰ってきた。


「マダラメ、それは無理な話じゃ」

「なんで?」

「きっとこやつは、暗殺者ギルドの者じゃそうじゃろ?」

「ああ」

「暗殺者ギルドは存在する筈の無いギルドなんじゃ。簡単に言ってしまえば闇ギルドじゃよ。闇ギルドはいくつかあってのぉ、他人に恨みを持っている者はおるし、欲の皮の突っ張った者もおる。国や街が主体で闇ギルドの壊滅の為、行動するんじゃが、いつもトカゲの尻尾切りよ。それに闇ギルドの依頼書は他のギルドと違ってのぉ、依頼主の事はそのギルドマスター以外知りえんのじゃよ」

「じゃあこいつは、何処の誰とも知れない奴からの依頼を受けて人を殺すのか・・・凄い世界だ・・・」

「まぁ、そんな所じゃな」

「・・・俺を殺すか?」

「いや、お前さんの事情を知っても殺す理由には・・・」

「馬鹿か貴様は!」

「・・・馬鹿はお前だ。ラシュナート、お前が死んだとしよう。その死体を捨てたとしたら、その死体を暗殺者ギルドの奴が見つけたとすると次の奴が直ぐに送られてくる。んで、そいつを返り討ちにして、次の奴が来て、返り討ちにして、また次の奴が・・・って事になる。だからお前は殺さない。もし、殺して死体を隠したとしても連絡が無い奴が生きてるとは思わないだろ?そう考えたギルドは別の暗殺者を送ってまたさっきと同じ展開になる。だから絶対にラシュナート、お前は殺さない」

「なっ・・・」


 ラシュナートは煉紅郎の考えに感服していた。それは、全く持ってその通りだったからである。ギルドの考えとしてはギルドマスターが暗殺者を選考し向かわせる。暗殺対象者が生存し、向かった暗殺者が一定日数ギルドに連絡もせず、姿を見せない場合、次の暗殺者を向かわせる。

暗殺を取りやめる方法は、依頼者を依頼の取り止めを申し出た時とギルドマスターが暗殺不能を決定した時の二つしかない。煉紅郎の言葉からは後者を狙っている様に思える。


(なんて事を考えてるんだ。情報によれば、こいつはつい数日前にココに来た異世界人のはずだ。じゃあなんでこいつは、ギルドの仕組みを知っているんだ・・・)

「じゃあ、あんたは俺をどうする気だ」

「う~ん、それは・・・」


 その時、部屋の扉を叩く音が会話を止めに入ってきた。煉紅郎はノックに答え、入るように促すとゆっくりと扉が開き其処には、頭や腕に包帯を巻いたシャルルとシャルルを支える様に側に寄り添って立っているカルメンが居た。



次話は来週火曜日正午頃になります。

誤字脱字とう御座いましたら御一報ください。

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