#3 子猫の過去と今
投稿が遅れてすいません。
一昨日には予約していたのですが、失敗したらしく・・・申し訳ありませんでした。
部屋にやって来たエルミシリアは謁見の時の様な絢爛なドレスではなく落ち着いた青色のドレスを身に纏っていた。
「失礼いたします。レンクロウ様」
「ニャ!?エルミシリア様ニャ」
「姫様か、如何した?」
「ちょっとお話が・・・」
「あっ、ご主人様、夕餉を持ってきますニャ」
そういって猫メイドが部屋を出て行くと王女はそんな彼女の姿を見て口元を押さえながら上品に微笑んだ。
「彼女に好かれたのですね」
「そうみたいだ」
「彼女達、子猫族は主人と決めた方には普通以上に献身的になりますから」
「似たような事、アイツも言ってたな。すまない。椅子が無くてな、ベットでよければ座ってくれ」
「お気遣いありがとう御座います。でも、このままで大丈夫です。それよりその格好は如何なさったのですか」
「ん?あぁこれか午後にちょっとな・・・」
「明日の朝に新しいお召し物を持って来させますので、そちらを着てください」
「そんな事、別にコレでも・・・」
「いいえ、レンクロウ様は、私が無理やりに此方の世界に来ていただいた方、便宜を図るの当たり前です。なので、お気になさらないでください」
「そうか、解った。で、何の様だ?」
「はい、実は召喚の儀式の内容についてなのですが・・・」
「如何した?」
エルミシリアは口にするのを躊躇ったのか口を閉ざしていたが、暫くして口を開き語りだした。その内容は煉紅郎にとっては予期はしていたが、聞きたくない事実であった。
「・・・実は・・・儀式の記述には、勇者・・・レンクロウ様をこの世界にお呼びする事は書かれていたのですが・・・・・・」
「・・・戻れる方法までは書かれていなかった。っと」
「・・・はい。申し訳ありません。レンクロウ様・・・」
「いや、大丈夫。その可能性は考えてはいたんだ。ただ・・・こう・・・現実に直面すると言葉が出ないな・・・」
俯きながら煉紅郎はそう答えた。苦し紛れの強がりなのは王女にも分かった。
普通に過ごしていた日常から突然、異世界に呼ばれ、勇者と呼ばれ魔人や魔王を倒して欲しいを懇願され、自分の居た世界へは戻れない、そんな事をほぼ一日の間に起こったのだ。自分がそうなったらきっと気でもおかしくなっているに違いない。っと王女は思っていた。
エルミシリアは落ち込む煉紅郎にそっと近づき触れようとするが、彼の手がそれを制す。
「レンクロウ様・・・」
「俺は大丈夫だ。・・・少し、一人にしてくれないか」
「・・・はい、分かりました。何かありましたら何時でも言ってください。私はレンクロウ様の味方ですから、ずっと・・・」
「ありがとう」
王女は煉紅郎を心配し名残惜しそうに部屋を後にする。
王女と入れ違いで猫メイドが料理を載せた盆を手に部屋に入ってきた。
盆には白パン、野菜のスープ、煮物の様な肉、フルーツである。
「ご主人様、お待たせしましたニャ。夕餉ですニャ。」
「あぁ」
煉紅郎はそう言うと盆を受け取りベットに腰掛け膝に盆を乗せ食事に取り掛かろうとするが、フォークで肉を弄るだけで一向に食が進んでいなかった。
「・・・ご主人様、お腹空いてないんですかニャ?・・・ニャ!?大丈夫ですか!ご主人様!」
「えっ・・・」
シャルルに言われて初めて気づいた。煉紅郎の頬に一筋の雫が零れ落ちていた事に、心配そうに顔を覗く彼女の優しさに再び涙を流しそうになる煉紅郎であったが、そんな気持ちをグッと堪え「大丈夫だ。ありがとう」と優しくシャルルの頭を撫で、食事に取り掛かるのであった。
シャルルは優しく撫でられ気持ち良さそうに目を細めて、夕餉をとる煉紅郎を眺める。
少しすると煉紅郎の手が止まり、シャルルの食事の事を聞き、「主人の食事が終わってからとる」と聞くと「一緒に食べるから持って来い」と言い放ちシャルルを廊下に押し出した。追い出されたシャルルはというと、侍女が主人と一緒に食卓を囲むなどありえないと教えられていた為、廊下に出された時は多少面食らったが、昔、城に買われるずっと前、家族と暮らしていた時の事を思い出す。
シャルルは子猫族で、子猫族は小柄で猫の様な体躯をしている種族である。家政婦や物運びなど他者に尽くす行為が大好きな種族で成人した子猫族の大半は里を出て仕える人物や家を求めて旅出るのである。その旅も簡単ではない、魔物の生息している地域や進むのに危険な地域を通らねばならない。魔物や賊に襲われ命を落とす事も少なくないが、子猫族は自分が使えるべき主人に出会う為に旅に出るのである。しかし、シャルルは違った。
シャルルは成人を迎えても里を出る事は無かった。両親やまだ小さい弟や妹の面倒を見るため里に残ったのだ。時より夢に出てくるまだ見ぬ主人に思いを馳せる事もありはしたが、その夢は弟妹達に託し、自分は里で慎ましく過していくつもりであった。
そんな思いもある日突然壊れるのであった。
里にシャルルが残り、数ヶ月経ったある日の事、里に盗賊が姿を現したのだ。盗賊は人間と亜人が入り混じった集団であった。盗賊の目的は若い子猫族の捕獲であった。
子猫族はその家政に長けた能力もさる事ながら、見た目の愛くるしさから愛玩用としても王族や貴族に人気があるが、子猫族の主人は自分で決めた者のみで金銭では雇われないという、主従に対する気位の高さの為、手に入れたくても出来ない王族や貴族は多く、その多くの者達の願望を叶えられる方法がただ一つ、それが奴隷の購入である。
この世界「ポルモル」において、奴隷となる方法は幾つか存在する。
一つ目は、借金の支払い支払いが不可能になってしまった場合である。この場合、奴隷商に身売りしその金額を貸主に返済するという。借金返済の為の方法である。二つ目は、民族間や国家間で起きた戦争における敗戦の賠償金の支払いで相手が人による代替や減額に応じられなかった時、奴隷商への身売りの代金で賠償金にあてるという方法である。三つ目の方法は、闇ルートでの売買である、盗賊や山賊などに襲撃を受け捕まり、本人の意思の有無に関係なく奴隷商へ売られてしまい奴隷になってしまうという方法である。
その他には、寒村の貧しい人々は家族の中で若く働ける少年少女を奴隷商に売り、金にし、食い繋ぐという事が稀にあるが、「ポルモル」における奴隷の殆どは敗戦奴隷が殆どを占めているのである。
シャルルの里を襲った盗賊は年老いた者や金になりそうに無い者と金になる若い者や働けそうな者を縄で縛り選り分けるだけで、里に押し入った時こそ剣を振りかざし脅しかけたりはしたが、里を掌握した今、無闇に乱暴な事はしなかった。大人達は、それが気がかりだった。
そして、その悪い予想が的中してしまうのであった。
里中の子猫族を集め、選り分けが済んだのか賊の中から一人大柄な男が出て来て何か呟いた。次の瞬間、子猫族の首が飛んだ。シャルルが覚えているのはココまでだった。
その時の現場を説明する適した言葉は『阿鼻叫喚の地獄絵図』
悲鳴が響き渡り、子猫族の子供達は、泣き叫びながら逃げようともがく者、シャルルの様に気を失う者などが出ている。盗賊達はそれをニヤついた顔で眺めながら、不要な子猫族を惨殺してゆく・・・
シャルルが気がついたのは、奴隷商に売られる為、荷車に乗せられた檻に閉じ込められ、里から離れて行く所だった。彼女の周りには沢山の子猫族の子供達がいた。檻の中からでも里を眺める事が出来て、里の有様は酷いものだ。離れた場所からでも解るほどに・・・
それからの出来事は彼女からすればあっという間の出来事だった。
奴隷商に売られ、身包みを剥がされ健康状態と処女の有無を検査され、ボロボロの服とも呼べない代物を着させられて牢屋と何ら変わらない複数の部屋に子猫族はバラバラに分けられた。シャルルは一人で他の亜人達のいる部屋に入れられた。
シャルルは自分の身に起きた不幸を呪ったが、実際の所は幾つかの幸運に恵まれていたのだ。
先ずは、盗賊の中に子猫族の年齢をある程度見極める事が出来る者がいたことだ。亜人と言う種族の中には獣に近い姿をしている種族も少なくは無い、子猫族もその一つであった。その者のおかげと言うべきか、シャルルは生き残る事が出来た。
次は、家族や里の仲間が殺されてゆくのを気を失って見ていなかった事だ。見ていた者の中には心を壊し、口が利けなくなってしまった者もいた。
そして彼女が処女であった事もまた幸運であったと言える。そのおかげで清潔とまではいかないが、まだ小奇麗な部屋に入れられた。コレはシャルルが幼さの無い若さの処女、つまり、性奴隷としても価値があるという奴隷商側の考えであった。
最後は、バルボドッサ・メーラの存在であった。彼は、「勇者の側仕えは亜人が良いのではないか?」っと国王に進言した事により、バルボドッサは勇者の側使えの選定を任されたのだ。彼は候補者を選出する為、様々な選出基準で篩いにかけると王宮には居なかった。聡明な老翁の目は城下に向いた。王都や近隣の村々にも出向いたが中々見つからなかった。そして、奴隷商へ、シャルルを見つけたのだ。
そうして、奴隷商の下にやって来て数日も経たずに彼女は城に召し抱えられ、侍女としての教育を受け、勇者の側使え侍女となった。
シャルルは自分の食事を持って部屋に戻ると煉紅郎は食事の手を止めて待っていた。
「ご主人様食べててくださっても良かったのニャ」
「いや、一人で食べるのは侘しいからな」
「そんニャ・・・」
そう言うシャルルは、眼を潤ませ、耳はペタンと倒れ、尻尾はダラリと垂れ下がっていた。
「ほら、こっち」
煉紅郎は自分の隣をポンポンと手で叩き座るように促した。
「そんニャ!シャルは床で十分ですニャ」
「じゃあ、俺も床に座るよ」
「ダメですニャ。ご主人様は座ってて下さいニャ」
「それじゃあ、シャルもこっちに座らないと」
「でも・・・」
「良いから・・・じゃあ、ご主人様からの命令だ。こっちで食べるぞ」
「・・・しょうがないご主人様だニャ~」
そう言いながらもシャルルの顔は綻んでいた。
そして、シャルルと煉紅郎は、二人で夕食を取り、今日あった事を話し合ったりもした。そうして時間が過ぎ二人はいつの間にか眠ってしまった。
シャルルの寝顔はとても楽しげで安らかだった。
「うーーーん」
日が昇る少し前、シャルルが目を覚ましたのは煉紅郎と一緒のベットの上だった。
「・・・・・・ニャ!」
自分の置かれた状況に驚き声を上げそうになった自分の口を抑え、ゆっくりとベットを下りて手早く身形を整え部屋から出て行こうとした時、ふと煉紅郎の寝顔が目に入った。静かに寝息をたてている顔に一筋の線があった。シャルルはそれを見つけてどうにも表現できない気持ちになりとてももどかしい気持ちになりながらも部屋を後にする。
メイドの朝は早い、主人よりも早く起きて、朝餉と朝の身支度の準備を始めるのが、シャルルの朝起きてする仕事である。今は、城の中の一室に住んでいる為、勇者の側使えの彼女の仕事量は他の侍女の仕事量程ではない。食事の支度と給仕、身支度の手伝い、部屋の掃除、洗濯、それ位であった。
シャルルが城の調理場に着くと其処には既に数人の侍女と料理人が動き回っていた。
「おはよう御座いますニャ!」
「おう!シャルルちゃんは今日も元気だね」
「はいニャ!シャルは今日も元気いっぱいニャ!」
「そうね。ココに来た頃はオドオドしちゃって大丈夫かしらって思ってたのよ」
「う~それは言わないで欲しいニャ~」
「やっぱり子猫族って可愛いわよね。癒されるわ」
「そうね」
シャルルが挨拶をすると調理場に居た料理人や侍女がそれを返した。彼等もプロだ。挨拶や話をしながらも自分の仕事の手を弛める事は無く、シャルルもその流れに乗って自分の主人の為、朝餉の準備をし始めた。準備と言っても、城にはお抱えの料理人が常駐しているので彼女達メイドの仕事は食事に使う食器を出し、焼きたてのパンを籠に乗せ、紅茶を淹れて、水差しを用意するぐらいだ。調理場に居ない者は主人の身支度の準備や朝の掃除などをしている。
「シャルル」
「あっ、ミエルちゃん。おはようニャ」
「うん、おはよう。シャルル」
「なんニャ」
ミエルと呼ばれた侍女は、ニンマリした表情のままシャルルに近づいて行く。
ミエルはシャルルと同室のメイドの1人だ。この城には国王の家族以外にも多くの侍女や使用人、騎士が住んでいる。騎士達は王都の巡回や城の警備など昼夜を問わず行なっている為、各騎士団ごとの宿舎が割り当てられている。侍女や使用人は四人から六人で一部屋を与えられ、暮らしている。シャルルと同室の者は全員が亜人で有り奴隷である。
だが、彼女達はこの事を不運だとは思っていない。なぜなら、城の中でしっかりと仕事をしていれば滅多な事で被虐的な目に遭う事は無かったからだ。
この国が亜人に友好な国であっても、差別意識の有る者が居ないと言えば嘘になる。だが、この事は王の意向でもある為、いくら亜人や奴隷が嫌いでも差別的な事をしてしまえば自分の人生を棒に振ってしまう為、態々そんな事をする馬鹿はそう入る訳が無い。
ミエルは猫人族で子猫族と近しい種族である。猫人族は身長は人間のそれとそう変わらないが、猫に似た体躯を持ち、尻尾は年齢によって数が違いそれによって有る程度の歳が解る。ミエルは二本の尻尾を持っている。子猫族と猫人族の違いが大きく出るのは身長や身体つきでは無く顔である。猫人族は人間に近い、人の顔に猫耳や体毛、髭が生えている。
そのミエルがニンマリとした表情を崩さずシャルルの肩を掴み顔を寄せる。
「で?」
「な、なんニャ?」
「う~ん。寂しかったな~、どうして昨日、部屋に戻ってこなかったの?」
「にゃ!?」
調理場がピタッと一瞬で静まり返った。
そして・・・
「え~なになに!シャルルって勇者様の側使えよね!」
「じゃあじゃあ、部屋に戻らなかったって事は・・・」
「「キャーー!」」
「そうか~そうか~」
「シャルルちゃん・・・良かったな」
などなど怒涛の様に質問や祝福の声をかけられる。
そんな喧騒を破るように声が響く。
「何をしているのですか?」
「「あっ・・・マグナカル様」」
「仕事はどうしました?」
「「はい、今すぐ戻ります!!」」
そう言うとメイド達はすぐさま自分の仕事に戻った。
先程の声の主・マグナカルは、城のメイド長を長い間勤めている。城の中でも古参の分類になる。使用人や侍女達からは恐れられる存在で、騎士達も怒らせる様な事はしない様にする暗黙の誓いが在るほどの威圧感がある。
「どうしました?シャルル」
「ニャ!おはよう御座いますニャ!マグナカルさん」
「はい、おはよう御座います。シャルル、貴方も早く仕事に戻りなさい。もう少ししたら勇者様が御目覚めになられるかもしれませんよ」
「はいニャ!失礼しますニャ!」
「それと、これはエルミシリア様から勇者様に着ていただく様にとお預かりしたお召し物です。シャルル、貴方が持っていきなさい」
「はいニャ!ありがとう御座いますニャ!」
シャルルはペコリとお辞儀をするとそそくさと煉紅郎の食事と衣服を配膳車に載せると調理場を後にした。
マグナカルは彼女の後姿を眺め、ゆっくりと息を漏らした。
「どうしたんですか?マグナカル様?」
「いえ、勇者様と御会いしてから一段と明るくなったと思いましてねぇ。ココに来た時はあんなにオドオドした子猫みたいな子で、勇者様と御会いする前の日なんか・・・」
「そうそう、同室の子や仲の良い子に不安な顔しているのを慰められてましたね」
「えぇ、一ヶ月ほどの付き合いでしたけど嬉しいものですねぇ」
「はい」
「・・・あなた、仕事はどうしました?」
「・・・やってまいります」
そそくさと自分の仕事に戻って行く侍女の背中をジッと見詰め再び可愛らしい子猫の侍女の去った方に視線を向け緩やかに微笑んだマグナカルであった。
タイトルでネタバレしていましたが、猫メイドことシャルル嬢回でした。
子猫族って自分の中では需要があると思うのですが、世間一般としては同なのだろう?
では、次話は来週火曜日正午になります。
誤字脱字とう御座いましたら御一報ください。
次は確り確認して失敗しないようにします。