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≠勇者  作者: 単参院 涼
3/24

#2 身体機能の確認

 国王との謁見の後、煉紅郎はバルボドッサに連れられ身体測定をするため訓練所の入り口までやって来た。


「マダラメ、着いたぞ」

「此処か、バル爺、唐突でなんだが・・・」

「なんじゃ?」

「何であんたは、俺を苗字で呼ぶんだ?」

「それじゃあ、お前さんはわしの事をバル爺と何故呼ぶ?」

「質問の答えになってない」

「いいから」

「初対面の時、姫さんがそう呼んだからだ。フルネームは後で知ったからな」


 老人は、そうかそうか、と嬉しそうに髭を摩りながら微笑んだ。


「俺の問いには答えないのか」

「ふふふ、勇者も様付けも嫌いなら名を呼ぶしかない。わしは職業柄、貴族と会う機会が多いのでの、自然と家名で呼ぶのが癖みたいなものじゃよ。気に障ったかの?」

「いや、堅苦しくない呼ばれ方をされたんで驚いただけだ」

「そうか。ほれ、入るぞ」


 そう言い、老人は歩み始め入り口を潜ると直ぐに彼を呼ぶ声がする。その方へ顔を向けると女性が一人やって来た。

 女性は赤毛のショートヘアーとツリ目がちの瞳のせいか勝気さが目立つ顔立ちをしている。プレートアーマーを身に着けて居る所から彼女は騎士の一人の様だ。


「バルボドッサ殿、この様な所へ如何されました?」

「これはこれは、デリュー殿。どれ、こちらの勇者様が運動の出来る場所に行かれたいと申されたので此方へ参ったしだいで」


 そうバルボドッサが答えると女騎士は「そうでしたか」と答え、ジッと煉紅郎の顔を見つめる。煉紅郎は、その視線がむず痒く感じたのか首をポリポリと掻きながら訓練場の中を眺めて見た。

 訓練場は広く、端の方には弓兵用なのであろう矢の刺さった的や木人、今も多くの兵が訓練をしている。剣に槍、はたまた戦斧が入り乱れて一対一で乱取りをしている。もちろん各々が手にしている得物は木製のモノである。

 煉紅郎がぼんやりと訓練を眺めていると不意に女騎士が話しかけてきた。


「貴様が異世界から来たという勇者、レンクロウ・マダラメか。私はマリオン・デリュー、王国騎士団第三師団師団長の任に就いている」

「よろしく」

「バルボドッサ殿、よろしければ此処は私に任せて、バルボドッサ殿は少しお休みください」

「ん?そうかの、そうさせてもらうかの。よろしいか勇者様?」

「俺は構わん。それとバル爺」

「何ですかの?」

「俺を勇者と呼ぶな。それに様もいらん。」


 バルボドッサは、そうじゃった、そうじゃった。と髭を撫で笑いながらしばらくしたら戻る事を言い残し訓練場を後にする。


「貴様」

「ん?」

「それで、何がしたいのだ?ここは今、第三師団が訓練に使っているのだ。邪魔はされたくない。少しは場所を空けてやる、どれぐらい必要だ?」

「んーそうだな、走れれば・・・」

「ふっ、走る?馬鹿が、早死にする気か貴様は?」


 女騎士は煉紅郎を馬鹿にした様に笑い出した。あぁ、そうだった、そうだった。と煉紅郎は思い出していた。この世界の世界観は、中世ヨーロッパの時代に似ている所がある。女騎士が笑った事もそうだ。この世界では運動というものは訓練と同義語である。訓練は木剣などでの素振りや乱取り、投擲での的当て程度である。筋力トレーニングなどは考えた事も無いのであろう。体力測定なんてのも無いのかもしれない、バル爺は何も言わなかったが、それも煉紅郎の世界の言葉として認識しての事なのだろう。兎にも角にもやる事をやらねば話が進ま無い事は事実であった。


「笑うのは結構だが、場所は空けてくれるのか?」

「ふん。第三師団には弓兵は在籍しておらん。其処の的の傍でやればよかろう」

「すまない」


 女騎士は「我々の邪魔だけはするな」と言って訓練中の騎士達のもとへ去っていった。

 一人残された煉紅郎は上着を木人に掛け、ストレッチを始め、測定をし始める。



 それから数時間が経ち、日が暮れ空が青から赤に変わりだした頃にバルボドッサが訓練場に戻ってきて回りを見渡すが其処には誰一人居なかった。困惑している老人に声がかかる。


「あれ?バル爺どうしたの?こんな所で」

「おおぉ、アリステリア様、いやはや此処に居る筈の勇者様の姿が見えんのですじゃ」

「何ですって!逃げたのね!」

「いや、勇者様が運動をしたいと申され、この訓練場までわしがお連れしたんじゃが、そういうことにはわしは苦手ゆえ、ちょうど第三師団の皆様が訓練をして居られて、デリュー殿の申し出もあったので任せて席を外していたのですじゃ」

「マリーの事だから任された事をほっぽって別の事をするなんて事はしないと思うけど・・・」

「一体何処に行かれたのかのぉ?」


 バルボドッサが途方にくれていると突然、地鳴りの様な音と怒声に似た雄たけびが聞こえたと思ったら、訓練場の壁を乗り越え二人の前に姿を現す者が現れた。


「勇者様!」

「バル爺、勇者って呼ぶなって」


 転がりながら地面に着いた煉紅郎はバルボドッサに文句を言いながら身なりを整えながら立ち上がり二人のもとに近寄る。

 アリステリアは怪訝そうに煉紅郎を見つめている。昼前に謁見の間で見た時から半日過ぎたか位の時間しか経っていないのに煉紅郎の姿はガラリと変わってしまっていた。煤や埃で汚れた頭や顔、至る所が破れ土汚れが付いたワイシャツ、そのワイシャツから覗く擦り傷や切り傷の出来た素肌、ボロボロの靴とパンツ、浮浪者の様だと彼女は思い嫌悪感が出てくる。

 自身の尊敬する姉が決死の思い出呼び出した勇者が騎士団の男達よりも細く頼りない風貌でその上、口が悪いと来ているのだ。


「一体あんた、何をして・・・」


 妹姫が煉紅郎に問いただそうとした時、今度はドタドタと訓練場の入り口から大勢の騎士団の制服を来た男女が入ってきた。

 膝に手を付き肩で息をしているデリューとその隣には短く切り揃えた金髪が普段なら眩しく輝いている所だが今は、木屑や砂埃に塗れ、鎧も同じ様に汚れてしまった男が居た。デリューや他の騎士達も同じ様の有り様であった。


「コレは・・・」

「貴様!やっと追い詰めたぞ!観念しろ!」

「はぁはぁはぁ」

「一体どういう事!マリー、デズモンド、どちらでも良いから説明なさい!」

「これは姫様、この様な所へどうされました?」

「デズモンド、そんな事は良いから説明なさい」

「はっ!」


 デズモンドと呼ばれた騎士は事の経緯を語りだした。

 事の原因は煉紅郎で、始め煉紅郎はデリュー率いる第三騎士団と一緒にこの訓練場に居たのだ。デリュー曰、煉紅郎は変な動きをしたと思ったら急に走り出し、しばらくすると走るのを止め、足元にあった手頃な石を手にすると訓練場の端に行き、反対側の端に向かって投げると何かブツブツ呟くとまた変な動きをし疼くまった。っと思ったら走り出し訓練場の壁を乗り越え外に出て行ってしまった。デリューはバルボドッサに任せてくれと言った以上、煉紅郎をそのままにしておけず後を追い出した。師団長であるデリューが後を追ったので他の兵士達も後を追ったのだ。煉紅郎は城の敷地内を走り回り、乗り越え、飛び越えている中にデズモンド率いる第四騎士団の目に留まり、デズモンド達の制止も聞かずに走り続け、現在に至ると言う事らしい。


「あぁ、それは悪い事をした。すまない」


 デズモンドの話を聞いた煉紅郎はすぐさま謝罪の言葉を口にした。


「なんで、お主はそんな事をしたんじゃ?」

「自分が何処まで出来るか知りたくてな」

「では、何故静止を聞かなかったんじゃ?」

「一番初めに壁を乗り越えた所で楽しくなって、それからはどんな事が出来るか試したくなって、試している内に集中し始めたんだろう。気付かなかった」

「あんたねぇ」

「なんで一国の姫がこんな所に居るんだ?」

「あんたには関係ないでしょ!マリーを探してたのよ!マリー行くわよ!」


 妹姫はそう言うと踵を返し城の方へ歩き出し、女騎士も慌てながらもそれに続いて行く。

 デズモンドは両手を腰に当て煉紅郎を睨んでいる。


「デズモンド?って言ったっけ、改めて謝るよ。今回の事は俺の落ち度だ。すまなかった」

「ふん。なるほど。粗暴な口を利く割りには最低限の礼節は知っているようだ。俺の名はデズモンド・リード。王国騎士団第四師団師団長をしている」

「そうか、俺は・・・」

「知っている。レンクロウ・マダラメ。今日の王との謁見の際、俺もその場に居た」

「そうか」

「ふん!俺は貴様なんぞに期待などしていない。この国の平和を守るのは俺達、王国騎士団なのだからな」


 そう言うとデズモンドは立ち去り、騎士団の面々も各々デズモンドの後や自分の持ち場へ向かい解散して行く。

 煉紅郎は木人に引っ掛けた上着を取ってバルボドッサの傍に来ると草臥れた様にその場に腰を下ろした。そんな煉紅郎をバルボドッサは不思議なものを見る様な視線を向ける。


「何だ?バル爺」

「ん?」

「何か言いたげだからさ」

「それじゃあ、良いかの?一体何がしたかったんじゃ?城中を走り回ったと聞いたがお主の事じゃ、何か意味があったんじゃろう?」

「う~ん。バル爺にはお見通しか」

「で、一体どうしたんじゃ?」

「簡単に言えば、城の事を知りたかったってのが一番で自分の運動能力が解れば良いと思っていたんだが、もっと良い事が解ったんだ」

「何じゃ?」

「神からの加護とやらだ」

「解ったのか?」

「あぁ、俺の能力はきっと、瞬間記憶能力だ」

「瞬間記憶?」

「一瞬で見たものを全て記憶できるって事だ」

「ほう。何で解ったんじゃ?」

「走り回ってた時に敷地の地図が頭の中に出来上がっていく感覚があったんだ。前の世界では無かった事だし、昨日の今日でこの城の事が解るはず無いだろう?」

「そうじゃな」

「問題はコレが戦闘に殆ど意味をなさないって事だな・・・」

「じゃな・・・ん?」


 老人は男が徐に取り出した煙草箱に目を奪われた。


「マダラメ、それは何じゃ?」

「ん?コレ?・・・煙草。この世界には無いのか?」

「いや煙草はあるが、そんな小さい箱の中に入っておるのか?一番小さい葉巻でももう少し大きい箱に入っておるし、パイプは見当たらんし、巻煙草にしては巻紙はどうした?」

「葉巻にパイプに巻煙草か・・・う~ん、見せた方が早いな。ほれ」


 煉紅郎は煙草箱を開けてバルボドッサに見せて見せた。老人は関心しながらそれを見ていたので、煉紅郎は一本取って老人に手渡した。


「ほう。これは面白いのう。この白いのは何じゃ?」

「それはフィルターって言って、煙を濾過して人体に有害な成分を減らしてくれるものだ」

「ほう、そんなものがあるのかの」

「吸ってみるかい?」

「いいのかの?」

「ああ、構わんさ」

「では頂くかの」


 煉紅郎は上着のポケットを探りライターを取り出し煙草に火を点ける。ライターにも異様な視線を向けるバルボドッサであるが、ライターの仕組みを聞くと深く感心し見よう見まねで煙草に火を点ける。

 夕焼け空の下、二人の男は暫くの間、無言のまま紫煙を潜らせ夕日を眺めていた。

 夕暮れの中で煙草を吸った煉紅郎とバルボドッサの二人は、煉紅郎の部屋へ向かいながら明日の予定について相談しながら歩みを進めている所だった。煉紅郎は書物を読みこの世界について知りたいとバルボドッサに申し出てたが、バルボッサは煉紅郎の魔力を測定する事を進めてきた。


「魔力・・・かぁ・・・」

「魔力の量と質は、今後の行動にきっと大きく影響してくるはずじゃて。わしが準備しておくから明日、検査を受けるが良いぞ。それが済んだら城の書庫に案内してやるからそんな心配そうな顔をしなくて良いぞ」

「別にそんな顔はしてない」

「そうかのぉ~」

「あぁ、ただ・・・」

「ただ、なんじゃて?」

「ただ、異世界に着たんだと言う実感が徐々にしてきてね」

「ほう」


 煉紅郎は自身の生い立ちをポツリポツリとバルボドッサに語りだした。

 生まれて間も無く病気に罹り生死を彷徨った事、五歳の誕生日の翌日に両親が事故死し、祖父母の元で育った事、その事でからかわれて良く喧嘩をした事、その頃からカッとなり易く、態度に出て、口が悪くなり始めた事、その事で担任教師や周囲の大人から小言の様に治すように言われ続けた事、そんな中、祖父母だけは何も言わず優しくしてくれた事、他にも学生時代の事や専攻の民俗学の事など話した。特にこの世界に召喚される前の数日間の話は特に細かくバルボドッサに語った。

 バルボドッサは特に優しく、時に驚いたように話を挟む事無く錬紅郎の話を聞いていた。


「・・・で、気がついたらこの世界に来てた。っというわけだ」

「ほう。そいつは良い人生を歩んでおったのぉ」

「バル爺はそう思うのかい?」

「うむ。わしはそう思うのぉ、その人生を歩んで今のお前さんが居るんじゃから、良い人生じゃろ?」

「ふっ、そうかもしれないな。バル爺、明日の検査の件、よろしく頼むよ」

「えぇて、えぇて、わしはただやりたい事をしとるだけじゃ、お前さんの為になるんじゃったら何だって手伝ってやるわいて」

「ありがとう。しかし、どうしてそんなに親切にしてくれるんだ?俺が勇者として呼ばれたからか?」

「ん?いや、わしはお前さんが気に入っただけじゃよ。それじゃあのぉ」


 そういってバル爺はふぉふぉふぉっと笑いながら錬紅郎の前から去っていった。いつの間にか部屋の前に辿り着いていたようだ。

 部屋の中に入ると其処には既に猫メイドのシャルルが居た。いや、居たという表現は少し違う、ベットの上で丸まって寝ている。


「・・・・・・」

「う~ん、ウニャムニャ・・・」

「・・・・・・」


 幸せそうに寝ている猫メイドを見て言われぬ苛立ちが心に起こり、無言のままベットの縁を蹴った。

 猫メイドは蹴られた振動でビク!っと身体を震わせるとカッと目を見開き錬紅郎を見つめる。

 暫くの間、静寂が部屋を包んだが、猫メイドが身を起こし、お仕着せを整えながらベットから降り、錬紅郎の前に立った。


「お帰りなさいませ。レンクロウ様」

「何でここに居るんだ?」

「今朝方、私はレンクロウ様専属となったと申し上げました通り、レンクロウ様が部屋から出ていらっしゃる間、部屋のお掃除をしておりました!」


 確かに部屋の中は塵一つ落ちていない程綺麗になっていた。朝、部屋を出る時に放り出してそのままだったコートが持ち込んだであろうコート掛けに綺麗に掛けてある。


「そうだったのか、ありがとう。でも、これからはそんなことしなくても良い」

「えっ・・・・・・」


 錬紅郎の感謝ながらの言葉に猫メイドは驚き絶句し硬直してしまった。


「おい・・・」


 錬紅郎が心配して声を掛けると猫メイドが捲くし立てる様に話し出した。


「レンクロウ様、何か至らないところがありましたか!?」

「えっいや・・・」

「はっ!まだ汚れている所が・・・いや、ランプの位置をずらしてしまったし・・・でも、ベットで寝ていたのが気に入らなかったのかも・・・いいえきっと、勝手にお召し物を触ってしまったから・・・あっ・・・もしかして!コートの匂いを嗅いだ事を知って気に障って・・・」

「おい」

「レンクロウ様、至らない所は精進して直しますのでどうかクビにしないで下さい!!」

「はぁ?」

「レンクロウ様にクビにされたらきっと此処には居れません。どうかクビだけは!」

「話を聞け!」

「レンクロウ様・・・」


 錬紅郎に名前を呼ばれたところでシャルルは冷静さを取り戻し、シュンとなって錬紅郎の顔を見ている。


「俺は別にシャルルの仕事に文句は無い」

「ではどうして!?」

「最後まで話を聞け、明日まで此処に居るが明日以降どうなるかは俺自身でさえ分からない。もしかしたら出て行くかも知れない。そしたら、君は元の仕事に戻るだけなんだからそんなに俺に尽くさなくても良いんだよ。別に俺は部屋が汚れてても気にならないし・・・」

「元の仕事なんてありませんニャ・・・」

「ん?」

「シャルは亜人奴隷で、子猫族と言う事でレンクロウ様のメイドとして買われたんですニャ。そんニャ、レンクロウ様に必要とされなくなったらシャルは奴隷商の元に返されるか売れる事になるニャ。今度はどんな所に買われるか分からないニャ。きっと変態に買われるんだニャ。そして、ヤラシイ事を毎日毎日され続けて死ぬんだニャ~!」


 猫メイドの叫びが部屋の中を響き渡り暫く無言の時間が過ぎた。


「気が済んだか?」

「はいニャ」

「落ち着いたか?」

「はいニャ」


 猫メイドが落ち着いたのを確認したものの錬紅郎は、猫メイドに対してどう対応すべきか考えあぐねいていた。

 きっと猫メイドの言う通り奴隷として買われたのなら、奴隷の生殺与奪権は奴隷の購入者にある。その者に利用価値が無いと見なされれば殺処分もあり得るのかも知れない。今だこの世界の内情を知りえない錬紅郎にはこの程度しか理解しえなかった。


「・・・シャルル」

「はいニャ!」


 猫メイドは声をかけられるとビクッと反応しながらも健気に返事をする。


「うーん、もしも・・・もしも、俺がこの城から出て行くとしたらお前は如何する?」

「そんニャのレンクロウ様に着いて行くに決まってますニャ!」

「そうか・・・なら、これからもよろしく頼む」


 そう言うと錬紅郎は右手を差し出す。シャルルはその手を満面の笑みを浮かべ両手で握り返し元気良く返事をした。猫メイドはその手を解くとそのまま勢い良く錬紅郎の胸に抱き付いた。


「なっ、おい」

「ご主人様ニャ~ご主人様ニャ~」


 抱きつくと言うよりしがみ付いている猫メイドを引き剥がすとするが「ご主人様ニャ~」と言いながら一向に離れようとしない、中々離れようとしない猫メイドの頭を鷲掴みしアイアンクローを決める錬紅郎。


「ギニャ~!いっ痛いニャー」

「良いから離せ」

「離すニャ、はにゃすからはにゃしてにゃ・・・」


 あまりの痛さに呂律が回らなくなったようで必死にもがくシャルル。

 猫メイドが離れた事を確認した錬紅郎は掴んでいたその手を離した。


「痛かったニャ~なんて事するんだニャ?ご主人様」

「そのご主人様ってのは何だ?あと、ニャって何だ?ニャって」

「んニャ?あっ、ご主人様は別の世界から来たんでしたニャ。ご説明いたしますニャ。シャル達、子猫族は他種族に尽くすのが生きがいみたいニャ種族なのですニャ。子猫族はその生涯の中でご主人様を見つけてその人に一生尽くすのニャ。シャルはご主人様がご主人様だって思ったニャ、だから、ご主人様はご主人様なんだニャ。それとニャって言うのは子猫族の方言みたいニャ口癖みたいニャ物だと思ってくださいニャ」

「ん~ん・・・理由は分かった。呼び方は・・・」

「無理ですニャ」

「即答か」

「ハイですニャ、ご主人様の事を別の呼び方ではお呼び出来ませんニャ」

「ん。分かった」

「それじゃあ」


 そう言うと再び錬紅郎に抱き付いたシャルル、良く見ると顔を擦り付けてクンカクンカ匂いを嗅いでいる。そして再びアイアンクローを受ける。


「痛いニャー」

「嗅ぐのを止めたら止めてやる」

「はいニャ・・・」

「うん。・・・さっき、抱きついてた時も匂いを嗅いでたのか?」

「はいニャ。ご主人様はいい匂いがするギニャーーー!!!!痛いニャ!痛いニャ!」

「・・・・・・」


 無言のまま錬紅郎は一度弛めたアイアンクローを強めた。

 それから暫くの間、ニャーニャーと泣き叫ぶ猫メイドに「俺の匂いを嗅ぐな」と言い聞かせているとドアをノックする音が聞こえてくる。錬紅郎は猫メイドを離しノックに答える。

 部屋に入ってきたのは第一王女のエルミシリア・ファルシムであった。



誤字脱字がありましたら御一報頂けると助かります。

次話は来週の火曜日、正午頃を予定しています。

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