#1 異世界のはポルモル
本日二回目の投稿で御座います。
真っ白な光に包まれまどろみの中で煉紅郎は、ふと、ひんやりとした冷たい感触が背中に当るの感じた。そして、恐る恐る瞼を上げると目の前には輝く満天の星空が広がっていた。
「いったい、どうなっ・・・」
「御目覚めになられたのですね。勇者様」
「はっ?」
声のした方に視線を向けると其処には数人の男女が煉紅郎を見下ろしていた。
煉紅郎は寝転んだままの身体を起こし男女の方に身体を向けながら男女の様子を観察した。
女性は三人、金髪のロングヘアに水色の綺麗なドレスを身に纏い大人しい雰囲気を醸し出していた。一人は、金髪のショートで同じく水色の綺麗なドレスを身に纏っていたが勝気な雰囲気を醸している。残りの一人は黒髪ショートにお仕着せを着て二人より三歩ほど後ろにいる。
男性は六人、四人は同じ西洋甲冑を身に纏いフルフェイスの兜を被って腰に剣を差し手に槍を持っている。一人は、四人と同じく西洋甲冑を身に纏っているが、兜は被っておらずその剛性な顔立ちを顕にしている。鎧は四人より豪華な装飾などがしてあり四人より位が上なのが分かる。最後の一人は、深い紺色のローブを纏った老人であった。
金髪ロングの女性が一人前に出て言った。
「ようこそお越しくださいました。勇者様」
「ちょ、ちょっと待て・・・ちょっと・・・色々な事が起こって整理が追いつかん・・・」
「落ち着いてからで構いません。勇者様」
「・・・・・・先ず・・・先ず、此処は何処だ?」
「此処は勇者様の居られた世界とは別の世界、『ポルモル』に存在する国の一つ『プシュケー』の王都「マリンシュカ」の城にある東塔の屋上です」
女性の話を聞きながら煉紅郎は苦い顔をしながら右手で頭を抑え、静かに唸っている。
「勇者様?」
「それだ。その勇者様って言うのはどういう意味だ?」
「貴方にこの世界を救って頂く為に私が召喚したのです。」
「俺が勇者?馬鹿言え」
そう言いながら立ち上がり自身の身なりを確かめてみたが、意識が途切れた時のまま、上下黒のスーツに黒革の靴、黒のロングコートを羽織った姿のままだったが、手にしていたはずの鞄が何処にも見当たらない事に気がつく
「俺の鞄が無い・・・」
「それは、召喚の際にあちらの世界に残されたのだと思います」
「どうして分かる?」
「もともとこの召喚の儀式は勇者様個人を召喚する為のものなのでお召し物ぐらいしか一緒に呼ぶ事が出来ないようです」
「答えが不鮮明だな・・・っというか、何で言語が通じてる?何故あんたらの言葉が分かる?俺の言葉が分かるんだ」
「それは・・・」
「いい加減にせんか貴様!一体誰にそんな口を聞いている!そのお方はプシュケーの第一王女にして姫巫女にならせられるエルミシリア・ファルシム様で在らせられるぞ!」
突然、鎧を着た豪気な男が声を荒ぶらせながら前に出て来た。
「良いのです。ダリオン」
「しかし!」
「良いのです」
「へぇーお姫様か」
「はい、勇者様。この子はアリステリア、私の妹です」
「ふん」
エルミシリアと呼ばれた姫は鎧騎士を制し、自身の妹を紹介した。
アリステリアと紹介された少女は何が気に食わないのか鼻を鳴らしソッポを向き、それを後ろに居た侍女が宥め始めていた。
「その、俺を勇者って呼ぶの止めてくれないか、俺には斑眼煉紅郎って名があるんだ」
「マダラメ様というのですね」
「あぁ、斑眼は家名で煉紅郎が名前だ」
「そうでしたの?申し訳ありません。レンクロウ様」
「あと、様付けも止めてくれ、俺はそんな大そうなもんじゃない」
「そんな・・・」
「話を戻すが、言語が通じるのは何故だ?」
「レンクロウ様、それは、召喚の際に勇者様に齎された加護の力だと思われます」
「加護?」
「はい、この世界の言語は一つです。その言語を理解し会話できる様になるのが加護の一つです」
「加護の一つ?それじゃあ他にもあるのか?」
「はい・・・」
「姫様。もう夜も遅うございますじゃ。それに召喚の儀式を行なったのですぞ。今日のところはお休みくださいませ」
「ですが、バル爺」
バル爺と呼ばれた老人は杖をつきローブのフードから垣間見える顔は白髭を蓄えた好々爺の様に見える。老人は続きエルミシリアに休むようにそくし、この場をお開きにした。王女はもの言いたげな表情をしながらも侍女の促しに従い妹姫と共に塔を降りて行った。鎧騎士は騎士達と共に姉妹姫の護衛として三人の後を追う。
屋上に残ったのは話を中断されて不機嫌なオーラを纏っている煉紅郎と飄々と楽しそうな笑顔のバル爺の二人だけだ。
「それじゃあ、お前さんの部屋に行こうかの」
「あのよぉ」
「なんじゃ?」
「部屋に向かうのは一向に構わないんだが・・・」
「あぁ、聞きたい事は部屋に行くまでの間に答えてやるわい」
「なら良いが・・・」
「それじゃあ、行こうかの」
そう言うと老人は歩みを進め始め、煉紅郎はその後に続いて屋上を後にした。
部屋までの間、老人は煉紅郎の質問に答えてくれた。勇者には召喚時に神からの加護を受け世界に現れる。その加護とは言語通訳、身体機能の向上、個別の特殊能力の三つで最後の特殊能力は自分で探さないとならないらしい。煉紅郎を召喚したのは、最初に話しかけてきた女性、エルミシリア・ファルシム、彼女はこの国の王女にして召喚術が出来る唯一の存在、姫巫女なのだそうだ。隣に居たのが妹姫のアリステリア・ファルシム、大人しい姉とは反対に勝気で活発な性格でいつも侍従達は手を焼いているらしいく老人は苦笑してみせた。煉紅朗の周りに居た甲冑の騎士達は王国騎士団の団員で煉紅郎に怒鳴ったのが王国騎士団団長のダリオン・ダグラム、バル爺の本名はバルボドッサ・メーラ、歴史学者を名乗っているが実の所は国王の相談役といったところで、歴史の研究は個人的な興味から若い頃より密かにしていたらしい、この世界では紙というものは無く羊皮紙がそれを担っている。羊皮紙そのものが高級品で始めの頃は書庫にある本を読み記憶していたらしい、現在は後世に残す事柄が起きた時、書き記し大事にしまっているらしい。この世界の記録があるのは一万年前からで彼の記憶の中では六千年前にこの世界が大規模な戦争が起こり、その戦争を治めたのが勇者なのだそうだ。その時行なわれた召喚の儀式の記述が載った石版が遺跡から発掘され人の目にさらせれる事になった。その記述に法り儀式を行ない煉紅郎を召喚したのだ。この世界は煉紅郎のところで言う剣と魔法の世界、つまりはファンタジーな世界だ。この世界は十の大国と数十の小国で出来ている。十の大国を十大国と呼び世界の中枢を担い隣国の小国をまとている。煉紅郎が降り立ったのは十大国の一つプシュケーである。この世界には人間以外にも種族がおり、その他の種族をまとめて亜人種と呼び多種に亘る。草原を駆ける人馬族、大空を舞う人鳥族や鳥人族、森に棲む白耳長族などが居て人間と共存している。
では、そんな世界に煉紅郎が呼ばれたのかと聴いた所で部屋に到着してしまった。その答えは明日、国王が教えてくれると言いバルボドッサは立ち去っていった。
部屋の中を見回してみる。部屋の中は質素なベットが一つと棚、そしてランプが一つ置いてあるだけであった。光源になる物がランプが一つだけなはずなのに部屋の中はそれ程暗くは無かった。
煉紅郎はベッドにドサッと腰を下ろし、この部屋に居続ける事になるなら部屋の真ん中にもう一つランプを貰って来て吊るすかな、など考えていると自分がこの状況に順応しかけている事にいる事に気付き口角を上げた。
「少しはこの世界の事が解りはしたが、肝心な所はいまだ知れず・・・か。明日、解る事が多ければいいが・・・」
煉紅郎はベットに横になりランプを弄り明かりを消し床に就いた。目を閉じながら煉紅郎は、次に目を開けた時、元の世界に戻っているかもな。なんて事を思っていた。
この日の夜空には満月が三つ煌々と輝きを放ち、この世界に降り立った男の運命を見つめているかのようだった。
煉紅郎が召喚された日の翌日・・・
煉紅郎は、窓辺に居る鳥の囀りで目を覚ますと身体を起こし改めて自分の身なりを確認するとジャケットやコートのポケットから煙草と未開封の煙草が一つづつ、電池の切れたケータイ、オイル残量が残り少ないライター、掌サイズのミニノートと鉛筆が出て来た。それらを並べている時、ふと腕時計に視線がいった。良く見ると針が止まっている。
「電池切れか、召喚された事で壊れたか・・・どちらにせよ。もう使えないな」
そう言うと腕時計を外し一緒に並べた。
それらを眺めているとドアをノックする音がし「失礼します」との声と共にお仕着せを来た女性がトレーに食事を乗せて入ってくる。昨夜、姉妹姫に付いていた侍女だ。良く見ると彼女の後ろにもう一人侍女がいた。
「勇者様、朝餉のをお持ちいたしました」
「君は昨日の・・・」
「はい、昨日の儀式に姫様達の御付きとして居りました。メイドのミリアといいます。この度、勇者様専属のメイドをお連れしました。」
そう言うとメイドは深々と頭を下げ後ろにいた少女を前に出した。
少女は亜人だった。人と言うより二足歩行の猫がお仕着せを着ていると言った方が良いかもしれない。顔立ちも猫寄りというか、アニメの猫みたいで可愛らしい顔をしている。身長は低く錬紅郎の腰より少し高いぐらいである。少女は緊張しているのか腰辺りから生え伸びた尻尾がピンっと天を突いて伸びている。
良く見ると銀色の首輪をしている。
「ゆ、勇者様専属のメイドの命を授かりました。し、シャルルとも、申します。よ、よろしくお願いします」
そう言うと少女は深々と頭を下げた。
「あぁ、よろしく。早速で悪いんだが、その勇者様って言うのは止めてくれないか」
「では何とお呼びすればよろしいですか?」
「煉紅郎で構わないよ」
「解りました。レンクロウ様」
「出来れば『様』も取ってもらえると嬉しいんだが・・・」
「それは出来ません。レンクロウ様は勇者様、私達はメイドでございます。主従の関係は明確にしておかなければなりません」
「確かにその通りだ。俺が悪かった」
「謝る事は御座いません。こちらをお召し上がりください。それとお食事が御済みになられましたら国王との謁見が御座いますので、私が謁見の間までお連れいたします」
メイドはそう言うと煉紅郎の返事を待たず少女を連れて部屋を出て行った。煉紅郎はそれを見送るとケータイと未開封の煙草、壊れた時計をコートに開封済みの煙草とライター、ミニノートと鉛筆をジャケットにそれぞれ仕舞った。
この日の朝餉は、白パンと野菜のスープ、切り分けられた果物であった。白パンはふんわりとして美味しかったが、スープは薄くて味気無かった。果物は酸味が強くグレープフルーツみたいだな。と煉紅郎は思った。
朝食が済みそうな頃合にミリアが丸盆にポットと水差し、カップを乗せて入ってきた。
「レンクロウ様、食後の紅茶になります」
「悪いが水を貰えるか?紅茶は苦手なんだよ」
「そうなのですか?」
「あぁ、香りが苦手でね」
「かしこまりました。ではこちらを」
煉紅郎は差し出された水の入ったカップを受け取り、それを飲み干し、ミリアに連れられ謁見の間へと向かう。
「こちらが謁見の間になります」
「ここで王様に会えるのか?」
「はい」
ミリアは扉をノックし煉紅郎が来た事を告げると内側から扉が開いた。すると、ミリアは煉紅郎に歩みを進める様に則した。
謁見の間に入ると奥の豪華な装飾の椅子に装飾鮮やかな服を着た体格の良い中年の男性が座っていた。その傍らには鮮やかな赤いドレスを着た女性が立っていた。この男女が国王と王妃なのだろう。王妃の反対側に昨日の姉妹姫が居てこちらを見ている。国王の前までの道の両サイドには兜を小脇に抱え顔を晒した騎士達が煉紅郎を値踏みするように見つめている。良く見ると数人だが女性が混じっている。部屋の端の所にバル爺が居るのを見付けた。
「よくぞ参られた勇者、レンクロウ・マダラメよ。我輩はプシュケーの国王、ルアンス・ファルシムである。妻のクリスアリアだ。エルミシリアとアリステリアには昨日あったな」
「はい」
「バルボドッサから聞いたが、勇者よ、貴方をこの世界にお呼びしたのはこの国、いや、この世界に危機が迫っているのだ」
「危機?」
「そう、この世界にはバルブという魔人を誕生させるものがあるのだが、コレは滅多に現れる事が無いのだ。事実、バルボドッサの話によると以前にバルブが現れたのは140年も昔の事なのだ。それがここ数年で十大国の全てに出現したらしいのだ」
「らしい?ちゃんと確認していなのか?」
「あぁ、だが確証はある。各国に魔人が現れたのだ。しかも十大国の一つである『リヴァーン』が魔人の手に落ちたのだ。まだ国の中には少数だが隠れ住んでいる者が居るが、殆どが殺されたか他国に保護されている。そしてこの国にも魔人が現れたのだ。その度に何とか騎士団の力で撃退する事は出来ても被害は増す一方なのだ」
「それじゃあ、俺はその魔人を倒してバルブを破壊しろと?」
「その通りだ。リヴァーンを除く九つの大国の代表が会議を行い各国同日に勇者召喚を執り行う事になったのだ。昨夜、観測していた者によると九つの光の柱が立ったそうだ」
「ん?九つ?この国を入れて九つ?」
「そうであろう」
「陛下」
国王の断言する物言いに隅で控えていたバルボドッサが進言する。
「どうした?バルボドッサ?」
「陛下、その事なのでございますが、観測はこの国を除いてで御座います」
「そうか。で、レンクロウ殿。それがどうかしたのか?問題でもあるのか?」
「大ありだ。さっき話に出たリヴァーンて国も数に入って十人の勇者を召喚した。つまりは、その魔人の治める国に勇者が召喚されたって事だ」
「だから何が問題があるのよ!魔人は魔法は使えても巫女はいないわ」
横で話を聞いていた妹姫アリステリアが食って掛かって来た。
「魔人に巫女がいない確証が本当にあるのか?魔人に組する人間は?もしその人間の中に巫女が居たら?捕虜や奴隷になっている巫女が居ない確証もないだろう?」
「ぐっ・・・それはそうだけど・・・」
「最悪のケースを考えておくべきだ」
「では、やってくれるか!」
「やるべき事はやる。俺が必要で呼ばれたのならそれに答えるべきだからな」
「ならば・・・」
「だが直ぐには行かんよ」
「なぜだ?」
「自分の事が、この世界の事が解らなすぎる。バル爺から少しは聞いたがまだ足らない」
「では、何日必要だ?」
「とりあえず二日、二日の間で如何するか考えて、二日後に答えを出す」
「そうか、バルボドッサ」
「はい」
「二日の間、レンクロウ殿の傍でお前の知りうる限りの知識を使い手伝う事を命じます」
「かしこまりました」
「それでよろしいか?レンクロウ殿」
「ああぁ、それで構わない」
「では、これにてこの度の謁見は終わりとする」
国王の言葉でこの日の謁見がお開きとなり、国王と共に后と姫達が謁見の間を後にする。騎士達も三々五々退散し始めた。煉紅郎のもとに老人がやって来る。
「よろしくの」
「あぁよろしく頼む」
「じゃあ、どうする?」
「今は何時頃だ?」
「そうじゃの、昼の少し前じゃが」
「なら、今日は身体能力の測定がしたい。何処か運動が出来る場所はあるかな?出来れば邪魔が入らない所が良いんだが・・・」
「城の中にはそのような所は無いのう。運動が出来るだけでは駄目かの?」
「我が儘は言えん。そこで頼む」
「それじゃあ、訓練場に向かうかのう」
煉紅郎の返事を待たずバルボドッサは訓練場へと脚を進めていった。
自分に振りかかった出来事を事実として認めて今は少しでも自分自身が出来る事を確認しておかなくては、と少し心焦る煉紅郎であった。
これからは周一ペースで投稿していこうと思ってます。
次話は来週の火曜日、正午頃を予定してます。