エピローグ
「はなび、はなび」
娘が覚えたての単語を連呼しながら、よたよたと歩いている。
そろそろ抱っこをせがむに違いない。
よたよた歩きは何とも危なっかしいが愛おしい。
妻が見かねてせがむ前にわが子を抱き上げる。
あれから十五年経った。
特に意識したわけではないがずっと地元に残っている。地元に就職して同じく地元育ちの妻と結婚し娘をもうけた。
時々頭の片隅にあった記憶が思い起こされる。時代は変わっていくがこの花火大会のように変わらないものもある。
あの頃、自分が家庭を持って地元の花火大会に出かけるなどということは想像すらしていなかった。
実はあの時以来花火大会には行けていない。
これも意識したわけではなかったが、単純に用があっていけなかったり、大会自体が運営側の都合で開催されないこともあった。
月日は過ぎて気づくと十五年も経ってしまっていた。
娘を抱えた妻が嬉しそうに言う。
「懐かしい、これ覚えてる?」
妻が懐かしいと言ったのはあの小さな神社だった。自分も懐かしく思えたが、どうして妻がそう思うのか疑問だった。
「友達とお参りしたなあ。好きな男の子の持ち物を何か一つ持ってお願いすると両想いになれるって噂があってね、結構有名な噂だったから恥ずかしくて人通りが少ない登校時間より前に早起きしていったの」
「・・・・・・そうだったんだ」
妻が抱えている娘に「おいで」と手を広げる。すると「だあ」と手を伸ばしてきたのでそのまま娘を抱きかかえる。
「花火楽しみだな」
「そうね、何年振りかな」
「はなび、はなび」
約束通り僕は生きて幸せだ。
あのときの後悔も今は無くなっている。
きっと今年の花火もきれいに違いない。