プロローグ
もうすぐ梅雨明けかという一学期の終業式一週間前、その日はひどい暴風雨になった。予報は曇りで降ってもたかが知れていると思っていた。しかし昼過ぎくらいだったか教室の窓がどんどん暗くなっていき、いよいよ一雨来る感じではあった。ただ僕はそんなことより消しゴムを無くしてしまったことに意識が向いていた。たいしたことではないのだが、これが結構不便なのである。うっかり眠ってしまった後に気づいたものだから、きっとどこかへ転がしてしまったのだろう。
一通り辺りを見回したが見つからず、そのうちにあの暴風雨がやってきて、消しゴムのことなんかどうでも良くなった。
その日クラスメートの彼女はこの世を去った。
大雨でスリップしたトラックが歩道を歩いていた彼女に突っ込んだ。
命の尊さとはよく言ったものだが、そのあっけなさに僕は呆然とした。
葬儀に参列した。クラスメートの死はそのクラス、学校全体に大きな悲しみをもたらしたのは言うまでもなかった。
僕は彼女が好きだった。だからそのあとはただ抜け殻のようになっていた。
一方的な片思いで実際彼女と話したことなんてほとんどなかった。
席が斜め前でその後姿と一瞬見える横顔を眺めていただけだった。
彼女が生きていたって望みは叶うはずもなかったが、もうこの世にいないというのは、ショックが大きすぎた。