第一話 覚醒
「はぁ・・・」
いつもの日常。いつもどおりの朝。
僕はそれが嫌いだった。
この世界、通称「能力世界」の中で僕は「障害者」だから。
なぜなら僕は、この世界で唯一と言っていいほどの存在、「能力なし」だ。
通常、人は15歳になると自分の「能力」が発現する。
火を出す「能力」、傷を癒す「能力」、物体を固定する「能力」など人によって違う。
だけれども、僕ことラディウス・メリウルには「能力」が発現しなかった。
今日までは
いつもどおり僕は着替えて、学校へ行く支度をする。
今の時間は朝7時30分。
そろそろ出なくちゃ。
「いってきまーす」
僕は家を出た。
僕の通う「国立アディリス学園」は、だいたい徒歩20分かかるところにある。
幼・小・中・高・大・院合わせた全校生徒50000人という大規模な学園で、僕は高等部2年生だ。
つまりこの時間に家を出ないと、授業開始の9時ギリギリにはものすごい人波ができてしまう。
(まぁ、僕は能力なしだから行かなくてもいいんだけどね・・・)
など思ってしまう。
学校に着いて教室に行く途中、後ろから声を掛けられる。
「ラディ〜!おっはよー!」
「おはよう。リナ」
この子はリナ。本名はリナータ・エイシャで僕とは幼なじみの関係だ。
「能力」は「水操」という、水を操る「能力持ち」だ。
「今日はなんの授業があるんだっけ?」
「歴史と能力学と国語、それに実践能力術か3時間だよ」
「よし!全部ある!」
などいつもどおりの話をしてると、大きな人物にぶつかった。
当然僕は押し倒される。
「いった・・・」
「邪魔なんだよ。役立たずが」
こいつはナルザ・ヴァイロン。僕の「能力なし」を糾弾するヤツだ。
「能力」は「強撃」。自分が相手に与えるダメージを超強化するというものだ。
当然彼も「能力持ち」だ。
「なによ!そっちが勝手にぶつかってきたんじゃない!」
「うるせえよ、クソアマが。そこのゴミがいたからぶつかったんだよ」
「なっ・・・なんですってぇ〜・・・」
「リナ。もういい。僕が退けばいいだけだよ」
「でもっ・・・」
「賢明な判断だな、クズが。まあ今は俺も気分がいいからな、これだけで許してやる」
そういうと、僕の胸ぐらを掴みあげる。
そして、一気に僕の腹目がけ殴ろうとする。
だがそれは、僕の手によって外された。
「チッ。まあいい。次に俺とすれ違うときは左によけるんだな」
と言って彼は教室に向かった。
「うグッ・・・」
外したときに手を掠めたダメージが僕に襲いかかる。
「ラディ!大丈夫?」
「あぁ・・・大丈夫だよ」
なぜ僕はこんなに弱いのだろう。
僕は何の為に生きているのだろう。
僕はなぜ・・・
帰り道、リナと別れたあと、僕は練習場所に行った。
場所は近くの公園だけど、そこには先客がいた。
ナルザとヤツの仲間が5、6人ほどだ。
女の子を殴っているらしい。
「ナルザ!何やっている!?」
彼は振り向くと、憎々しげに僕を見た。
「おいおい。なんでゴミがここに来るんだよぉ?」
「女の子に・・・何やっているんだ・・・」
僕の心がざわついた。
なぜなら、さっきまで僕の隣にいた子とそっくりだったからだ。
「制裁だよ、制裁。このアマが俺に楯突いてきたんでな」
そう言うと、彼は女の子の髪を引っ張り上を向かせた。
「・・・ッ」
「ラ・・・ディ・・・」
そこには、顔に殴られた跡が多数存在するリナの姿があった。服もビリビリに破かれ、見るだけで痛々しい姿になっていた。
「きっ・・・貴様ぁぁぁぁぁぁあああああああっ!!!」
僕は走り出しなナルザに殴りかかった。
だが、殴れなかった。
僕はナルザの仲間の「能力」で空中に固定されてしまった。
ナルザが笑う。
「ははははっ!やはり役立たずだな、貴様は。」
と言いながらヤツは僕を殴る。
「アガッ!」
「貴様が無力なせいでそこの女はいまから犯されるんだよ。クズはそこから自分を呪いながら見ていろ」
なんで・・・僕はこんなにも・・・無力なんだ・・・
なぜ・・・僕に力が無いんだ・・・
『力ガ・・・欲シイカ・・・?』
誰だ・・・?
『貴様ハ今・・・何カヲ守ルタメノ力ヲ欲スルカ・・・?』
ああ・・・。欲しいさ。目の前にいる奴らを倒したい。
『ナラバ・・・怒レ。我ヲ忘レルホドニ怒レ。然スレバ貴様ハ強大ナル「能力」ヲ手ニスルコトガデキルダロウ』
「能力」を・・・?
『ソウダ。主ノ「能力」ハ「 七ツノ大罪」デアル。モウ一度問ウ。主ハ力ヲ欲スルカ?』
あぁ・・・欲しい。欲しいさ!
『ナラバ怒り、「召喚」ト叫べ!』
あぁ・・・いいよ・・・!
「召喚!!!」
すると、僕の右腕に緋い刺青が出現した。
同時に目の前にナルザでもリナでもない、新たなる人物が出現した。
「・・・」
赤い髪に赤い瞳の女性だった。
「私の名はイラ。憤怒を司る罪」
そう言うと僕の方を見て、「貴方が我らの主様ですね。なんなりとご命令を」と言った。
「そこにいる奴らを、殺してくれ。ただし、女の子は傷つけるな」
僕は感情に流されるまま命令をした。
「了解」
そう言うとイラはナルザの方へ斬りかかった。
「近寄んなぁぁぁ!このゴミアマがぁぁぁ!!!」
ナルザはイラを殴ろうとするが、イラは避け、ナルザの懐に飛び込み、胸元に剣を刺した。
「くガハッ」
「消えろ。『罪の業火』」
次の瞬間、ナルザに刺された剣が業火となり、ナルザは一瞬にして、形亡き者となった。
「う・・・うわぁぁぁぁぁぁ!ひっ人ご」
その炎はナルザの仲間にも燃え移り、やがてその場にいたナルザとその仲間は全員、炎に焼かれ、消えた。
「リナっ!しっかりしろ!」
僕はリナを抱きかかえ、起こそうとした。
「大丈夫です。主様。その女性は気絶しているだけです」
イラがそう言った。
「君は何者なんだ?君が、僕の『能力』なのか?」
「そうです。私は主様の『能力』、『七つの大罪』が一人『憤怒のイラ』でございます」
「そうか・・・これが僕の『能力』か・・・」
イラが頷く。
「僕は、守れたのか・・・」
その時、リナが目を覚ました。
「んむ・・・?ラディ・・・?」
「リナっ!大丈夫かい?」
「うん・・・だいじょうぶ・・・」
「よかった・・・!」
その日、僕はリナを送って帰った。
だか、一つやってしまったと思った。
それは、ナルザとその仲間を殺してしまったことだ。
どうすればいいのかと思いながら、僕は家に帰り、ベッドに入った。