プロローグ
人類歴2059年 9の月26ヵ日。
人と人が戦火に焼かれ、人と人が殺し合い、人と人が能力を使って相手をねじり伏せている時。
1人の少年が戦場に現れた。
誰も気づかない。いや、気づけないのだろうか。
少年は周りの状況や、殺し合いや、ぶつけ合いには興味を示さず、ただ前を歩く。
不意に少年は止まり、呟いた。
それは、傍にいても聞き取れるか聞き取れないかの声量だった。
だが、その場にいた周りの人々が叫ぶのをやめ、殺し合いをやめ、ぶつけ合いをやめた。
まるで彼ら自身の時を止められたかのように。
「この戦いは何ですか・・・?
これは必要な戦いですか・・・?
僕たちはなぜ争っているのですか・・・?
なぜあなたがたは平和を見い出せないのですか・・・?」
少年の手が前に突き出される。
それが合図の如く、少年を照らしていた周りの炎は消え、人々はその場で崩れ落ち、発動していた能力が一瞬にして消え去る。
少年はまだ問う。
崩れ落ちた人々に、ではなく、少年自身に。
「僕はなぜここにいるのですか・・・?
いる必要がありますか・・・?
僕がここにいる意味が無いのなら・・・
僕はここから消えましょう 」
そして、少年は放った。
自己の存在と自己の記憶を消す魔法と、指定した相手の記憶から自身を消す能力、そして、この異能を後々の者に知られないようにする為の魔法と能力の複合異能を、唱えた。
「消失する虚無」
世界は光輝と宵闇に包まれた。