自由時間
「斉藤君、注意してくれたのはありがたいと思うし感謝したいとも思ってる、でもね私の本能が許さないと言ってるんだ」
「あ、あの、うんごめんね?」
玄関で靴をはきかえながら斉藤君に対してわなわなとふるえる拳を見せながら言う
言ってしまえば、斉藤君がプリントをばらまいたことと、入学式に参加できなかったこと、そして神崎先輩に見つかったやスカートがめくれていることを言われたことが一気に襲い掛かってきてもう死にたい気分だよ、死なないけど
入学式に今から入って行っても悪目立ちして新入生にも悪印象しか与えないからね、堂々とサボります
「スカートの丈短くしたのが間違いだったか…」
ぶつぶつ言いながら校庭の桜の木に近寄る、虫とかがいるかもしれないけどそこにはあえて触れないでおこう
に、しても立派な気だなぁと思いつつ上を見上げれば桃色の花がちらほらと舞っているのがわかる
地面に一つの花が落ちているのが見えたのでそれを拾ってポケットに突っ込む、小町に見せてあげようっと
「桜の木の下には死体が埋まってるってよく言うよね」
「…そ、そうだね、ところで桜ってとってもきれいでお花見には最適だと思わない?」
斉藤君がなんか言ってるけど無視する、そういう話題は今は聞きたくないかな、うん、いや、怖いのがダメとかそういうわけじゃないから、全然大丈夫だから
「お花見かあ…ボクはここ近年行ってないなあ、忙しかったし」
「大人みたいなこと言うんだね、私もお母さんに行きたいって言ったけど忙しいから無理って一刀両断されちゃったよ」
もちろん、前のループのことだけどね、というかこれがループなのかすら怪しいし、もしかしたら私が違う世界線の世界に来てるだけかもしれないし
でも6年は長いなあ…なぜかいきなり景色が飛んでることとかあったけど気にしてなかったし、勉強に困ることもなかったし
今回は何故か私が対象によく会ってこんな展開になるんだよな…前回か前々回くらいは小鶴さんがいたような…あれ、桜城さんが壊したんだっけ?小鶴さんが、正気を取り戻させて…そこまで考えて頭がズキリと痛くなる
思い出さなければいけないことを忘れていて、違うことを刷り込まれているような感覚、まるでこれじゃあ
「小説とかでありきたりな展開じゃない…」
「え?どうかしたの、えっと高野さん?」
斉藤君が心配そうに聞いてきて正気を取り戻す、どうやら考えてはいけないことを考えていたらしい、なんか抑制力でもかかったかのようだ
小説みたいな展開なんて、そんなまさかね
わたしは所詮、背景キャラだもんね、たぶん…嫌でも待てよ、背景だからこそ視点を変えて…
次の瞬間には私はもう少しで地面と衝突するところだった、すんでのところで斉藤君が支えてくれたけど
なんだか頭痛がして吐き気もする、一体どうなってしまったんだろうかと考えてみるけどあまりの症状のひどさにすぐに考えられなくなる
「た、高野さんっ!?どうしたの、すぐ保健室に行った方が…」
「だい、じょーぶ、……たぶん」
本当は大丈夫じゃないけどとりあえず大丈夫だと言っておく、実際少しづつ気分がよくなりつつある
にしても、なんだ、どうした、本当に今回は何かが違うってことなの?
斉藤君はしばらくおろおろしてたけど私の呼吸が落ち着いて行ったのがわかったみたいで安心したようにほっ、と息をついている
「あー、何これ、すっごく気分が悪かったなあ……もうやだ帰りたい、早退したい」
「え、じゃあ保健室に…」
「いや、保健室にはもう行きたくない絶対に、ぜーーーったいに!」
思い切り力を込めて言う、絶対行きたくない誰が好き好んであの先輩に会わねばならないのか
とにかく、座り込んでたらスカートにも砂が付くから立ち上がる
すこしフラフラするけど大丈夫だと思う、入学式が終わって全員が教室に戻るまでどこかに座ってればいいから…地面以外
よくよく考えると入学式サボるって結構いけないことだよね、あと何で入学式が始まっているにもかかわらずあの人たちは保健室にいたのか…というかガラス割れたとき何時だったっけ?
「考えてもわかんないなぁ、とりあえず斉藤君どこかに座ろ?あっちにベンチあるし」
「あ、うん、行こうか……大丈夫?フラフラしてるよ」
「あー、大丈夫大丈夫、あそこまで一人で歩けるよ子供じゃないんだから…」
そこまで言い切ってふらりと体が傾く、自分で歩けるって言ったばかりなのに…!
若干ショックを受けつつも斉藤君に支えてもらってベンチまで行く
「はい、ハンカチ頭に当てといたほうがいいよ、あとなんか飲み物買ってくるから何がいい?」
「え、いや悪いよ…でもまぁ、お金渡すんでミネラルウォーター勝ってきてもらえないですかね…?」
「うん、いいよミネラルウォーターね」
斉藤君から水で冷やされたハンカチを渡されてそれを頭に当てながら考える、議題はどうして私の気分が悪くなったのか
小鶴さんの何かを忘れているから?それとも桜城さんがループをしているのか世界線を越えて活動をしているから?わけがわからないと思いながら空を見上げる、雲一つない青い空に暖かい日差し、まさに入学式日和というやつだ、きっと高校の方でも入学式をやっているんだろうな…そこでふと思い出す、私繰り返してる中で体感時間6年じゃなくて2,3年くらいなんだけどな
体育館の方からはかすかにマイクの音が聞こえてくる、さすがに何を言ってるとかはわからないけれど
先輩たちや、桜城さんは入学式参加できたのかな、見回りの人も見回ってないで参加しろよ
「眠い……」
麗らかな日差しに当たっていると疲れたということと食事をしたということもありすぐさま睡魔が襲ってくる
頭の中でよくなにかのセリフで聞く「寝たらだめだ!寝たら死ぬぞ!」というフレーズを思い出しながらうとうとしていると斉藤君が帰ってくる
でも目を開ける気力すらない、とにかく眠いとことんサボってるな、と思いながらも目は開けようとしない、そしたら寝てるのと勘違いした斉藤君が声をかけてくる
「あれ、高野さん寝ちゃったの?気分が悪いんだったら水飲んでから寝ないとだるくなるよー」
まるで保護者みたいなもののいいようだな、と思わず笑ってしまう
「あ、起きてたんだ、はいミネラルウォーター」
「ありがとう、斉藤君」
むくっ、と起き上ってミネラルウォーターを受け取りふたを開けながら斉藤君と雑談する
「斉藤君って何組だっけー、私は2組何だけど…」
「あ、えっと1組だよ、道弘先生のクラス」
「1組かー、じゃあ体育のとき同じだね、いいなあ道弘先生、美人で優しくて…」
ぼんやりしながらミネラル…長いから水で、水をちびちび飲んでたけど斉藤君の質問で思いっきりむせる、本日2度目だ、と思いつつもえ?と聞き返す
「えっとね、高野先生と高野さんが兄妹…っていう噂が」
「…いつごろからかわかる?」
「窓ガラスのことがあったすぐ、クラスで整列してた時に僕は呼び出されちゃったんだけどね」
こういうときは何と答えていいのかわからない、確かに私と兄貴は兄妹だけどもう母親と父親は離婚してるし、父は再婚してるし…
私が答えないでいると斉藤君は申し訳なさそうに謝ってくる
「あ、ごめんね?その…」
「いや、いいよ別に」
その後はお互い黙り込んでしまって何も話さなかったがすぐに体育館から騒がしい足音が聞こえてきた