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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

彼はいかにして恋愛をあきらめたか

作者: 宮明

「お前、そう言えば恋人作るのは諦めたとか言ってなかったか?」


 問われた言葉に俺は動きを止め、すぐにため息とともに返事をした。


「そうですね、いいました」


「何をまた……、前うまくいきそうって言ってたやつはどうだったんだ?」


「実は、途中まで上手く言ったんですがね」


「おうおう、さぁはなせ」


 立ちあがり、机に手をつけ、身を乗り出した上司は、非常に楽しそうな表情をしている。

 身長は握りこぶし一つ程小さく、銀の髪は真っ直ぐに。二十歳を三つ越えた幼馴染兼上司は美女である。そんな美女に迫られて嫌な気持ちになろうはずがない。

 ただし、悲しい気持ちにはなる。


 まぁいい。昼時、書類も大体片付き、少し暇ができている。長話も悪くないだろう。


「実は、一歩進む前に彼は運命の恋に落ちてしまい、俺との恋愛は上手くいかない感じになってしまいまして」


「え、お前、男と恋に落ちるつもりだったの?」


「女性と恋に落ちようとすると皆さんそろって別の方と恋に落ちてしまうので、もう視点を変えて男と付き合ってみようと思ったんです」


「あー、うん。ごめん」


 笑顔で手を合わせる上司は非常に美人だ。

 しかも幼馴染だ。

 騎士学校では一番仲が良かった。

 恋に落ちるのは当然のことだった。

 しかし、運命は皮肉なものだ。



 ある日、少年だった俺は彼女と「自分の秘密を教え合う」という遊びに挑戦した。

 脳内の計画では彼女は俺のことが好きだと(一番仲いいし、一番性格も会うし、一番俺と遊ぶし勝算はあると思っていた)、そして、俺は彼女が好きだと告白し、やったね両想いうっはうっは楽しいラブラブ生活の幕開け!

 となるんじゃないかと思っていた。



 が、しかし。



「じゃあ、私の秘密を、教えるね」


 上目遣いで非常に麗しい。紫の瞳に俺は人生最大の決め顔を放ちながら彼女を見ている。


「実は私――、おんなのこがすきなの」


 


 初恋の幼馴染は同性愛者だった。

 俺は異性である。

 恋は儚く散った。

 そして、それから10年。

 奇跡的なことに、俺の恋愛は未だに全て始める前から終わっている。



「まず、貴方がモテ過ぎなんですよ」


「いや、うん。こればっかりはうん」


 照れたような顔で謝る幼馴染はしかし、既に運命の相手と出会ってしまっているので、別段俺の恋路を邪魔するつもりはない。

 ただ、俺の星のめぐりあわせが抜群に悪いだけ。そうだ、そうとしか言えない。


「花屋のレティーシアも仕立て屋のローレンもなぁ、いいとこまで行ったのになぁ」


「うん、二人ともいい子だな」


「でも、貴方に恋に落ちちゃうんですよねぇ」


「いや、だけど!パン屋のミカエラと侍女のミリアンナは違うじゃん?!」


「お忍びでやってきてた隣国王子と柱の陰から愛でてた宰相閣下にとられるとは思いもよりませんでした」


「あー、うん、私も思わなかった」


 自分で自分を追い詰めるような形になって頭が下がり始めた上司のつむじを眺める。

 こいつに恋した俺は間違っていない。

 こいつは非常にいい女だ。

 いい友人だ。

 正直こいつに惚れた過去の想い人達に恨みは無い。

 まず、そこまで深い仲になっていないし、上司は非常にいい女で、漢気と言うものがある。こいつに惚れられたら俺はそう、文句も言えない。

 いい趣味してるねー、がんばってねーと言うしかない。

 頑張ってねーというのはあれだ。上司の恋人もそれなりに凄い人、っつーか王女兼聖女でこっちも凄い素敵な女性なので割と奪還はむずいことからくる。

 隣国王子と宰相閣下にも恨みは無い。

 隣国王子の非常に熱血馬鹿な性格や宰相閣下の冷血漢で根暗な性格に思うところはあるものの、彼らは彼らなりにまっすぐな想いを抱いていたし、何より両方美男子だ。俺の10倍くらい。


「やはり、顔か……」


「お前もそれなりに美男子だと思う、よ?」


 だが、それなりなのであんまり意味ないかもしれん。


「ていうか、結局その、恋に走れなかった相手の男って一体どんな運命の相手に?私でも隣国王子でも宰相でもないだろ」


「それはですねー」



 あぁ、思い出す。

 彼はいい男だった。線が細く、しかし、バランスのいい身体。短くかった髪は濃い茶色。前付き合った板相手は男という話で、女もいける――とはいっていたが、結局どうだったのかわからない。とりあえず、彼の柔和な笑顔は落ち着くと同時にある種のざわめきを俺に与えた。

 男に恋に落ちたことはないが、彼ならなんかいけるよーな気がした。つーか、半分くらい落ちてた。

 うん。


「誠に言いにくいので他言無用でお願いしたいのですが」


「うん大丈夫!他言しない!ていうか、まさか、国王とか?!」


「いえいえ、そのですねー」


 うん。

 あ、やべ。ちょっと涙でてきそう。


「馬です」


「……?は?」


「ですから、彼は俺の愛馬だったジョゼと恋に落ちたんですよ」


「はぁー?!」



 思い起こせば三日前、彼と俺の休日がかぶり、遠乗りをしようと言うことになった。

 あの朝、最近デスクワークばかりで相手をしてやれなかったジョゼをつれ、俺は彼との待ち合わせ場所に向かった。

 そして、彼とジョゼの視線があった瞬間、俺は「あ、やべ」という感覚を覚えた。

 何回もあったっけなぁ、こんな状況。

 二人(というか、一人と一頭)は何ごともないふりをして、ちらちらと互いに視線を寄せあっていた。

 帰り道。俺は別れ際に彼に言った。


「ジョゼのことを愛しているかい?」


 彼は泣きそうだった。

 幾度も口ごもり、しかし、言葉は出てこない。俺の乗る彼女を見た。彼女がどんな顔をしていたか俺には見えなかった。でも、彼の表情がだんだん意志を帯びるのを見て理解した。

 彼は俺の目を見て、想いを吐きだした。


「一目ぼれなんだ……、彼女を俺に譲ってくれ……。大切にする……」


 そうして、俺は一人と一頭を見送った。彼の馬は俺の馬になった。

 彼の頭と同じ、茶色の毛なみ。ピカロというそうだ。

 ピカロと目を合わせて見た。

 恋は芽生えそうになかった。



「――あー、うん」


 おうおう、上司が反応に困っている。


「と言うわけでして。ちなみに彼は旅に出ると言ってあれからすぐに騎士団をやめたんですが」


「――あいつかぁあああ、いや、うん。なんでもない。私は知らないぞ、知らないからな!聞いてない、個人情報聞いてない」


「ご配慮ありがたく思います。そんなわけで、もう、いっそ恋愛はあきらめる方向でいこうかと。まぁ、死なないですし。恋愛しなくても」


 腰を折ると上司は大きくため息をついた。


「……お前にもいい出会いはあるって」


「と、いいんですけどねえ。もう諦めようと思うんですよ。さすがに、こう連続してこんなことがあるとねぇ」


「つーか、未だに童貞なんだっけ?そのままでいいのか?」


「なんかこう、幼い日の浪漫っていうか、好きな人と結ばれたくって?でも、無理ならいいですよもう。童貞をきわめたら魔力が上がるという俗説でも試してみたいと思います」


 我ながら阿呆みたいだが、本気である。

 ちなみに、某根暗冷血漢宰相(現国内最強魔法使い)はその修業を近年までしていた可能性が高かったが、それが彼の魔力の強さに由来していたかどうかは不明である。


「……顔も性格も悪くないんだけどなぁ……、こういう変な乙女心さえなければ。つーかねぇ、本当にあきらめるのー?」


「そうですあきらめます。もういいじゃないですか、うっさいですよ、順調に愛を育む人にはわかんないんですよ、この悲しみは!」


 強く言い切った瞬間、ドアを叩く音がした。上司が「どうぞ」と声を上げ、すぐにドアが開く。その隙間から子供くらいの背丈の白塗りの仮面が覗いた。


「……一番隊隊長様、補佐官様、宰相閣下がお呼びです。早く来てください」


「げ、あの根暗冷血漢……」


「漏れてますよ、黙って」


 暗い表情で毒づいた上司を小突き、「今行きます」と返すと仮面はすぐに引っ込んだ。

 確かあれは宰相の連れてきた子どもだったか。宰相は年齢から出身地まで、正体不明なところが多いのだが、それのつれている子どもと言うことはあれも相当な魔法の使い手には違いない。仮面をかぶっているのもその魔法の力ゆえ、とか何処かで聞いたことがあった。性別すらも不明だし、名前すら皆知らないけれど。

 騎士になる程度の魔力しかない俺には色々わからないが、まぁ、きっとなんか凄いやつなのだろう。

 こう見る分には仮面かぶった唯のガキだが。

 というと、大概のものに怖いもの知らずだな貴様といわれるので最近は黙っている。


「行くぞー」


「はいはい」


 気持ちを入れ替え、仕事に向かおう。


「まぁ、お前にもいい相手出来るからあきらめるのは早いって!」


「だといいんですけどねぇ。もう諦めたんでー」


「……」


 上司に肩を叩かれながらドアをくぐると仮面の子どもがいた。


「……」


 仮面の奥から無言で見つめられるも、上司に引っ張られて俺は廊下を行く。


「ではー」


 何の気もなしに、ふらっと手を振ると、彼は少し肩をふるわせた後、ぱっと姿を消した。空間転移だ。あんなもん、予備動作無しで行うなんてすさまじい魔法の腕だ。

 しかし、つまらないガキである。



  ◇◇◇




「手、振られた」


 小さくつぶやく声が狭い部屋に満ちた。

 仮面をとると、その面は白く繊細に整い、唇は血のように赤い。

 金の髪はゆるく波打ち、瞳は漆黒。

 可憐な少女はそっと胸に手をやる。

 ふくらみのない、薄い胸。


「今度、手、振りかえそう」


 そう思って、ぎこちなく笑顔を浮かべ、少女は仮面を握りしめた。

 自分は人形である、そう御義父様は言っていたけれど。

 それでも、時たま心がふるえることを、彼女は大切にしていた。




 その日、上司と補佐官は東部出張を命じられ、3日とせずに王都を去り、任地に足を下ろした。



 5年後、彼は一人の少女と出会う。

 金の髪を波打たせ、漆黒の瞳を持った生ける人形はそこで恋に落ちた――、


ノリと勢いで書き上げました。

部下は、メガネです。

続きそうで続かない。

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