(3)少女たちの団結
夕暮れの放課後、屋上にて三人の少女は集う。
三人は同じ思い人を護るため、それぞれができることを一日中考えた後に放課後に集まる約束をしていた。
「愛ちゃん、ハルの様子は?」
「なんて言うか、あからさまに他人行儀だったわ。あれならまだ無視されていた頃の方が優しかったわよ」
そう嘆く愛乃は、午前中は遅れて学園にやって来たハルの傍にずっと付き添う役をしていた。
だが秋月の診察が終わると、ハルは秋月を連れて家へと帰ってしまっていた。
「なんていうか、やっぱりらしくないわよ。あれじゃただ月子に付き添うだけの侍女じゃない」
「それでもアキの為に動いているってところがハルらしいよね」
「ハルは昔からそう。自分は苛められてもあまり反発しないのに、秋姉が泣かされた時は誰よりも怒って、相手が二才も年上なのに仕返しに行って相手を泣かせてた。ま、誰よりも一番泣いていたのは本人だけど」
「あはは、アキと一緒に泣いているところがハルらしいな。ハルは一緒に泣いてくれて、一緒に笑ってくれるんだよね」
「いいわね、二人とも。想い出があるなんて」
ハルの過去や人となりを知っている二人に、愛乃は嫉妬してしまう。
愛乃にとってハルとの想い出なんて、ここ一週間の出来事が全てなのだ。
思えばミスコンの日から一週間が経とうとしている。
最初はミスコンの優勝者が男だと知り、納得がいかず付け回していたというのに。
今ではハルの家にまで押し掛けて、あの『姉妹』を護ろうとしていた。
「不思議なものね。あっという間の一週間だったけど、これからもはるるとの想い出を作るためには、今の問題は絶対に解決しなくちゃダメね」
「そうだよ。もうハル一人に辛い思いをさせないためにも、私たちが団結してハルを護らないと」
「秋姉のことは秋姉専門のハルに任せておくとして、あのばかは私達が護ってあげないとすぐにダメになるんだから、まったく」
「そう言っている一色先輩も、なんだかんだ言って尽くしたがり屋ですよね~」
「ああん?」
「す、すみません、ふざけましたっ」
「何バカなこと言ってんのよめぐみんは。それとなっちゃん先輩も一々噛みつかないの」
「ご、ごめんなさい……」
「ふん」
「こんな状況だからこそ、アタシ達が沈んでちゃダメなのは分かるけど、ふざけ合うにしてもまずは解決案を出してからにしてよね」
「ん、それなら昼に友人と相談して出た案が――」
「わ、私も!」
メグと夏祭はそれぞれが相談して出た解決案をその場で説明する。
二人の話は偶然にも同じ内容で、違っていたのは中立に立ってハルをサポートすることのできる人物をメグが特定していたことだった。
「私が教えてもらったのは、ハルと同じクラスでクラス委員をやっている古西ゆかりさんって人なんだけど」
「こ、古西……ゆかり……」
その名前を聞いた途端、愛乃の表情は青ざめる。
「なんだ、仙堂はその古西って一年と知り合いか?」
「……え、ええ。知り合いね、ええ、確かにそう、知り合いよ、ただ知り合いってだけよ」
「どうして愛ちゃんは急に震えだしたのかな?」
深くは詮索しないでください。と言いたげに愛乃は二人から目を逸らす。
その古西という生徒との間に何があったのか、触れてあげない方が彼女のためらしい。
「……え、えっと、それで、愛ちゃんは古西さんと知り合いなら、どうして古西さんならハルのサポート役に適しているか分からないかな? 私は教えてもらっただけで、詳しい話は聞かせてもらえなかったから」
橘に詳しい説明を求めたが、「知っている者に訊くべきだ」と返されてしまっていた。
「こ、古西さんね。そうね……確かに彼女ならさっき上がった条件をクリアできているでしょうね。真面目で優秀、絵にかいたような委員長タイプで、誰とでも打ち解けようとするから友人も多いし、人望だって厚いわ。彼女の言葉なら、みんな耳を傾けてくれると思う。唯一懸念することは、彼女がハルの側についてくれるか、ってことだけど……そればかりは直接会って話をしてみないと何とも言えないわね」
「なるほど。条件は満たしているなら、さっそく今すぐ……は、もう下校時刻を過ぎているから無理か」
「でも、早めに話をしに行った方がいいよね? なら同じ一年の私が、明日にでも――」
「ダメよ」
メグが役を買って出ようとしたが、それは愛乃によって止められてしまう。
「会いに行くのはアタシと、はるる本人よ」
「ど、どうして愛ちゃんが? それにハルも……」
「アタシはこの中で唯一、古西さんと面識があるからね……(できれば顔を合わせたくないのだけども)。はるるが出向くのは、アタシ達が勝手に行動するんじゃなくて、はるるを納得させて、自分の意思で行動してもらうためよ。めぐみんだって言ったでしょ? はるるはアタシ達を護るために自分を犠牲にしてしまうって。そんなことをするなら自分で事を解決させろって言ってやらなくちゃ、アタシの気が済まない!」
「き、気が済まないって、それって私怨じゃ……」
「確かに仙堂の言う通りだな。私からも一発入れてやらないとな」
「入れるって気合を入れるって意味ですよね先輩!? 暴力はダメですよ、絶対!」
「……ちっ」
「し、舌打ち……」
夏祭さん、あなた絶対にグーパンするつもりでしたよね?
「とにかく、今から家に帰ってあのバカを説得しに行くわよ」
答えは見えた。あとは役者を揃えるだけ。
ハッピーエンドを辿るために、三人は閉じこもった姫様を迎えに自分たちの家へと帰った。




