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サクラセイカツ~あなたと過ごすための妹生活~  作者: 八八八
4.佐倉家に住まう少女たち
29/42

(1)決断


 本日は土曜日。ミスコン、引きこもり奪還、ホームステイ問題、幼馴染との邂逅――と、ここ数日かなり充実した日が続いていたが、ようやく休日を迎えることとなった。

「今日はいい天気だなぁ~」

 ミスコンも終了し、秋月も無事に連れ戻すことができ、愛乃に関しても秋月関連では思いのほか助けになって今のところ特に問題は起きていない。

 夏祭も、昨日こそひどい目に遭ったが、夜には佐倉家に訪れ、「……ごちそうさま。一応、美味しかった」と言ってお弁当箱を返しに来ていたからすぐに昔のように戻れなくても、少しずつまた仲良くなれるようになるはずだ。

 振り返ってみると、身の回りの殆どの問題は解決しているに等しかった。

「いやぁ、一年間大変だったけど、こうして無事平和な日々に戻れてよかった」

 そうしみじみと思いながら、ハルは朝食の準備を済ませリビングに待つ『家族』たちの元に料理を運んでいく。その時――『ピーンポーン♪』とインターフォンが鳴り響いた。

「ハル、お客さん」

「うん、出てくるから秋月達は先に食べててね」

 そう言って、全員の返事を背に受けながらハルは玄関へと向かう。

「はーい、どちら様ですか?」

 笑顔で玄関の扉を開けると――

「ふ、不束者ですが、よ、よろしくお願いしましゅっ!」

 そこには中学時代からの親友で、秋月の幼馴染でもある星野萌、通称メグが、背に大きな荷物を背負って頭を垂らしこんでいた。

「(……ああ、そう言えばこんな子もいたな)」

 昨日も一緒にお昼を食べたはずなのに。

 どうしてか彼女とは一週間会っていない感覚がハルにはあった。

「久しぶり、メグ。そう言えば休日はうちで過ごす予定だったね」

「う、うん? そうだけど……昨日も一緒に登校したり、お昼食べたり、下校も一緒だったよ?」

「あー……そうだよね。昨日も一緒だったんだよね」

「? 変なハル」

「はは、気のせいだよね、きっと。あ、部屋は空いている部屋を掃除しといたからそこを使って」

「うん、ありがと」

「メグはもう朝食は済んだ?」

「えっと、実は起きてからすぐに家を出たから、まだかな」

「それならメグも一緒に食べよ?」

「えっ、いいの?(朝からハルの手料理を二人きり……じゃないや。今はアキや仙堂さんもいるんだよね)」

「別に一人増えた所で手間はそんなに変わらないし、それにみんなで食べるご飯は美味しいよ」

「そ、そうだね。それじゃ、頂いちゃおうかな」

 ご相伴に預かることにしたメグは、まずは用意された部屋に荷物を置きに行き、それからハルと一緒にリビングに向かった――のだが、

「な、な、ななな……」

「みんな、メグが来たよー……って、どうしたの、メグ?」

「メグ、いらっしゃい」

「あら、本当に来たのね(……ちっ)」

 最初にハルの声に反応した秋月と愛乃がメグの方に向く。

 彼女達が先に朝食を食べているのは予想通りである。――ところが、

「ななななななな……」

「やっほーメグちゃん♪ おはようさ……ん?」

 食卓には金髪の少女、美冬も紛れていた。

 だがこれもまだ想定内だ。美冬はハルと秋月の保護者で、愛乃の監督責任者でもある。普段から美冬は佐倉家で一緒に食事を取っていることもハルとの会話で知っていた。――だけど、

「なな、なななななんで――――なんで一色先輩まで一緒に朝食を取っているんですか!?」

 そこに二年の《ミス涼月》――一色夏祭が、当たり前のように佐倉家の食卓に混ざっていたことはさすがに想定の範囲外だった。

「……ああん?」

 黙々と箸を進めていた夏祭だったが。名指しされたことで箸を止め、大事しあわせな時間を邪魔した相手にキツイ視線を向ける。

「むむっ」

 だが、メグは退かない。

 メグは『敵』の強さを知っていたからこそ、立ち向かう勇気も既にできていた。

 ハルの幼馴染であり、一年前まではハルの恋人だった相手。理由わけあって二人は別れてしまったが、今こうして彼女が佐倉家の食卓に着いているということは、まだ未練があるということ。――つまり、夏祭はまだハルのことが好きなのだ。

「(一色夏祭先輩……アキを除けば、仙堂さん以上に強力な相手。昨日ハルのお弁当を受け取ったって話は聴いたけど、まさか翌日に家に乗り込んで来ちゃうなんて……。これはまだ、ハルを狙っているってことだよね……)」

「(確かこの子、秋姉の昔からの知り合い。…………! そう言えばこの子、ハルの卒業アルバムを見た時に――冬姉に頼んでハルには黙って――にハルと一緒に写っていたじゃない! てことはこの子も仙堂愛乃と同じ、ハルのお嫁さんの座を狙う敵!?)」

「(仙堂さんだけでも手強いのに、こんなに早い段階でラスボスが出て来るなんて……)」

「(中学からの知り合いってことは、女装前の頃のハルのことももちろん知っているってことだよね。カッコいいハルや、男らしいハルや、すごくカッコいいハルや、すごく男らしいハルのことも知ってるんだよね! 仙堂愛乃がホームステイしていることは驚いたけど、こっちは本気でハルを狙っていそうね……)」


「(一色先輩だけには負けられない!)」「(ハルに寄りつく虫は全員駆逐する!)」


「(な、なんだ、いつの間に我が家の食卓は戦場と化したんだ?)」

 目の前で突然火花を散らし始めた二人に戸惑うハル。

 この二人はこれほど仲が悪かっただろうか。と、過去の想い出を遡ってみるが、ハルの中に二人が接触した時の記憶はなかった。だからハルは、「ああ、そうか。そう言えば二人とも初対面だったね」と言って呑気に二人の紹介を始めだした。

「メグ、前に何度か話したことがあると思うけど、彼女は一色夏祭って言って、同じ涼月学園に通う一学年上の先輩。私や秋月とは幼馴染で、美冬さんの妹なんだ。去年のミスコンで優勝してるからメグも彼女の噂は聞いたことあるよね」

「うん、聞いたことあるよ。《ミス涼月》になった後に大分イメージチェンをされたって。……ねえ知ってるハル? 女の子が一気に変わる時ってね、好きな人に言われて変えるんだよ」

 ハルの耳元で呟くメグだったが、その声は明らかに夏祭の耳にも届く大きさだ。

「え、そうなの……って、好きな人いたんだ、夏祭」

 思わぬ事実にハルは戸惑いを見せる。

「ちょっ! 勝手なことを言わないで! 違うからね、ハル! 私、別に他の男に興味なんてこれっぽっちも無いんだからね! 勘違いしたら打つよ!」

 夏祭は慌てて飛び上がり、ハルの腕を掴かむ。

「あ、そうなんだ……」

 夏祭必死な弁解に、ハルは納得の意を示す。

「あれー? でも、それなら好きな人の好みに合わしてかな? わざわざ金髪にしたってことは、相手が金髪好きってことが分かっていて染めたんですよね?」

「え、そうなの?」

 しかし、またしてや悪魔の一言にハルは耳を貸してしまう。

「違う! これは……そ、その……き、気分転換よ! 別に他意はないわ! それに、髪の色を変えただけで好きになるようなやつはこっちからお断りよ!」

 秋月に勝てないから染めた――とは口が裂けても言えない。

 そんな格好悪い理由があったなんて、恋する少女が好きな人に伝えられるはずがなかった。

「へー、夏祭はそういう相手は嫌なんだ」

「そ、そうよ! だからハルもそんなこと思うようになっちゃダメだから! そんなの相手にも失礼なんだからね!」

「それくらい分かってるよ。それに、別に金髪嫌いじゃないし」

「え……! ホント!?」

「ん? 別におかしなことじゃないでしょ? 金髪がダメだって言われたら、私なんて白髪だよ。金より断然好き嫌いが別れるって。…………ああ、ダメだ、髪の話をしていたら昔の辛い思い出が蘇ってきた……」

 純粋すぎる子供は平気で他人が傷つくことをしてしまう。……そう、それは小学一年の給食の時間のこと。髪のことが理由で友達のいなかったハルに、クラスの一人の男子児童(ガキ大将的な)が、「もっと白くしてやるよォ!」と言ってハルの髪に牛乳をぶっ掛けてきたのだ。

 思い出しただけでも鬱になる最悪な想い出のせいで、ハルは未だに牛乳を苦手にしていた。

「ご、ごめんハル! 大丈夫、ハルをいじめるようなやつは、また私がやっつけてあげるから!」

 当時の夏祭は、その話を聞いてすぐさまハルを苛めた男子児童に制裁を与えに行っていた。

 小学生の頃のハルは苛められることが多く、苛められるたびに夏祭がハルを苛めた相手を懲らしめていた。

 異色すぎる髪をしたハルは標的に合いやすかった。でも、いつも夏祭が護ってくれたから、それに中にはハルの髪を褒めてくれる人もいたからハルは祖母から受け継いだ宝物を嫌いにならずにいられた。

 ハルがどれだけ辛い過去を持っているか、夏祭は全てを知っていたから余計ハルには幸せになって欲しかった。

 だから。ハルが傍に居ることを許してくれるのなら、夏祭にはハルを傷つけた拭えない罪があったが、自分が彼を幸せに導けるのなら、と夏祭は罪を背負ったままハルの傍に居続けることを決めたのだ。

「だ、大丈夫、ありがとね、夏祭」

 ハルは「大丈夫だよ」と夏祭に笑顔を見せる。

 女の子の格好をしていても、やはり彼の笑顔に癒された。

 女装には反対の夏祭だが、だからと言って女装をしているハルを嫌いになった訳ではなく、ハルがそうありたいのであれば夏祭はもう止めることはしなかった。

 自分の変化も受け入れてもらったのだ。

 だったらいつまでもグダグダ言わず、自分も彼の事を受け入れないと!

 そう決心して、夏祭は今朝、佐倉家に乗り込んできたのだ。

「あ、夏祭にも紹介しないとね。彼女は星野萌、みんなはメグって呼んでるんだけど。私と中学が一緒の同級生で、これから休みの日限定で一緒に暮らすことになったんだ」

 そして乗り込んできたのは夏祭一人ではなかった。

「おい」

「へ? ――っうぐわ!?」

 あれ? 腕を掴まれていたはずなのに……

 ハルは一瞬にして胸倉を掴まれていた。幼馴染兼元カノに。

「な、夏祭さん!? 暴力はよくないとハルちゃん思うな!」

「……私がいない間に、複数の女の子を家に住まわすなんて……」

 ああ、もしかしてここで全部終わるのかな? あの世で見守っている父様、母様、どうやら愚息はこれからそちらで面倒を見てもらうようになるようです。取り敢えず……テーブルでも拭いて食事ができるのを待っていてください。そちらに着いたらすぐに準備に掛かりますので。

 などと、縁起でもないことを本気で考えていたハルだが、どうやらハルが両親の元に行くのはまだ大分先のことになるようだ。何故なら、

「私も佐倉家で暮らすからな!」

 唐突に、夏祭がそんなことを言い出して、

「いいよ~♪」

 全ての責任者である美冬が、笑顔でOKサインを出したからだ。


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