(8)逢いたい……(春)
ハルが悲鳴を上げている頃、夏祭は美冬を布団へと寝かせていた。
「……すー……はる……ゃん……むにゃぁ」
美春を美冬の傍らに置くと、夏祭は部屋を出て自分の部屋へと戻って行った。
「……はぁ」
そして倒れるようにして、自分の布団の上へと飛び込む。
小さく「ハル」と呟く彼女の目尻には、ほんのり涙が浮かんでいた。
「……ハル……やっと、ハルに逢えた……」
逢いたい。ずっと彼の側にいたい。
それは一年間、ずっと夏祭が思い続けていたこと。
けれどそれは一年前の行き違いによって、自らがそうできなくしてしまったこと。
一年前、ハルは選んだのだ。夏祭ではなく秋月を。
別に選ぶ必要などどこにもなかったはずだ。
だがハルは選んだ。いや、選ばされたのだ。
誰でもない、夏祭自身によって。
「……ハル……」
久々に見た彼の姿は、一年前とは驚くほど変わっていた。
彼はもう男の姿をしてはいなかった。
それでも夏祭は、ハルを前にして心が揺れてしまっていた。
変わり果てた彼を前にしてもまだ彼の事を思っている自分を、夏祭は否定できなかった。
「……ハル……ハルぅ……好きだよ……逢えて嬉しかったよ……」
夏祭は何度も何度も想いを零す。
彼女は一年前から変わらず、誰よりも佐倉ハルを愛していた。




