ep.1 パーティー内の喧嘩はスライムも食わない①
「さて今夜も始まりました、王都ギルド放送室〜」
間延びした声を出しながらぱちぱちと手を鳴らすのは、テーブルを挟んで反対側に座る女性。
俺たちの前にはそれぞれ一本ずつ円柱型の機械が置かれている。
魔法使いが持つ杖のミニチュア版のようなそれは、俺たちの声に反応して光っている。
これは風魔法で王都内の各地に設置されたレシーバーへ音を……いや、御託はいい、王都全域へ声を飛ばす魔道具だ。
「こんばんは、一般ギルド職員と」
いつもの挨拶。
幾度となく繰り返してきたから、言葉が勝手に口からするすると出ていく。
「一般受付嬢です!リスナーのみなさん、今日も一日お疲れ様でした〜。かく言う私もどっさり疲れました」
「採れたての果物みたいに言うなよ」
「疲労が蓄積してるって言うよりかわいいでしょうが」
かわいさ重視で生きてたら効果音も変わるのかよ。
軽い掛け合いもいつも通り。
夜は長い、徐々にギアを上げていこう。
「さてさて、くだらない話は置いといて」
ツンとした声で彼女は話し続ける。
「いっつもくだらない話しかしてないけどな」
「そこうるさい、今からオープニングなんだから黙ってて!」
ごほん、と咳払いをして彼女はにっこりと笑った。
どうせ顔はリスナーに見えないのに、こういうところは律儀だな、と毎回思う。
「この放送は王都ギルド広報部がお送りいたします!」
「いたしまーす」
「ちょっと適当にやんないでよ、ギルドマスターに怒られるわよ」
「はいはい……これ言わないと怒られるんだよなぁ……あーやだやだ、大人になんてなりたくなかったな」
愚痴がぽろぽろと口をついて出ていく。
「『はい』は一回ね」
「お前は俺のオカンか」
「あんたみたいな子を産んだ覚えはないわ」
数瞬の沈黙。
「あ、勘違いしないでくれよ。この人未婚だからな、ガチ恋勢は安心してくれ」
「こら、バラすな!気にしてるんだから」
みんな知ってるだろ。何回このネタ擦るんだ。
「むしろ既婚者だったら男と二人で深夜に放送してる方が問題だろ」
「あんたが私の夫だったら問題なくない?」
そんな叙述トリックは求めてないんだよ。あと意識的に燃やそうとするな。男性はよく燃えるんだ、冬場の枯葉みたいにな!
あと未婚だっつってんだろ。
「やめろやめろ!火に油を注ぐようなことを……お前のガチ恋リスナーからいつ見つかるかとヒヤヒヤしながら生きてるんだぞ、こっちは」
「まぁあんたが見つかったら私も見つかるからね」
そう、俺たちは同じ王都ギルド所属の一般職員。
素材の管理やら関係機関との折衝、王宮への報告と何でもござれな管理部門の俺オルフェと、冒険者の対応からクエストの発注や受注、細々した何から何まですべての窓口となる受付嬢のメリア。
そんな一般社畜の俺たちがどうしてこんな魔道具の前で喋る羽目になったのか。
遡ること一年前。
正しい情報の普及と王都ギルドの広報を兼ねて定期的に王国内へ放送を行うことになった。なんでもギルド上層部と王宮の決定らしい。
そこで同期でギルドに入った俺たちに白羽の矢が立ったって訳だ。
意味がわからん。いや確かに仲は悪くないし、普通に会えば話すけどその程度。二人で漫才をしたこともなければ、誇れるような経歴がある訳でもない。
未だにギルドマスターに俺たちを選んだ理由を聞いても教えてもらえない。この話をすると目を逸らされるんだよな。
しかも普段の日常業務はそのままと来た。身体が一つじゃ持たんって。
しかし住めば都ではないが、やってみると案外楽しくて。
放送を始めて約一年、なぜかそこそこに人気があるらしく、ギルドの上部組織である王宮からの覚えも悪くない。
というか、なんなら王宮勤めの人間にもリスナーがいるとかいないとか。
「まぁ細かい話は置いといて、今日も張り切ってやっていきましょー!」
相方の声で意識が現実へと引き戻される。
さて、今日も食い扶持を稼ぐために……ん゛ん゛っ、楽しみにしてくれているリスナーのためにだらだらと喋っていきますか。
彼女との間に置かれた紙を捲る。
「じゃ、早速今日のお便りを読んでいきます」




