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『終末のシンデレラは、ガラクタのマイクで夢を見る』 ―今日のライブの成功報酬は、きれいな水と缶詰一個!―  作者: トムさん


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第五章 「希望のリハーサル」

アキラの表情から、過去の亡霊に囚われるような昏い光は消えていた。彼の瞳には、かつて数多の才能を世に送り出したプロデューサーだけが持つ、鋭い輝きが戻っていた。


「お前たち、今日からチームだ」


廃ビルの地下、ノア、リク、サラの三人を前に、アキラは宣言した。


「チームには名前が必要だ。分かりやすく、希望があって、それでいて、この瓦礫の中から生まれたことを忘れない名前が」


彼は一拍おいて、三人の顔をまっすぐに見据える。


「チーム名は、《リバイブ》。――“蘇る、再生する”の意味だ」


リバイブ。その言葉の響きに、三人は息を呑んだ。失われた歌を、死んだ世界を、そして絶望した人々の心を再生させる。自分たちがやろうとしていることのすべてが、その名前に込められている気がした。


「……うん。いいね、それ」


最初に口を開いたのはノアだった。彼女はリクとサラに向き直る。その眼差しは、もう仲間の一人というだけのものではない。チームを率いるリーダーのそれだった。

「私たちは、リバイブだ。文句ある?」

リクは呆れたように肩をすくめ、サラは力強く頷いた。ノアの覚醒を、二人は感じ取っていた。


《リバイブ》のレッスンは、これまでとは比べ物にならないほど過酷を極めた。それは、もはや「命懸けのリハーサル」と呼ぶべきものだった。


「いいか、スクリーマーは高周波の無秩序な音に強く反応する。だが、低く、安定した特定の音波には逆に警戒心を示す固体もいる!」


アキラは、プロデューサーとしての知識と、この世界で生き抜いてきたサバイバーとしての経験を融合させ、独自の訓練プログラムを構築していた。それは、歌唱技術と戦闘技術を同時に磨き上げる、前代未聞のレッスンだった。


ある時は、スクリーマーの巣窟近くで、わざとノアに歌わせる。奴らが音に引き寄せられた瞬間、リクとサラが仕掛けた罠を作動させて撃退する。またある時は、狭い地下道でわざと音を反響させ、パニックを起こさずに歌い続ける精神力を鍛えた。

失敗は死に直結する。だが、少女たちの瞳から覚悟が消えることはなかった。


***


その頃、彼らの拠点から数キロ離れた廃工場では、別の音が響いていた。男たちの野太い笑い声と、奪ってきた物資を仕分ける金属音。一帯を支配する、最大規模の盗賊団のアジトだ。


その中央、ガラクタを改造した玉座に、一人の男が座っていた。身なりは他の盗賊と変わらないが、その目つきだけが異質だった。獲物を品定めするような、冷たく知的な光。


「……面白い」


男は、部下が手に入れた粗末な録音機を再生していた。ノイズの向こうから聞こえるのは、先日のスクラップ・ステージでノアが歌った、拙くも力強い歌声。


「間違いない。この声……この“人を惹きつける”周波数は、ただの偶然じゃない」


男の名は、ゴードン。厄災前、アキラと同じ音楽業界で名を馳せた大手レコード会社の重役だった。彼は当時から、歌が持つ力を信じていた。ただし、芸術としてではない。人心を操り、富を生み出すための「兵器」として。


「あの“世界を救う歌姫プロジェクト”の亡霊か……。アキラ、まだ生きていたとはな」


ゴードンは愉快そうに唇を歪める。


「いい土産物が見つかった。おい、お前ら。この歌姫を、丁重に“スカウト”してこい。この声は、俺たちの新しい支配の道具になる」


***


その夜。過酷な訓練を終え、ノアは一人、静かに歌の練習をしていた。アキラは壁に寄りかかり、その声に耳を傾けている。彼女の声は、この数日で別人のように安定し、表現力も増していた。


ノアが、曲の中で最も難しい高音のフレーズを静かに響かせた。

その声が、アキラの耳に届いた瞬間。

ふっと、彼の脳裏にセナの姿が重なった。


声質が似ているわけではない。歌い方も、魂の込め方も全く違う。だが、人の心を根源から揺さぶる、あの神に愛されたとしか思えない“何か”。その輝きの質が、セナとノアは驚くほど似通っていた。


(……最高の、才能)


それは、彼がかつて愛し、そして失った“推し”の亡霊。だが、今はもう、その幻影に絶望は感じなかった。

目の前には、セナではない、ノアがいる。傷だらけで、不器用で、それでも自分の足で立とうとする、新しい希望、そのものが。


アキラは、複雑な表情のまま、ただ静かにその歌声に聴き入っていた。

《リバイブ》の本当の戦いが、すぐそこまで迫っていることには、まだ、気づかずに。

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