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『終末のシンデレラは、ガラクタのマイクで夢を見る』 ―今日のライブの成功報酬は、きれいな水と缶詰一個!―  作者: トムさん


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第四章 「音の亡霊」

スクラップ・ステージでの一件は、小さな集落に無視できない波紋を広げた。ノアたちの歌は、異形を呼び寄せ集落を危機に晒す「災厄の呪文」だと恐れる者。その一方で、瓦礫の中から生まれたか細い希望の光だと称賛する者。人々は二つの意見の間で揺れていた。


そんな中、ライブを見ていた一人の年長者が、後片付けをするアキラに近寄った。

「あんた……あの歌、どこで覚えた?」

その声には、懐かしさと共に、拭えない怯えが滲んでいた。

「……昔、少しな」

「やめておけ」老人は低い声で言った。「その歌は、二十年前の“厄災”そのものだ。世界を救うはずの歌姫が、世界を滅ぼした……あの日の絶望を、呼び起こすんじゃない」


老人の言葉は、アキラの心に突き刺さった古傷を、容赦なく抉った。


その夜、アキラは悪夢にうなされていた。

――スポットライトが溢れる、巨大なステージ。観客の熱狂的な歓声。世界のすべてが、希望と輝きに満ちていた時代。

彼はインカムに鋭い指示を飛ばす、若き日のプロデューサーだった。


『世界を救う歌姫プロジェクト』


それは、大気汚染と紛争で疲弊しきった世界を、歌の力で一つにしようという壮大な計画。その中心にいたのが、アキラが見出した最高の才能を持つ少女――“セナ”だった。


彼女は、神に愛された声を持っていた。一度聴けば誰もが心を奪われる、完璧な音程と表現力。だがそれ以上に、彼女は天性のアイドルだった。もしノアが、生きるための強さで輝く野生の原石だとするならば、セナは、人々を魅了するために計算され尽くした輝きを放つ、完璧な宝石だった。その洗練された笑顔も、ファンを射抜く視線も、すべてがアキラの理想を具現化した最高傑作。それがセナだった。


ステージ上のセナが、プロジェクトのために作られた新曲を歌い始める。その歌声は、人々の魂を浄化するような神々しさを持っていた。アキラは確信する。この歌が、この俺の最高傑作が、世界を変える、と。


だが、曲が最高潮に達した、その瞬間。

世界は終わった。


空が裂け、耳を聾する轟音と共に、天から“何か”が降り注いだ。熱線がビルを焼き、衝撃波が人々を塵に変える。観客の歓声は、阿鼻叫喚の絶叫へと変わった。

ステージ上で立ち尽くすセナが、最後にアキラに向けた瞳。それは、信じられないものを見るような、絶望の色だった。


「俺のせいだ……」


廃ビルの片隅で膝を抱え、アキラは呻いた。あの歌こそが、厄災の引き金になった。それが、二十年間彼を苛み続ける罪の記憶。「音の亡霊」だった。


「アキラ?」

声に顔を上げると、ノアが心配そうにこちらを覗き込んでいた。

「……お前には関係ない」

「関係なくない! あんたがそんな顔してるのは、私のせいだろ!」


ノアのまっすぐな瞳から逃れるように、アキラはすべてを吐き出した。世界を救うはずだった歌姫プロジェクトのこと。歌が厄災の引き金だと噂されていること。そして、自分がすべてを失ったステージのこと。


「俺の作った歌が、世界を壊したんだ。だからもうやめだ。お前も、もう歌うんじゃない」


それが、アキラが自分自身に下した、二十年越しの判決だった。

しかし、ノアは静かに首を横に振った。彼女はアキラの罪も、傷も、すべてを受け止めるように、まっすぐに彼の目を見て言った。


「でも、あんたの作った歌で、私は救われた」

「……何?」

「瓦礫の中で、ただ生きるだけだった。でも、あの歌を聴いて、心がぞわぞわした。歌いたいって、初めて思った。ライブを見てたおじいさんも、懐かしいって泣きそうだったよ」


ノアは一歩、アキラに近づく。


「あなたの作った歌で、誰かが救われるなら、それでいいじゃん」


その言葉は、どんな慰めよりも強く、アキラの心を打った。

彼は初めて、目の前の少女を“見つめた”。

ただの厄介なガキじゃない。セナの面影を重ねるための代用品でもない。絶望の瓦礫の中から芽吹いた、強く、気高く、そしてどこまでも純粋な、一人の人間。ノアという名の、希望そのもの。


彼女が静かに口ずさむメロディが、アキラの耳に届く。その声に、彼は言い知れぬ不思議な感覚を覚えていた。まるで彼女の身体そのものが、音と共鳴しているような……。二十年前、プロジェクトの資料室で見た「音響生命体と人間の親和性」に関する、荒唐無稽なレポートのことが、ふと脳裏を過った。


アキラは、自分の中から何かが変わっていくのを感じていた。亡霊に囚われ続けた時間は、終わったのかもしれない。この少女と共に、もう一度だけ、音の先に何があるのかを確かめてみよう、と。

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