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『終末のシンデレラは、ガラクタのマイクで夢を見る』 ―今日のライブの成功報酬は、きれいな水と缶詰一個!―  作者: トムさん


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第十一章 「静寂のアンコール」

世界は、白一色に染まっていた。

ノアの命が昇華した歌は、浄化の光となり、錆びついた世界の隅々までを照らし出した。


光に触れたミュータントたちは、断末魔の叫びを上げる間もなく、そのおぞましい巨体を維持できずに塵へと還っていく。まるで、世界の歪みが正されていくように、静かに、そして完全に消滅していく。ダムの壁を埋め尽くしていた異形の津波は、陽光に溶ける雪のように掻き消えた。


アークの頂上。光の中心で、アキラは腕の中のノアが、ゆっくりと透き通っていくのを感じていた。

「ノア……」

呼びかける声は、届かない。彼女の身体は、もはや物質としての輪郭を失い、光の粒子へと変わっていく。引き留めようと伸ばした指は、ただ空を切るだけだった。

最後に、ノアはほんのわずかに微笑んだように見えた。アキラの腕の中に、温もりだけを残して、彼女は光の中に溶けて消えた。


カラン、と乾いた音がした。ノアが握っていたマイクが、アキラの足元に転がる。かつて淡い光を放ったそのマイクは、今はひび割れ、二度と音を拾うことのないただのガラクタになっていた。


やがて、世界を包んでいた光が、ゆっくりと引いていく。

後に残されたのは、悪夢のような静寂だった。異形の咆哮は、もうどこにもない。人類は、勝ったのだ。


アークのあちこちから、生存者たちの歓声が上がる。だが、その声はアキラの耳には届かなかった。彼は、ただ一人ステージの中央に立ち尽くし、足元の壊れたマイクを見つめていた。

世界を救うために、またしても自分は、たった一人の少女を犠牲にした。絶望が、鉛のように心を蝕んでいく。


だが、その時。

風に乗って、アキラの耳に微かな音が届いた。それは、瓦礫の向こうで、誰かが口ずさんでいる、ノアの歌だった。一人、また一人と、その歌声は伝播していく。恐怖に怯えていた子供たちが、戦いに疲れた大人たちが、誰もがそのメロディを口ずさみ始めている。


ノアは消えた。だが、彼女の歌は、彼女が生きた証は、人々の心の中に“記憶”として残っている。

アキラは、ゆっくりと壊れたマイクを拾い上げた。絶望の中で、彼は選ぶ。彼女が命を懸けて遺した、このささやかな希望を、守り抜いていくことを。


彼は歓声の上がるアークに背を向け、ただ一人、静かになった廃墟の街へと、再び歩き出した。


エピローグ 「錆びついた世界で、もう一度」

幾年もの月日が流れた。

世界から異形の脅威は去り、人々は小さな集落を各地に作り、穏やかな再生の時代を歩み始めていた。


ある集落の広場で、子供たちが無邪気に歌を口ずさんでいる。それは、かつて世界を救ったという、伝説の歌姫の歌だった。


その光景を、一人の男が、廃材で作った家のポーチから静かに眺めている。年の頃は五十を過ぎているだろうか。深く刻まれた皺の中に、穏やかな光を宿したその男――アキラは、布を取り出すと、膝の上に置いた古いマイクを、愛おしむように磨き始めた。ひび割れ、錆びついた、壊れたマイク。だが、彼にとっては、世界でたった一つの宝物だった。


穏やかな風が、彼の頬を撫でていく。

アキラは、ゆっくりと目を閉じた。


その風の中に、微かに、あの懐かしい声が響いた気がした。


「――プロデューサー、聴こえてる?」


アキラの口元に、柔らかな笑みが浮かぶ。彼は何も答えず、ただ静かに、空の向こうへと耳を澄ませていた。


――“夢”は滅びない。歌は、永遠に残る。

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