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『終末のシンデレラは、ガラクタのマイクで夢を見る』 ―今日のライブの成功報酬は、きれいな水と缶詰一個!―  作者: トムさん


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第十章 「最終ライブ」

月夜の誓いから数日後、彼らの日常は、轟音と爆炎によって唐突に引き裂かれた。旧世界の軍の残党による、容赦のない襲撃だった。目的はただ一つ、“音の兵器”であるノアと、その“技術者”であるアキラの確保。


「こっちだ!」


アキラはノアの手を引き、銃弾が飛び交う中を駆ける。リクとサラ、そしてオーディションで選ばれた少女も必死に続いた。だが、組織的な軍の攻勢の前に、彼らが築き上げた拠点は、あまりにも脆かった。次々と仲間が倒れていく。もはや、ここも安全な場所ではない。


絶体絶命の中、彼らは最後の望みを賭けて、人類最後の集落“アーク”を目指した。そこは、巨大なダムの残骸を利用して作られた、難攻不落の要塞都市。かろうじてアークに逃げ込んだ彼らが見たのは、地平線の彼方から、無数のミュータントの軍勢が押し寄せてくる、終末的な光景だった。軍の攻撃が、眠っていた全ての異形を呼び覚ましてしまったのだ。


「……もう、ここまでです」


アークの老いた指導者は、天を仰いで力なく呟いた。ダムの防壁も、この物量にはいずれ破られる。人類の歴史は、ここで終わるのだと。

その絶望的な沈黙を破ったのは、アキラだった。


「いや、まだ手はあります。たった一つだけ」


彼はノアを見た。ノアも、静かに頷く。やるべきことは、もう決まっていた。

《リバイブ》、最後のライブ。それは、世界を救うための最後の賭けであり、そして、ノアの命を燃やし尽くすための儀式だった。


ダムの頂上に、急ごしらえのステージが組まれた。眼下には、最後の抵抗を試みる人々と、ダム壁に取り付くおびただしい数のミュータント。

ステージに上がる直前、ノアはアキラに振り返った。その表情は、不思議なほど穏やかだった。


「……プロデューサー」

「なんだ」

「私、ちゃんと歌えるかな」

「ああ」アキラは、震えそうになる声を抑え、努めていつも通りに答えた。「お前は、俺が見つけた最高のアイドルだ」


そして、彼は言った。これが、彼が彼女に伝えられる、最後の言葉だった。


「最後まで、君のプロデューサーでいたい」


ノアは、一瞬だけ驚いたように目を見開いた。だが、すぐにふわりと、花が咲くように微笑んだ。それは、彼女がアキラに見せた、初めての心からの笑顔だったかもしれない。


「……うん。じゃあ、見ててね」


ノアはステージの中央に進み、マイクを握る。そして、歌い始めた。

彼女の歌声は、アークのスピーカーを通して、戦場と化した世界に響き渡る。その歌は、不思議な光を帯びていた。傷ついた人々の心を癒し、絶望に沈む魂に、最後の勇気を灯していく。


ダムの防衛線では、リクが銃を手に戦っていた。流れ落ちる涙で視界が滲むが、彼は歯を食いしばって引き金を引く。ステージの側では、サラが負傷者の手当てをしながら、祈るように手を組んでいた。自分たちのリーダーであり、かけがえのない友である少女の、あまりにも気高い最後の勇姿を、二人は決して忘れまいと、その目に焼き付けていた。


歌の光は、全てのミュータントを狂乱させた。ダムの壁を、津波のような勢いで駆け上がってくる。まさに、世界の終わりを告げる総攻撃だった。


歌がクライマックスに近づくにつれ、ノアの身体から、淡い光が立ち上り始めた。彼女の命そのものが、歌というエネルギーに変換されているのだ。その輝きが増すごとに、彼女の表情からは血の気が失われていく。


「……っ!」


ついに、ノアの膝が折れた。だが、歌は止まらない。倒れ込みながらも、彼女は歌い続ける。それが、自分の命の使い方だと知っているから。

その彼女の前に、アキラが走り寄った。彼は崩れ落ちるノアの身体を支え、その口元に、ただひたすらマイクを支え続けた。


「歌え、ノア……!」


彼の耳に届くのは、もはや歌声だけではない。愛しい少女の、命が消えていく音だった。

ノアは、アキラの腕の中で、最後の力を振り絞る。彼女の瞳には、プロデューサーである男の姿だけが映っていた。

そして、歌は完成した。

光に包まれた世界の中で、確かに“音”だけが残った。

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