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第2話 幼馴染は誘惑する


「今日も対応お疲れ、優樹菜」


「ありがとう、瑛くん」


瑛哉が教室のドアを閉めて優樹菜が座っている席に向かうと、近くの机を優樹菜の席の机に繋げ、対面するようにして席に座る。

そうしつつ生徒達の対応に対する労いを言えば、優樹菜は優しい微笑みで感謝を述べた。


「さて、今日もやるか」


「うん。 いつも通り、分からない場所があれば教え合う、で良いんだよね?」


「ああ」


瑛哉と優樹菜、この2人の関係は、保育園時代からの幼馴染。

家も隣同士で、両親が仲が良いということもあり、昔はいつも2人でいるのが当たり前だった。

だが、この関係を家族以外に知っているのは、2人が信頼している人である悠人、そしてもう1人しかいない。


「毎日そうだけど、教室にいても暑いよね〜」


「効き悪いもんな、この学校のクーラー。 まあ図書室のクーラーはどの教室よりも効きが良くて涼しいけど」


「…瑛くん、夏の間だけは図書室で勉強しない?」


「他の奴が来て見つかったら面倒だろ…

というか、バレたら結構ヤバいからな?」


わざわざクーラーの効きが良い図書室ではなく、効きが悪い教室を使っている理由。

それは、他生徒との遭遇率にあった。

優樹菜との関係を隠したい瑛哉にとって、図書室は不特定多数の生徒が立ち寄る可能性が高い。

しかし、この教室なら滅多に生徒が来ることはないのだ。


「それは分かってるけど…6月末でこの暑さだよ?

後半からは夏休みとはいえ、7月に入って気温がまだ上がるって考えたら…」


「とりあえず、今日は課題の量少ないし、さっさと終わらせて帰ろう。

そうすれば、家に帰ってからクーラーがかかった部屋で過ごせる時間が増えるだろ?」


「はぁ〜い。 …でも~、もう一つ理由あるんじゃないのかな、瑛くん?」


「…もう一つの理由?」


教材を広げながら話をしていた瑛哉が、目線を上げて優樹菜の顔を見る。

今の口調からも分かる通り、普段見せている『白雪姫』は、良家の娘という事を印象付けさせるための姿。

しかし、今の優樹菜は『白雪姫』モードではなく、瑛哉の前にだけ見せる、神白宮優樹菜本人の姿なのだ。


その性格を一言で表すなら、”悪戯(いたずら)()”という言葉が当てはまるだろう。


「図書室だと他の人が邪魔になって、私の事独り占め出来ないもんね~」


「…別に、そういう訳じゃ…」


からかうような口調で、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら言う優樹菜に、瑛哉は視線を反らす。


「そうじゃなかったらさ、何で学校で囲まれてる私を見た時に寂しそうにするの?」


「…」


図星である。

関係を隠さなくてはならないとはいえ、本当は優樹菜と昔のように喋りたい。

瑛哉の鍛えたポーカーフェイスで隠しているその思いを、幼馴染である優樹菜は余裕で見破ったのだ。


「図星みたいだね~」


「…悪いか」


「いいや全然。 むしろ、私からしたら嬉しいよ?」


席から立ち上がり瑛哉の席までやってくると、体を滑り込ませるようにして瑛哉の膝の上に座る。

しかも、対面するように。


「ちょっ、おい」


「ふふ、これで逃げられないね?」


更に、両腕で頭を抱き寄せるようにして、優樹菜は瑛哉に目を合わさせる。

整った顔立ちと宝石のような輝きを放つ碧眼がすぐ近くに迫り、クーラーがあまり効いていないことによって少し汗ばんだ肌からは、甘い香りが漂っていた。


小さい頃なら特に気にせずに受け入れていた幼馴染からの抱擁は、思春期真っ只中の高校生である瑛哉にとって精神的にくるものがある。

一方で、その全てがお見通しな優樹菜は、瑛哉の狼狽える姿を見たいという悪戯心が沸々と湧いており、その顔は妖艶な笑みに満ちていた。


「汗かいてるから臭いだろ…」


「私だってかいてるんだしお互い様。 それに、全然臭くないよ」


そう言いつつ体を密着させるように瑛哉にもたれかかると、主張が激しい部分が押し潰され、ふわりと香る優樹菜の甘い匂いが瑛哉の鼻腔をくすぐる。

女性特有の柔らかさが直に伝わるこの状況は、瑛哉にとって非常によろしくない。


「一旦離れてくれ…誰かに見られたらどうするんだ」


「その“誰か“に見られないように、わざわざ暑い教室で勉強してるんでしょ?」


「その勉強を妨げてるのは一体誰なんだろうな?」


「私」


「自覚あるのかよ…」


「ここまでして自覚ない方が珍しいと思うよ?」


「それはそう。 というか、お前に限ってそんな事ないだろうけどな」


「よく分かってるね〜」


「何年幼馴染やってると思ってんだ。 とにかく、早く退いてくれ」


瑛哉がそう言えば、優樹菜は観念したのか「はぁ〜い」と言いながら瑛哉の頭を解放する。

やっと解放されると瑛哉が安心した瞬間───体をぐっと伸ばし、瑛哉の耳元に顔を近づけた。


「ずっとドキドキしてて可愛いね」


「っ!」


魅惑的な声で囁かれた後に生じた、耳に一瞬柔らかいものが押し付けられた感覚。

数瞬の思考の後に何をされたのかを認識した瑛哉は、どんどん顔が熱くなっているのが分かった。


「ふふふ、すっごく照れてる」


「…お前な」


「だって、瑛くんが可愛いんだもん」


「高校生男子に可愛いも何もないだろ」


「可愛いよ。 ちょっとスキンシップしただけで、顔赤くしてこんなにドキドキしてるんだから」


再び両腕を瑛哉の頭に回すと、顔が触れ合う寸前まで近づく。

そして、言った。



「これからも私にドキドキして、可愛い姿を見せてね、旦那様」



これが、2人が婚約者になってからの日常。

からかい、からかわれる、他の生徒達が知らない秘密の関係だ。


キリがいい終わり方だったので、連続投稿です

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