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第1話 白雪姫は人気者


高校1年の6月末。

白瀧瑛哉(しらたきてるや)”はいつも通りの時間に学校に着き、教室にある自分の席で本を読んでいた。


授業の予習や課題も前日までに済ませ、この読書の時間を過ごすのが瑛哉の高校に入学してからのルーティン。


教室内では友達と話す者、課題を授業までに間に合わせようと必死にペンを走らせている者、瑛哉と同じく1人の時間を過ごしている者など様々だが──ある少女の登校により、その行動は一時中断された。


教室の扉が横にスライドし、現れた人物。

この学校で1番の美少女と称され、『白雪姫』と呼ばれる事もある、女子生徒の目標。

男子生徒の誰しもが懐に置いてみたいと1度は思った事がある程の美しく、そして可憐な少女。

神白宮優樹菜(かしみやゆきな)”である。


「あ、神白宮さんおはよう!」


「おはようございます」


挨拶してきたクラスメイトの女子に、静かな微笑みを浮かべて返答する優樹菜。


宝石のように輝く青い瞳と、いつ見ても光沢があるサラサラとした純白の長髪は、左右の三つ編みを使って後ろにまとめられている。

日焼けや肌荒れが無い新雪のように白く、それでいて健康である事を思わせる乳白色の肌は、触ればどれほど柔らかいのかが想像できない。


長い睫毛に覆われた、宝石の様に輝く青く大きな瞳と整った鼻梁は、彼女の繊細な美しさを誇り、まるで人形のよう。

加えて、やや低めの身長だが、主張がはっきりとした、全女性が羨むようなスタイルの良さ。


だが、これだけでは終わらない。


定期考査や体育の実習ではいつも上位の成績を残しながらも、その事を驕らず謙虚で、誰隔てなく優しい性格をしており、更に彼女の家は古くから続く名家。


容姿端麗、成績優秀、完璧な性格、良家の子孫。


それらが、彼女──神白宮優樹菜が『白雪姫』と呼ばれている要因だった。


「神白宮さん、今日の1限の数学のプリントって終わってる?

良ければ見せて欲しいんだけど…」


「待て待て、俺も見せてほしいんだけどいい?」


「俺も俺も!」


「ねぇねぇ神白宮さん、放課後どこか遊びに行かね?」


瑛哉が視線を本から優樹菜に移すと、机の上に鞄を置いた彼女にクラスメイト達が群がり始める。

人気者である彼女の周りには、いつも誰かがいるのが日常だ。


「(断ればいいものを…相変わらずの優しさだな)」


純粋に頼っている者もいれば、帰りに遊ばないかと誘う者もいる。

気遣う者も一定数いるが、優樹菜からすれば只々迷惑でしかないし、遊ぶ気満々の生徒には呆れるしかない。


『白雪姫』と仲良くしたい気持ちはよく分かるものの、自分勝手な行動に瑛哉は眉を顰めた。

しかし、優樹菜が『白雪姫(・・・)の姿でいる理由(・・・・・・・)を、瑛哉は知っている。

だからこそ、何かを言うこともしないし、こうして関わらないようにしていた。


「相変わらずだなぁ、『白雪姫』は」


瑛哉の元にやってきたのは、中学時代からの友人である“槻舘悠人(つきだてゆうと)”。


普段目立たないように生活している瑛哉にとっては唯一の同性の友人であり、瑛哉の素性(・・)を知った上でも気軽に話しかけてくるため、いつの間にかこうして雑談をする仲になっていた。


「名家出身っていうことも関係あるんだろうけどな」


「瑛哉も神白宮さんの事言えねぇからな?」


「まあ、それはそうだけどさ」


悠人に笑い混じりにツッコミを入れられると、瑛哉は開いているページに栞を挟み、本を閉じて机に置く。

優樹菜に群がる生徒達に、眉を顰めながら瑛哉が横目で侮蔑の視線を送るが、こちらの視線に見向きもしない。


「瑛哉もあれぐらい愛想よけりゃ、もっと友達できてるんだろうけどな」


「どこからあの事(・・・)が漏れるか分からない以上、あまり交友関係を増やすのは得策じゃ無いだろ」


「でも無愛想すぎると思うぞ?

…ホント、不器用だよな」


「うるせぇ」


そうしない理由を知りながらも、愛想をよくしろという提案をしてくる悠人に瑛哉は悪態をつく。

実際のところ、悠人はコミュニケーション能力が高く、既にほぼ全員のクラスメイトと打ち解けており、中学の頃その人脈に助けられたこともあってか、言い返そうにも言い返せない。


それを分かっているからか、何も言い返せない瑛哉に、悠人は呆れと笑い半分の顔で視線を向けた。

その視線に居心地が悪くなると、再び悠人から目線をそらした。


すると、横目に見ていた優樹菜とふと目が合う。

瑛哉が「お疲れ様」と口パクで労いつつ視線を送ると、優樹菜から優しい笑みが返ってきた。

再びクラスメイトに話しかけられると、優樹菜は瑛哉から視線を外し、静かな微笑みを浮かべて応対を再開した。


「(俺から見たら長年付き合ってる恋人のそれ(・・)なんだよなぁ)」


2人の僅かな仕草を見逃さなかった悠人は、ニヤニヤとした笑みを瑛哉に浮かべる。

その笑みを不快に思った瑛哉は、机に置かれている悠人の手の甲を軽めにはたいた。




────────────────────────────────




時は過ぎ、時計の短針が4時を超えた頃。

荷物をまとめ、家に足早に帰る者や部活へ向かう者、より道をしに友人を誘う者など、学校中の生徒達が活気立っていた。


「瑛哉〜、今日も残るのか?」


「ああ、テストも近いからな」


「流石毎回テスト上位の優等生だな」


「お前も少しは居残って勉強したらどうだ? 一夜漬けじゃ厳しいのは分かってるだろ?」


「大丈夫だって、授業で理解できてるから」


「ならいいけど」


「…おっと、この後用事があるんだった。 瑛哉、また明日な!」


「ああ、また明日」


言葉を交わすと、悠人は足早に去っていく。

少し急ぎの用事なのかと軽く考えつつ、瑛哉も荷物を鞄に少しだけ詰めて足早に教室を出る。

向かったのは図書室。

受付すらいないこの放課後の時間帯は、あまり人も来ないため、勉強に集中できる最善の場所と言ってもいいだろう。

しかし、主に瑛哉が放課後勉強しているのは、この場所ではない。


「とりあえず、今日習った範囲だけ確認しておくか」


その場所が空くまでの10分程で、授業を受けた範囲の確認をする。

それが、この図書室の活用方法なのだ。




────────────────────────────────




丁度10分が経ったことを時計で確認した瑛哉は、広げていた教材を鞄に入れ、図書室から出る。

その目的地は───先程までクラスメイト達が和気藹々と雑談をしていた、人影が消えた教室だ。


「あ、(てる)くん」


教室のドアを開けると、中には1人の少女が机に教材を開き、問題に取り組んでいる。

純白のロングヘアー、整った鼻梁と宝石のような青い瞳、理想的なスタイル。

鈴が転がるような声で瑛哉を呼び、優しい微笑みを浮かべたその少女の名は───神白宮優樹菜。


学校1の美少女である『白雪姫』。

そして…瑛哉の“幼馴染”だった。


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