幼女に人生逆転デスゲームに招待されたかと思ったら、誰も死なないぐだぐだデスゲームだった
短編二作目。暇つぶし程度に書いた話です。どうぞ温かい目でご覧ください。
今年で三十八歳になる俺は、無職の男だ。
会社全体を巻き込むほどの重大なミスをしてしまい、クビになってから早二年。築八十年の激安ボロアパートの一室で、今日も真っ昼間から酒缶を呷っていた。
「よし、来い……来い……キタキタキタ!」
右手に新聞、左手に馬券を握りしめ、競馬中継の流れるラジオを聴いていた。
すっかり古くなったラジオ機器は、雑音だらけだが、その中継が流れる瞬間だけは、現実の鬱屈から解き放たれ、束の間のスリルと興奮を味わわせてくれる。
「チッ、今日もまたダメか……」
結局、人生も馬も思い通りにいかないな。
そんな馬鹿らしい言葉を吐き捨てながら、ゴミ袋と空き缶だらけの狭い床に寝転がる。ふとスマホを見遣れば、母親から「親不孝者」の烙印を押されたメールばかり届いていた。
呆然と液晶を眺めていると、突然「ドンドン!」と、薄いトタン状のような玄関扉が叩かれる音がした。
また家賃の催促か──ふぅとため息をつき、脂肪だらけのかったるい全身を起き上がらせ、玄関へと向かう。
「……ん?」
扉を開けても、そこには誰もいなかった。
その代わり、ポストの中に一通の黒い手紙が届いていた。消印はなく、宛先不明のものだ。
少し怪訝に思いながら、封を開けてみる。
そこにはボロい紙が入っており、そこには汚い字でこう書かれてあった。
『こむにちわ こんかよる12じ デスゲームやります こい』
不気味なくらいにひらがなで構成された文章だ。
恐らくこれは、デスゲームに招待されている証だろう。そう……俺はデスゲームに招待されたのだ。
宛先は不明だが、その裏には、表とは違う達筆の筆字で、デスゲームの舞台となる住所が書かれていた。
「って、いやいや……デスゲームって何だよ、一昔前のフィクションか」
今時古いし、そんなのにノコノコ付いて行くかよ。
そう思い、黒い手紙をゴミ箱に放り込もうとした。
いや、だが待てよ……デスゲームと言ったら、一攫千金、千載一遇のチャンスではないか。こんな怠惰なニート生活からおさらばできるなら、俺は何だってする覚悟だ。例えこの腐り切った命を賭けるとしても……。
結局、手紙を捨てる事はしなかった。いや、できなかった。
もしかしたら只の悪戯かもしれないが、実際に確認してみないと分からない。よし、決めた。今夜、書かれている住所に行ってみよう。
胸の内は、ぞわぞわと、未知の興奮でいっぱいだった。
◯
その日の夜十二時、俺は黒い手紙に書かれていた住所に来ていた。
街の外れの森、廃墟の洋館だった。俺は庭で洋館全体を見渡し、「大きな建物だな……」と感嘆の声を漏らす。
ギギギ……と不気味な音を鳴らし、古びた木製の玄関扉を開く。
そこには薄暗い大広間が待ち構えていた。既にそこには、それぞれ年齢と性別の違う四人がいた。俺と同じ、デスゲームの参加者だろう。
大広間の中心には、大きなテレビモニターがある。画面はまだ真っ黒だ。
「早く始まらないかしらねぇ」
「全く……約束の時間から五分経っているというのに、全然進まないじゃないか」
厚化粧の女性と禿頭の中年男が、不機嫌そうに貧乏揺すりしている。
スマホの時計を確認すると、確かに約束の時間から五分過ぎていた。デスゲームって開始遅れたりするのか。
すると、テレビモニターが起動する。最初は砂嵐っぽい画面だったが、しばらくするとこのような文字が表示された。
『ただいま、準備が遅れております。しばらくお待ちください』
いやネット配信の生放送かよ。
……と思ったが、すぐに画面は切り替わった。
表示されたのは、薄暗い部屋だ。両端には赤いカーテンが掛けられていて、真ん中には肘掛け付きの豪勢な椅子が置かれてある。
――ザザザ。
そんな雑音と共に、突如、横から現れた謎の幼女が腰掛ける。ベネチアンマスクを付けていて素顔は分からないが、真っ黒なドレスに身を包んだ十二歳位の幼女だ。
……まさかこの子が、デスゲームの主催者なのか?
訳の分からないまま、じっと彼女の言葉を待つ。
『……ようこそ……命懸けの、デスゲーム……へ……』
幼くも不気味な喋り方で、画面越しの俺達を恐怖させる。
これからどんな酷いゲームが開始されるというのか……俺は固唾を飲んだ。
「おい、こんな所に俺達を呼び出しといて、テメェは別室待機かよ!」
「面白そうだから来てみたってカンジだけど……これから何かする的な?」
不満を露わにする大学生くらいの若い男性と、喋りながらスマホをいじっているギャル系女子。個性豊かな面々だ。
『これから、皆様には……あるゲームをしていただきます……それは……人生をかけた、最低最悪のデスゲームです……』
よし。やっとデスゲームの幕開けか。
しばらくして、仮面をつけた黒服の男達が現れ、俺達の前に一つのテーブルを設置する。テーブル上には、五枚のカードが置かれていた。
その五枚のカードの内、一つだけドクロのマークが描かれている。幼女が描いたのだろうか、原形が曖昧なほどに汚い。
「ようやく、デスゲームぽくなってきやがった……」
冷や汗が流れ出す。緊張からか、胸もどくんどくんと脈打っているような感覚がした。
なるほど、五枚のカードを一人ずつ順番に引いて、ドクロマークだった人間が死ぬって事か。面白い……面白いぞ、これは……!
こうして、本格的なデスゲームが幕を開けようとしt――。
『王様げぇぇぇぇーーーーーむ!!!!!!!』
え?????
場違い過ぎる発狂級のテンションに困惑した。
は? 今、何て言った、この幼女は? え? 王様ゲームつった? 合コンとかで盛り上がる、あの? 何番と何番がくっつくとか、何番と何番がラップキスするとかいう、あの??
『今から皆様には、五枚のカードを一人ずつ順番に引いていただきます……』
「それで、ドクロのマークを当てた人は死ぬんだよな? なぁ?」
『それで、王冠のマークを当てた人の言う事を何でも叶えて差し上げます……』
「あれ王冠のマークかよ!? 紛らわしい描き方すんな!!」
ともあれ、ゲーム開始。
「あ、あたし王様じゃーん。ラッキー」
「ち……畜生っ……!!」
ギャル系女子が王様か。なるほど。
っていうか若い男、何で露骨に落ち込んでんの? 本物の合コンとかと勘違いしてんの?
『では、願いをどうぞ……』
「じゃーあ、この場にいる全員に百億円」
はぁ!? んな事、出来る訳ねーだろ!?
『わかりました……』
出 来 る ん か い !
「いや、待て待て待てぃ!! 明らかにデスゲーム主催者の出費が致命的すぎるだろ! というか、百億なんて大金集められんのか!?」
『わたし、いちおう、石油国の姫……』
「おいまじかよすげぇな石油国の姫」
そんな幼女が何故こんな所でデスゲームを行っているのか。
というかこの子、悪い奴とかに騙されそうだな。将来が心配だ……って、何でデスゲーム主催者側の未来を案じてんだよ俺。
『では、気を取り直して……』
「気を取り直すの!?」
まるで何事もなかったかのように、黒服達がテーブルとカードを回収して退いていく。今までの時間は何だったのだろうか……。
『次なるゲームをお教えします……次なるゲームの名は……』
「ゲームの名は?」
『崇拝されし悪魔による殺戮と暴虐の……』
「崇拝されし悪魔による殺戮と暴虐の……?」
俺は固唾を飲む。今度こそ、本当にやばそうだ。
『ポッ○ーげぇぇぇぇーーーーーむ!!!!!!!』
「結局そうなるのかよ!!!!!!!」
「崇拝されし悪魔による殺戮と暴虐のポッ○ーゲーム」って何だよ! 単語がちぐはぐ過ぎて訳分かんねぇ!!
「もっとマシなゲームないのかよ!? さっきから恋人やら合コンやら系のネタばっかじゃねぇか!! もう少しな、デスゲームっぽいダークな雰囲気のをだな……」
『っぐ……おじさん、むずかしい事言ってて分かんない……』
「分かんないのかよ!?」
何だかまるで、子供に説教を垂れている大人げないクソジジイみたいになってきた。ある意味、事実ではあるのだが。
実際、周りにいるデスゲーム参加者達のドン引きするような視線が……って、お前らも俺と同じ立場だろ。
『どうやら……我々が今用意したデスゲームでは……生ぬるい、というのですね……』
「なっ……! そ、そうは言ってないが……」
まずい、文句を言い過ぎてしまった。このままだと、最もやばそうなデスゲームを提案されかねない。
己の失態を恥じても、時すでに遅し。
ギィィ――。
「ならば……最後にこのゲームを提案しましょう……人類の歴史史上、最も残酷かつ華麗なデスゲームを……」
ついに幼女は、重い両扉を開き、俺達の目の前に姿を現したのだ。
思ったよりも小さいその体には、漆黒のマントを纏っている。マスク越しにギンギラに輝く赤黒い瞳が、俺達を捉えていた。それは正に、獲物の如く。
「『悪魔の審判』ゲームを……始めましょう……」
悪魔の審判ゲームだと!?
なるほど、今の今までが小手調べだったという訳か。全てはこのゲームの為に用意された単なる余興……!
「あら、いいわね~」
「仕方ない、やってやろう……」
厚化粧の女と禿頭の男は、重い腰を上げる。
「いいぜ、面白そうじゃねぇか!」
「何それ、やばみ」
若い男性とギャル系女子も、かなり乗り気のようだ。
「では、参りましょう……」
その幼女の発言を皮切りに、参加者たちは一斉に拳を込める。
一体、どんなゲームが始まるというのだろうか。針山ぶっ刺しか? 水槽閉じ込めか? もしくは……毒ガス密室か!?
「「「「「さーいしょーはグーーー、じゃーんけーん……」」」」」
もう全員くたばれ。
ネタ切れでした。皆様のデスゲーム案お待ちしております。