98話 二人の剣士③
私はその場でしゃがみ背後の南雲八雲の横斬りをギリギリかわす。しゃがんだ後その場でくるりと反転し、その勢いで回し蹴りを喰らわせる。
「ぐっ!」
南雲八雲は鈍い声をあげた。バランスを崩す彼女に対し斜めに斬りあげる。
「舐めないで!」
バランスを崩しながらも、彼女は剣を地面につき差し倒立しながら私の剣を受けた。不安定な状態にもかかわらず剣がぶれたりしない。相当な筋力ね。
「えいや!」
その後彼女はこちらへ足から落ち、踵落としを喰らわせてきた。首を捻って頭へ当たるのは避けられたが、体をそらしきれない!左肩に当たってしまった。
「うぐぅ!」
今度は私が鈍い声を上げる番だった。私が言えたここではないが、剣士が足技を使うなんて…!自分が特殊だと思っていたことを敵にやられると反応が遅れる。肩に当たっている踵に力を入れて飛び、うまく着地する彼女。ダメージはそれほどでもない。まだやれる。私は着地した南雲八雲に対し、
「三の剣、五月雨!」
斬り込んだ。三の剣、五月雨は敵の懐に飛び込み二つの剣を交互に振り斬る技。着地したと同時に懐に入られた南雲八雲は驚いた顔をしている。
「にゃっ!?」
剣をあげて防御の体勢に入るが遅い!取った!
「なーんちゃって!」
斬り伏せたと思ったが斬った感触がない!?少し混乱していると目の前にいる南雲八雲は消え失せてその背後からもう一人、南雲八雲が立っていた。
「私の得意技、幻影。素早く動いて幻をその場に残す技だよ。騙されたでしょ?私これでびっくりする顔見るのが好きなんだ。それ見てる間に攻撃しろってよく凛には言われちゃうんだけどやめらんないだよねー。」
くっ!舐められている!明らかな隙を見逃されたのは相当な屈辱。剣士としてここまで怒りを感じることが他にあろうか!私は体勢を整え、二つの剣を構える。
「そちらがその気なら、私は本気でやろう。その態度続けるつもりなら覚悟してもらう。存分に慢心して逝け!」
私は剣を向けそう告げる。怒り心頭だが、心は努めて冷静に。呑まれてはいけない。
「これ以上があるってこと?いいよいいよ、お姉さん!私ともっともーっと殺り合おう!お楽しみはこれからだよ!」
そう言うと南雲八雲も剣を構え直し私の方へ駆け出す。私とぶつかり合う直前に空へ飛んだ。そして縦に回転しながらこちらへ突っ込んできた。
「転昇刃!まわれまわれまわれまわれまわれまわれ〜!」
刃を立ててぐるぐる迫ってくる彼女。愚直にも思える攻撃だが、シンプルながらに捌くのは難しい。まず人間が回転してるとは思えないくらい回転速度が早い。だが、
「甘い!」
私は右手の剣を使い斜め上にむけて一閃した。それが南雲八雲の剣に当たり回転を止める。
「この程度で勝ち誇らないことね。はぁっ!」
空いている左手の剣で彼女に斬りつける。それを彼女は空中で体を捻りかわした。器用な子ね!そのまま着地し連続斬りをしかけてきた。その剣速は早い。それに合わせるように私も剣を振るう。剣と剣とがぶつかり合い甲高い音が周りに鳴る。その激しさは次第に増していく。お互いの剣の速度は同等。このままでは埒があかない。それは彼女もわかっているはず。どちらかが仕掛けなければ。
「やっぱりお姉さん強いね〜。でもでも、これはどうかな?」
彼女の方が先に仕掛けてきた。下から上へ掬い上げるように剣を振るった。それを両手の剣を十字にして受け止める。
「ッ!?」
威力が強すぎて両手の剣が上に弾かれてしまった。なんとか手放さなかったが、これはマズイ…!
「こっこだー!」
私のガラ空きの胴を目掛けて剣を振るう、南雲八雲。このままでは私の体は真っ二つだ。マズイ、どうする。こうする!
「盾よ!」
そう叫ぶと目の前に透明な盾が出現。といっても無詠唱。ミルほど魔法が得意なら詠唱ありと遜色ない盾がでるんでしょうけど、私では小さい盾が出るだけだ。だが、今回はそれで十分だった。刃が止まれば良いのである。
「クロードみたいに魔法ってわけ!?それってずるくなーい!?」
「あら?戦いは持ってる力全てを使うものよ?」
刃は止まった。その無防備な身体に対して蹴りを放つ。さっきの踵落としのお返しよ!
「はっ!」
「ぎゅむっっ!?」
南雲八雲は吹き飛んでいった。剣をキャッチしてそこへ追撃を掛ける!
「衝波二連撃!」
剣を二回振り衝撃派を二つ飛ばす。流石の南雲八雲も避けることはできまい。
「きゃあああああああ!」
悲鳴をあげ切り刻まれる南雲八雲。辺りに血が飛び散る。その量は少し。む、思ったより切れてないわね?服が切れ少し肌が露出した状態の彼女はヨロヨロと立ち上がった。
「はぁ、はぁ、この服が防弾防刃の服じゃなかったら死んでたにゃ〜!でもこうなっちゃったら効果はもうないだろうけどねっ!私はまだやれるよ!まだまだ殺し合おう!!」
息も絶え絶えでそんなことを言う彼女。
「もう決着は見えたはずよ!もう良いでしょう。ここで引きなさい。じゃなければ次は殺さなきゃいけなくなる。」
「それでいいよ!戦いの中死ねるなら本望だよ!私と凛はそうやって育ってきたんだから!」
ミナトからこの国は平和な国だから武器を持ち歩かなくても大丈夫だよ、と聞いていた。だが目の前にいる女性はなんだ?私たちの国にいた戦士たちと何が違う。それとも彼女たちは例外だとでも言うのか。ならば彼女の気持ちを受け取る行為とは。
「わかったわ。貴方の身を案じた発言、戦士として恥ずべきことだった。ここに謝罪を。それではいかせてもらう。」
容赦はもうしない。それが彼女の望むことと知ったから。
「さぁ、いくよ!貴方院流、幻魔滅殺!」
大きく振りかぶるような体勢をとりこちらに切り掛かってくる。本来なら隙だらけに見えるその技も、高速で放たれたら隙なんてありもしない。ならば私も。
「バンクス流奥義、篠突く雨!」
篠突く雨は上から下へ隙間なく剣撃を降らせる技。これで決着をつける!
「はぁ!!」
「やぁ!!」
南雲八雲の剣と私の双剣がぶつかり合う。激しい剣のぶつかり合い。結果。
ばりん!
「きゃあああああ!!」
剣が折れ南雲八雲が吹き飛んでいく。私の勝ちだ。吹き飛んだ南雲八雲はそれでもよろよろと立ち上がる。そしてその手に握った剣を見て
「はぁはぁ。これじゃあ続きはできないね……。トドメ刺しなよ。」
「そうね。そうしてもいいのだけれど辞めとくわ。貴方からは悪人の気配がしない。また手合わせしたいもの。」
それは本心からの言葉だった。それに私は人殺しはできれば避けたい。
「そっか。甘い事だね。次会うときは貴方の命奪っちゃうから!」
そう言うと南雲八雲はばたりとその場に倒れ込んだ。どうやら気絶したらしい。さてこちらは終わった。咲良の方はどうなっているかしら。
金属と金属がぶつかり合う音。私と彼女の剣は互いを求めるようにぶつかり合う。いえ、私にはその気は一切ないのですが。剣をぶつけ、体をそらし敵の剣をやり過ごします。お互いに実力が拮抗しているので避けきれないところは傷になりどんどんと赤い雫が垂れていきます。…見間違いでしょうか。傷が付けば付くほど彼女の表情が恍惚なものになっていきます。
「どうです、どうです!?どんどん楽しくなってきました!互いに美しい赤に身を染めて。こんなに楽しくて美しいことがあるでしょうか?」
などと声をかけてきます。
「私にとっては痛いだけです。血が流れるのも服が汚れるから嫌です。血って洗濯しても落ちないので捨てるしかないんですよ?」
「衣服なんてどうでも良いではないですか!私は裸でも良いくらいです。鎧を着込む時代ではないのです。ドンドン晒け出そうではありませんか!」
「ドMのうえ露出癖まで…!?もう救いようがありませんね!」
話している間も決して手を緩めません。私たちは血と衣服を散らしながら剣を張り合います。文字通り薄皮一枚のところでかわしているのでどうにかなっています。少しでも油断したら真っ二つですね。
「楽しい楽しい楽しい楽しい!はぁはぁ、やはり美しい剣士との死合は楽しい!それで私の剣で切り伏せたらもっと楽しい。いえ、気持ちいい!エクスタシーを感じます!さぁ最上のエクスタシーを私にください!」
「最初に感じたクールな感じがここまでになるとは.…ドン引きです…。」
私は戦う相手を絶対に間違えました。相性というか性格的に合いません。とことん不快です。しかしこれでは埒があきません。一度後ろに下がって距離をとります。
「おや?もうへばってしまったのですか?私たちの愛の物語はまだまだおわりませんよ?」
「一方的な愛の押し付けは感心しませんね。相手を思ってこその愛です。」
誰かにツッコミを入れられた気がしましたが気のせいでしょう。
「つれないこと言わないでください。私は貴方に惚れました!私を殺そうとする冷たい眼。迷いない鋭い太刀筋。それはまさしく私と同類。私を感じさせてくれる貴方と出会えたことにある感謝を!」
「本当に気持ち悪いですね!ここで倒れてください!舞桜!」
舞桜は桜の花びらが散るようにひらひらと移動し私をとらえなくさせてその隙をつく技です。狙った通り私の動きをキョロキョロと見ています。この隙に!
「取りました!」
「甘いですよ!」
私の一撃は彼女の剣に阻まれました。私の一撃は完璧だったはず。何故?
「攻撃する一瞬、動きが単調になりましたからね。見破らせていただきました!」
と言っていますが高速で動いてきた私の動きについてきたということですか。どんな反応速度ですか!
「そろそろあちらも決着がつく頃です。こちらもそろそろ終わりにしましょう。奥義にて決着つけさせてもらいます!」
彼女からの圧が大きくなります。これはまずいかもです。
「貴方院流、鬼神招来!」
気が大きくなって彼女が大きく見えます。何故かはわかりませんがその太刀までも大きく見えます。その大きい剣が私に向かい切り込まれていきます。一振り二振り。それぞれ身をそらしてかわしましたが、その剣の力強さ。受けたら剣ごと真っ二つになりそうです。こうなれば。剣を鞘に戻し。
「貴方の趣味嗜好はともかくとして、剣撃は素晴らしいですね。私も里見式の秘技でお相手いたします。秘技!こぼれ桜!」
私はその場から高速で動きます。それは幻影が残るくらい高速に。こぼれ桜は高速移動の技。今までも高速移動はしていましたが、それよりも高速で動きます。欠点は使った後足が痛くなる事です。
「見えない…!私の眼をもってしても見えない!なんて早い!そして残る残像は美しい!素晴らしい技です!」
そして最後は
「居合、徒桜。」
こちらの動きを見切れていない彼女にむかい技を放ちます。その身体に剣を振います。今までの剣を受けた衣服の散り方から防刃だと推測できます。だから殺すつもりで放ちました。どうせこのドエムさんは死なずに喜ぶでしょう。
「ああああああああ!!エクスタシー!!!」
ほらやっぱり。服は裂け、淑女としては目も当てられない姿になっていますが本人は恍惚の表情を浮かべています。はぁ、やれやれですね。やっと終わりました。ネリネさんの方はどうでしょうか?無事だといいのですが。




