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9話 マスデバリア

 ミナトが刺された。私が目の前の敵に手こずっている間に横から現れた別の男に。最初に盗賊達が現れた時に、加減をして剣を折るだけでなく、盗賊達を斬っていればこんなことにはならなかったはず。私の責任だ。ウルフからミナトを助け、ラークー街でミナトと旅をすると決めた時から、守りきると覚悟を決めていたはずなのに。

「邪魔だ!どけ!咆哮波!はぁぁぁぁっっっ!!」

 目の前の盗賊達を盾ごと弾き飛ばした。次にミナトを刺したリーダーの男に斬りかかる。

「許さないわ、絶対に!!」

「おっと危ねぇ危ねぇ。」

 リーダーの男はひょいっと身を躱し、仲間達の方へ下がった。視線と剣を盗賊達に向けながら、ミナトの様子を見る。

「ミナト、しっかりして!ミナト!」

 ミナトから返事はない。意識を失っているようだ。いや、もうすでに…。いや、そんなはずはない!まだ間に合うはずだ。すぐに止血できる状態ではないため、剣が抜けない。抜いてしまうと血がドバドバ出て来てしまうだろう。

「ミル!回復魔法は使えない?ミナトが!」

「簡単なものなら使えますが、今は無理です!防御魔法で手一杯です!まず奴らを倒さないと!」

 帰ってきた返事は残酷なものだった。わかっていたことだが、奴らを倒さない限りはミナトの治療を行えない。

「貴方達、もう容赦はしないわ!一人たりとも帰しはしない!」

 と、奴らに向かって走ろうとしたその時、それは起こった。ミナトの体が輝き出したのだ…!



 どこか暖かい空間にいた。さっきまで熱いくらいだった体内も通常くらいまでの温度に戻っている。痛みもない。アレ?もしかして、俺死んじゃった?ネリネに助けてもらった命。ネリネを助けるために使えたのであれば、本望だ。あの後ネリネとミルは大丈夫だっただろうか。そこが心配方ではある。俺という足手まといがいなくなったのだからすんなり勝てていたりしないだろうか。後は、元の世界に残してきた、ひよりや桃華や他の友人、父さん母さんも気がかりだ。ごめんよ。俺遠い異世界の地で骨を埋めることになっちゃった。できることならもう一度会いたかったな。等色々考える。やけに自分が落ち着いていることに驚く。ところで、この空間なんだろう?死んじゃったのなら天国的なところなのだろうか?

「いや、君はまだ死んではいないよ。」

 とても可愛らしい声が聞こえた。俺の目の前に小さな光の球が現れた。どうやらこの光の球が話をしているらしい。なんとなくだけどわかる。

「私に貫かれて死にかけてはいるけど、まぁ、それは些細なことだよね。まだ死んではいないんだし。あはは!」

 光の球は愉快そうに笑う。俺としては頭が混乱しそうだ。

「お前は一体誰なんだ?そして俺は今どうなっている?」

「…思ったより察しは悪いんだね、君は。私も考え直そうかな。」

「頼む、答えてくれ。分からなくて混乱しているんだ。」

「まぁ、刺されたばかりだからしょうがないか。よろしい!私は君に今刺さってる剣に宿る精霊マスデバリアだ!そしてここは私の意識の中の空間。私と君以外、他の誰も入ってくることはできないよ。」

 説明されてもさっぱりわからなかった。精霊?意識の中の空間?ってか刺さってる剣って言ったか!?

「君が私に刺されてくれたおかげでこの意識の空間に君を連れてこれた。適合する人が中々いなくて私も困ってたんだよ。」

「えーと、つまり。お前は剣の精霊で今も絶賛俺を貫いて殺しかけてると。んで、繋がっているからこの意識空間?ってとこでお前と話ができているってわけか?」

「その通りだよ。理解ができたようだね。私もこの空間で人と話すのは数百年ぶりだからね。至らないところがあったら、ごめんよ。いやー、久しぶりに話すのって楽しいものだね。」

 あ、表情は見えないが、クスクスと笑っている。

「さて、無駄話をしていても話が進まないから本題にいくよ。君、今の状況から助かりたくないかい?」

「助かるなら助かりたいけど、そんなことできるのか?俺今剣で貫かれてるんだよ?人生でも初めての経験だよ。」

「何回も刺されている人生ってあんまないと思うなぁ。普通は一回刺されたら死ぬし。まぁ刺さってるのが私の剣だからさ。どうにかすることもできるよ。私と契約をしてほしいんだ。ちょうど魔力も何色にも染まってないようだしな。」

「契約?どういった契約なんだ?生き返らせてくれる見返りって結構怖いんだけど。」

 毎日生贄を用意しろーとか言われてもできないからね。

「簡単なことだよ。私に世界を見せてほしい。剣に宿ってから、ずーっと戦い詰めで他のことを知らないんだ。この世界が美しいってことを、この世界が楽しいものであるってことを私に教えてくれ。」

 思った以上にこの精霊も苦労しているのかもしれない。たしかに剣は武器だ。武器としてある以上は斬ったり突いたりが常だ。そんなもの楽しいと感じるのは戦闘狂だけだろう。

「わかった。約束する。世界がお前にとっても素晴らしいところであるってところを教えてやる!だから俺に力を貸してくれ!マスデバリア!」

「それは良かった!これで私も楽しむことができそうだ!では契約といくよ!」

 マスデバリアは光の球から人型へ変わっていく。身長はだいぶ小さい、俺の首くらいの高さだろうか。長い赤い色の髪の毛が背中くらいまで伸びている。目はちょっと吊り目気味で幼い顔をした、美少女だった。その人間離れした美しさに驚いた。

「我マスデバリア。汝を契約者として迎い入れる。汝の名を我に示せ。」

「俺、片桐湊が精霊マスデバリアと契約す。俺に力を貸してくれ!」

「契約はこれにて完了。我と汝は常に共にあり。…ふふっ。じゃあよろしく頼むよ、湊。あ、世界がつまらないものだってわかったら、内側からブスリだから気をつけてね〜。」

「それを先に言えー!!」

 最後にとんでもなく物騒なことを言うマスデバリア。俺とマスデバリアの契約が終わった。その瞬間視界が開けてきて…!


 目を覚ますと俺は立っていた。胸には剣が突き刺さったままだった。客観的に見るとちょっとシュールだなこの状況。作り物めいて見える。周りを見てみるとネリネやミルはもちろんだが、敵である盗賊達でさえ目を丸くしていた。そりゃあそうだろう。背中まで剣が貫通している人間が急に起き出したらこういう反応にもなる。

「ミナト?だ、大丈夫なの?いや、どう見ても大丈夫じゃないわよね!?今治療するから待ってて!」

 一番最初にネリネがハッとなり、俺に声をかけてきた。

「ネリネ、大丈夫だよ。心配かけてごめん。この状況も俺が解決してみせるから見てて。」

 そう言うと、俺は自分を貫いている剣の柄を握り、

「さぁ!力を貸してくれ!マスデバリア!」

 剣を勢いよく引き抜いた。引き抜いた剣は刀身に炎が宿り、柄の部分も装飾が変わっていた。引き抜いた後の体も炎が走り傷口を塞いだ。うん、自分の体に問題はなさそうだ。マスデバリアが回復してくれたようだ。それなら後やることとすれば!

「精霊剣マスデバリアは炎を司る剣。その炎は全てを焼き尽くす!炎刃!くらえぇぇぇぇ!!」

 俺はそのまま走り盗賊達の手前で剣を振り下ろす。刀身から伸びた炎が盗賊達を巻き込み燃やす。

「あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 咄嗟のことに反応が遅れた7人の盗賊とリーダーは炎に焼かれ悶え苦しむ。息もできないほどの高熱だ。だが俺は殺したいわけではない。剣を横に振り、炎を消した。盗賊達は気を失っているが死んではいない。後は残った四人だが、

「ひぃぃぃっっ!!??」

 と逃げようと後ろに走り出していた。怯えている人をどうこうするつもりはない。こうして俺たちは盗賊達を撃退することに成功した。

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