8話 森の中の戦闘
3人でテクテクと王都を目指して歩く。
「じゃあミナト君はブロンズ成り立てなんですね。私もブロンズですよ。そろそろシルバーになりたいんですけどね。」
「シルバーになるには中難易度のクエストをいくつか受ける必要があるから、魔法使いで一人で行うのはちょっと難しいかしらね。」
「そうなのか。それだと、俺がシルバーになるのは無理かもなぁ。」
「ちょっと難しいクエストするだけだから、ちょっと頑張ればなれるわよ。」
「ネリネのちょっと頑張るがどの程度なのかにもよるな…。」
俺がシルバーになる必要があるかないかは別として興味のある話だ。
「そういえば、ミナト。魔石を渡してから数時間経つけど、どうかしら?自分の中の魔力を感じるようになった?」
「うーん、どうなんだろう。あまり、自分の中で何かが変わったようには思えないな。魔力を感じるってどういう感覚なんだ?」
「人に説明するのは難しい感覚なのよね。こう胸の内側からぐあーっとくる感じなんだけど。」
「そうですね。私も体ががーっ!ってなる感じです。」
ミルはともかく説明好きのネリネの説明が抽象的になるのは珍しい。ぐあー、がーではわかるわけない。
「まぁ、最初の感覚を掴むのって人によって差がありますから。魔石と共にいればいずれわかりますよ。明らかに違いますからね。」
「そうね。焦ってできるものでないから、気楽にいきましょ。」
魔力を感じることができるようになれば、魔力を使った事ができるようになる。なので、早めに習得したいところだが…。
「そろそろミナトには剣を振ってほしいのよね。自分の身を守る為にも必要になるし。」
「それならこの先の森を越えてからにしませんか?モンスターが出てくると教えている場合じゃありませんからね。」
とミルが提案してくれる。確かにモンスターを気にしながらじゃ身に入らなそうだ。
「じゃあそうしましょうか。確かに今日中に森は抜けておきたいと思っていたし。抜けた後に野営の準備して訓練にしましょうか。」
方針が決まったようだ。俺も異論はないのでそのとおりにしよう。
もう少し歩くと噂の森が見えて来た。遠回りの道を選ぶとこの道を通るらしい。
「森の中はモンスターが出てくる可能性も高くなるわ。ミナトは私から離れないようにしてね。」
「私も少し休めましたから魔力が少し戻ってきました。お役に立てると思います。」
「情けない話だが、よろしく頼むよ2人とも。」
こういう時に、男である俺が戦えないのは悔しい。しかし、2人の方が戦えるのは間違いない。変に俺が出張っても足手まといになるだけだからな…。
そうこうして、森の中へ入る。森の中の木は日本にあるものとそう違いはないように思える。もし俺が最初に飛ばされた場所がここだったなら、日本のどこかだと思ったことだろう。森の中ではあるが一応道が舗装されている。この森を通る業者か何かがいるということだろう。遠くから鳥の鳴き声が、ピーヒョロロと聞こえる。いや、これがモンスターの鳴き声の可能性もあるのか!?
「確かにこの森ならモンスターとか出て来そうだね。強いモンスターとか出てくるのか?」
「この森にはそんなに強いモンスターはいなかったはずよ。私1人でも充分対処可能よ。だから安心して。」
「そうですよミナト君。魔法が使える私は強いですから心配ないですよ!」
「ありがとう2人共。でも別にビビってるわけじゃないからね?ホントだよ?」
2人にクスクス笑われた。いや、ホントだからね?
薄暗い森の中を進んでいく。いまのところ、モンスターはでてきていない。
「この森自体はそんなに深くないからすぐに出られるはずよ。だから頑張りましょう。」
『おー』
この森自体は難易度自体そんなに高くないようだ。ネリネとミルの様子を見てもそう伺える。俺1人だけがドキドキしているようだった。その時、
「ぐおおおおああお!!」
と、前から咆哮が聞こえた。
俺たちに緊張が走る。なんの声だろうか?
「今の声はウッドベアね。この森の中では強い部類のモンスターね。誰か運の悪い人でもいるのかしら。」
「言っておきますけど、私ではないですよ。村の人たちからも運がいいねって評判でしたから。」
「運のいい人は旅の途中で盗賊に襲われたりしないんじゃないかしら?」
と軽口を交わす。2人が軽口を言えるくらいだ。そこまでの難敵ではないのだろう。
「ミル。私がウッドベアを足止めするからその間に詠唱して。タイミングを見てぶっ放しちゃって!」
「わかりました。魔法使いミルトニアの力見せてあげますよ!」
と2人作戦を練る。ここだけ聞くと本当に冒険者のようなやり取りだ。ゲームや漫画でしか見たことないようなやり取り。それが今現実で起こっている。
前方からドシンドシンとそいつは現れた。全長2メートルは超えるだろうか。全体的に大きなシルエット。大木のような大きい腕と足。鋭い爪に鋭い歯、そして所々に木の枝が巻き付けられている。そこがウッドベアと言われる由縁なのだろう。日本でも危険な動物で知られる熊のモンスターがそこにいた。見た目凄く強そう!
「いくわよ!」
作戦通り、ネリネが飛び出す。腰の剣を2本抜いてウッドベアに近づく。ネリネのスピードに一瞬反応が遅れたが、ウッドベアもこちらへ歩き出して来た。ウッドベアの爪とネリネの剣が交錯する。キンッと音を立てる。爪は見た目通り、鋭く強度も強いようだ。
「ではいきます!」
と、俺の隣のミルが杖を一度地面にポンと付けた。すると、模様のついた赤い陣が形成された。いわゆる魔法陣であろう。ミルの詠唱が始まったようだ。数秒そのままでいて、
「炎の槍よ。我に仇をなす敵を貫け!フレイムランス!」
と、ミルが唱えた。その瞬間、ミルの前方に赤い魔法陣が展開され、その魔法陣から炎の槍が現れた。槍自体1メートル50センチくらいあろうか、とても長い。
「ネリネちゃん、避けてください。いきますよ!ええい!」
と、槍を発射した。勢いよく発射された槍はそのままウッドベアの方へ飛んでいく。ネリネは飛んでくる槍を見ないまま、横へステップをして避けた。後ろに目がついているかのようだ。飛んでいった槍は見事ウッドベアの腹へ命中した。
「ぐももももももももっっっ!!」
炎の槍に貫かれたウッドベアはもがき苦しんでいる。その隙を見逃さず、ネリネが剣を発光させ、
「せぇいっ!」
と、双剣でウッドベアの首を斬り飛ばした。ウッドベアの胴体はそのまま後ろに倒れ炎の槍に燃やされた。
2人の連携プレーの勝利だった。
「2人共凄いな!初めての連携だったのに完璧だったよ!」
と、ネリネが笑顔でこちらを振り向いた。その瞬間、ネリネの背後で何かが光った。光ったのは1カ所だけじゃない。数カ所光った。
「危ない!」
俺は咄嗟に叫んだ。瞬間、ネリネの背後から数本の矢がネリネに向かって飛んできた。俺の叫びに気付いたネリネは背後を向き、飛んできた矢を全て切り落とした。だが、それで終わりではなかった。間髪入れずにもう一度矢が飛んできた。今度はネリネではなく、ネリネの頭上を超え、弧を描くように俺たちに!ネリネが俺たちの方へ走るがネリネは間に合わない!
「我らを守る守護の盾、シールド!」
と、ミルが魔法で前方に透明な盾を出現させる。矢は盾に当たり地面へ落ちた。それを見て安堵の表情を浮かべたネリネだったが、すぐに顔を引き締め俺たちの前に立つ。
「出て来なさい!卑怯者!出てこないならこちらから行くわよ!」
ネリネが怒声を浴びせた。ウッドベアの死体よりも前方から男達が現れた。男たちは全員、ゲヒヒと下品な笑い方をしていた。
「お望み通り出て来てやったぞ?次はどうしたらいい?裸になって踊ればいいか?」
と、1番前の男が言うと、他の男たちはより一層下品な笑い方をした。
「私たちに何か用かしら?私たちはあなた達に用はないんだけど?」
「俺の仲間が世話になったようだからな。こっちも、世話してやんないとなと思ったまでよ。」
と、背後を見やる。そこにはミルを追いかけていた盗賊たちがいた。こいつらは全員盗賊の一味というわけだ。盗賊たちに会わないように遠回りをしたつもりだったが、その動きはよまれていたようだ。
「お仲間を連れて戻って来たってわけね。何人いようと結果は変わらないわよ?」
「随分威勢がいいじゃねぇか。こっちは12人。そっちは3人。計算ができないわけじゃないだろう?」
さっきとは違い流石に数が違いすぎる。こんな時に無力な自分が歯痒い…。
「さて。こっちも仲間をコケにされて黙っちゃいられねぇ。メンツってものもあるからな。嬢ちゃん達覚悟してもらうぜ?」
男たちはこちらに向かって走って来た。即座にネリネが刀剣を光らせ迎撃にはいる。ネリネの斬りに前の方にいた3人の男が盾で防ぐ。防いだ瞬間に後ろから別の男たちが槍で攻撃をしてきた。なんとか槍を剣でいなすネリネだが、側からみても不利な状況だ。盾組を回り込んで別の男たちがネリネに迫る。それを
「雷纏いし眷属よ。群がる敵を打ち払え!サンダーボール!」
ミルが回り込んでくる男たちにむけて、電気の球を放った。男たちは慌てて盾の後ろへ戻っていった。今回はミルも魔法を使えるから心強い。しかしこのままでは数の暴力でこちらがやられるのは目に見えていた。いったいどうしたら…。ネリネは刀身を更に光らせて男たちへ迫る。
「光神剣!えぇぇい!」
ネリネの一撃が盾にぶつかる。とても硬そうな盾であったが、盾の上部がスパッと斬り飛ばされた。しかし男たちも残った盾の部分でネリネを弾き飛ばした。
「くっっ!?」
吹き飛ばされるネリネだが、なんとか体勢を整える。すると今度は盾の男たちよりも後ろの男たちが弓で矢を飛ばしてきた。狙いは俺たち3人っ!
「自分を守って!」
とネリネが叫ぶ。それを聞きミルが
「シールド!展開!」
俺たちの頭上に先程の透明の盾を出現させて矢の雨をしのいだ。ネリネに迫ってくる矢はネリネ自身が双剣で叩き斬った。盾を斬られた男たちは盾を捨て、剣を抜いてネリネへと迫る。後ろにいた男たちも数人それに加わる。合計7人がネリネに迫る。剣同士の戦いで遅れを取るネリネではないが、なにしろ数が多い。7人の攻撃を双剣でいなしている。ミルがサポートで魔法を打とうにも矢の雨が止まない。防御魔法で手一杯だ。どうやら残りの男たちで交互に矢を放っているようだ。
その時俺は見てしまった。森の木を回り込むように走ってくる1人の男を。そいつは先程喋っていたリーダーっぽいやつだ。その男が剣を抜いてネリネに向かって走っていくのを見た。ネリネは目の前の7人を相手にするのに気づいていない。俺だけが気づいた。気づくと俺はバリアから駆け出していた。
「ミナト君!?」
ミルの声が聞こえるが聞いている場合ではない。今まさにネリネにピンチが迫って来ている。
「ネリネ!危ない!」
俺は剣を抜き、ネリネとリーダーっぽい男の直線上に体を入れた。だが思ったよりもリーダーの動きが早く…!
ぐちゃっ!
聞き慣れない音が胸の辺りから聞こえた。よく見ると俺の胸から剣が生えていた。剣の先には柄があり、リーダー男の手があった。リーダー男がニヤリと笑った。俺はコイツに刺されたようだ。剣が刺さったまま俺はリーダーに蹴飛ばされた。
「ミナト!」
「ミナト君!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い熱い痛い痛い痛いっっっ!?
俺はその場で倒れ込んだ。