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72話 ミルの心情

 桃花の荷解きを追い出された俺はリビングへと向かった。コーヒーでも飲んで一息つこう。リビングに入るとミルが勉強をしていた。以前書店に行ったときにネリネとミル用に文字の練習ができるように小学校一年生向けのドリルを買っていたのだ。こっちの世界だと文字が読めないと不便だからな。ネリネとミルはこちらの文学にも興味を示しており、早く文字を覚えたいようだった。

「ミルお疲れ様。どうだい、調子は。」

「ミナト君もお疲れ様です。いやぁ、文字を一から覚えるのって難しいですね。ミナト君の国の文字の種類が多いのが大変です。」

「ああ、50文字以上あるしな。それにカタカナもあるし、漢字にいたっては無限ほどあるしな。俺でも読めない漢字あるし。」

「自国の字が読めないって相当難しくないですか?それともミナト君がアホなんですか?」

「いやいや!?それほど数が多いってこと!日本にいる大多数の人が全部覚えてないから!」

 湊アホ説を必死に解く。危ない危ない。俺がアホのレッテルを貼られるところだった。

「でも早く読めるようになりたいですね。私たちの国以上にこの国は文字で溢れてますから。読めないと一人で買い物にも行けません。」

「それはそうかもなぁ。俺たちの国の文字の普及率ってほぼ100%だし、読めないってことを想定してないもんな。」

「そうですそうです。まぁ、なぜかは知りませんが言葉が通じているだけマシですね。ここばかりは謎ですけど助かってるところです。」

 やはりミルも俺たちと言葉自体が違うことには気づいていたか。それもそうか。文字が違ければ言葉も違う。

「それに一人で放り出されたわけじゃなくて助かりました。ミナト君やネリネちゃんがいてくれなきゃ私どうしていいかわからなかったですから。」

 いつもでは考えられないほどしおらしいミル。どうしたんだ、いったい。

「私これでも、ミナト君には感謝しているんですよ?仲間だからって普通こんなに親身になって助けてはくれませんよ。私はミナト君に何もできていない。それなのに何故こんなにも助けてくれるんです?何故こんなにも優しくしてくれるんです?」

 ミルがこちらに顔を向けてその瞳は俺の目を捉える。その瞳は少し潤んでいるようにも見える。何故助けるのか、か。そんなこと考えたこともなかった。そうすることが当たり前だったからそうしただけだ。異世界で世話になったネリネとミルとスーリア。世話になった人を助けるのは当然じゃないか。

「俺に何もできてないっていうけど、俺はミルに沢山のことをしてもらっているよ。魔法だって教えてもらったし、料理だって作ってもらった。一緒の旅で命を救われたこともある。これだけ色々されてて、こっちの世界で困ってるみんなを見捨てるなんて出来ないよ。」

「でもそれは私も一緒です。ミナト君に命を助けてもらったこと沢山あります。仲間だからっていう理由で助けてもらうのが申し訳なくなりますよ。それだけ君には助けられています。」

「うーん、そんなに難しく考えないで欲しいんだけどな。俺が助けたいから助けてる。これだけだよ。それに逆の立場だったとしてもミルは俺のこと助けてくれてると思うよ。今の俺と同じようにね。異世界での俺の暮らしがあったのはネリネとミルのおかげだ。その恩返しと思ってくれればいいよ。」

「そう、ですか。それでもまだ受け取りすぎだと思いますけど、そういうことだってことにしときますね。その代わり、何か助けて欲しいことがあったら言ってください。力になりますから!」

「その時はよろしく頼むよ!ミルはいつも頼りにしてるからね。」

「ええ、任せてください!」

 俺とミルは新たに誓い合った。

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