61話 里見咲良
ケルを素通りした私は里見咲良と対峙した。目の前に佇む少女は、待ち合わせした友達がやってきたかのような表情でこちらを見ていた。私は剣に魔力を通す。
「あら?こちらに来てよかったのですか?ケルはポチよりも強いですよ?二人だけではすぐにやられてしまうのではないのでしょうか。」
「ご心配ありがとう。でもあの二人なら大丈夫よ。前回会った時より強くなっているもの。」
私も平常心でそう返した。前回対峙した時よりも穏やかな表情。内心何を考えているかわからない。
「そうですか。信頼通りになるといいですね。ケルには片桐君は食べないように言ってありますが、あの小さい方の雌猫は食べていいって言ってあります。ケルにはちょっと物足りないかもしれないですけどいい餌になってくれることでしょう。それに、私にこれからやられるアナタもいい餌になってくれますよね?」
「残念だけどそうはならないわ。何故なら私は負けないもの。負けるのはアナタの方よ。優位に立てるとは思わないことね。」
「常に優位に立つのは私です。それは変わりません。今までも私の気まぐれで生きてただけなんですよ?それなのに思い上がるなんて自分の立場がわかっていませんわね。」
「そう。前回はアナタの気まぐれで生き延びたわ。でもそんなことは関係ないわ。今生きていることが大事なの。生きている限り何だってできるわ。大切な仲間と一緒にいることだってできる。これは何よりも幸せなことだわ。」
「その対象が片桐君だと言うのが許せないんですよね。」
「あなた、しつこいわ。」
「何ですって?」
そこで彼女の表情が変わった。楽しそうな表情は消え、こちらを見透かすような冷たい視線になった。
「しつこい女は嫌われると言ったのよ。再三現れてくれて、しつこいったらありゃしないわ。優しい性格のミナトですら飽き飽きするでしょうね。」
「そんなことありません。片桐君は私といることが幸せのはずです。そんな戯れ言誰が聞くものですか!」
「言葉が荒くなってるわよ。図星を突かれて焦ったのかしら?」
「!?いいでしょう。アナタは私が殺してあげます。命乞いしても無駄ですよ。」
「命乞いなんてはなからするつもりなんてないわ。私は倒されないもの。倒されるのはあなたのほうよ。」
里見咲良が懐からナイフを取り出す。数は二本。私の剣と比べるとリーチが短い。懐にはいられないように注意しなければ。
「行きますよ!」
里見咲良がこちらへ駆け出してきた。そのスピードはやはり速い。数メートルは離れていたはずだがその距離を一気に詰められる。だが、今回は見える!ナイフの攻撃を一撃一撃を避ける。ナイフのリーチは短いからなんとかかわすことが出来ている。しかし距離が近いせいでこちらの剣が振るえない。これでは攻撃に移れない。
「少し離れてもらうわ。吹き荒れろ旋風、耐えきれぬ突風!スモールストーム!」
ナイフの攻撃を避けながら私は呪文を詠唱した。小さい竜巻を呼びだし、里見咲良を遠くへ飛ばす。ストーム自体でダメージを受けてもらいたかったがそれは叶わなかったようだ。だが距離を離すことは成功。そのまま私は里見咲良に対し、接近して剣を振るう。双剣の連続斬り。短いリーチのナイフで受け切れるものではない。そう思っていたのだが、
「くっ!?っ!」
「ふふっ!」
私の攻撃はナイフで防がれていた。うまく剣の支点を見抜きナイフでそらしているようだ。私の連続攻撃をいなすなんて、この女は一体どこまでの達人だと言うのだろうか?だからと言って弱音を吐くわけにはいかない。この攻撃でダメならばさらに攻撃のスピードを上げるまで!
「ふっ!はぁ!」
そもそもの話だが魔力を通してある私の剣の攻撃を、魔力も何もないナイフでいなせているのがおかしいのである。特別製のナイフなのだろうか?
「攻撃の手を緩めてはダメですよ?早くに決着が付いたらつまらないですからね。」
余裕な表情の里見咲良。攻めているのは私だが、状況的には私が不利かもしれない。ならば技を繰り出すまで!
「…一の剣、零雨。」
一の剣、零雨は横に薙ぎ払う一閃。その一撃は静かにだが素早い。この攻撃をナイフ一本で受けた里見咲良。流石に威力が大きかったのかナイフが折れた。これで二本中一本のナイフを使えなくした。
「お気に入りのナイフでしたのに、残念です。でも…。」
里見咲良は懐に手を入れると三本目のナイフを取り出した。
「こんなこともあろうかともう一本用意しておいたんです!どうですか?勝ったと一瞬思いました?」
「私は油断しないわ。アナタが生き絶えるまで攻撃の手は緩めないわ!」
私はこの程度で勝てたとは思っていなかった。戦いにおいて何が起こるかわからない以上は気を張っていて当然。
「何本出そうと全部叩き斬るまで!覚悟しなさい!」
私と里見咲良との戦いは長くなりそうだ。




