50話 ポチ
家に帰る道を暫く進んでいると、ふと道が暗くなった。まだ日が落ちる時間ではない。不思議がっていると目の前の曲がり角から人が現れた。出てきた人は、
「こんにちは、片桐君!あとその他御一行様。」
里見さんが現れた。前回現れてからそんなに時が経っていないにも関わらず目の前に姿を現した。こういうのってもう少し時間が空くもんじゃないの!?俺たちの間に緊張感が走る。
「里見さん、こんにちは。随分お早い登場だね。前回会ってから数日しか経ってないよ?」
「片桐君とは毎日会いたいくらいですから。これでも遅いかなって思ってるくらいですよ?合わない時間が二人の距離を遠くするんですよ。寂しかったです。」
言ってることは普通の恋人を相手にするかの様な言い回しだ。確かに遠距離とかは心が離れやすいらしいしな。
「それに私がちょっと目を離してる隙に片桐君が女遊びを覚えたみたいですので、それを懲らしめにきました。私というものがありながらいけない人ですね。」
咎める様な目つきで俺を見る里見さん。はて、女遊びなどしたことないが。
「何をとぼけた顔をしているんですか!そこにいるお二人ですよ!綺麗なお方ばかりを周りにはべらせて…!そのお二人はダメです。悪い悪女の匂いがします。近くにいるのは許しません!」
悪女とはネリネとミルのことだろうか。どこが悪女だというのだろうか。指された二人は、
「私たちが悪女とは一体どういうことかしら?どちらかといえば聖女側なのだけれど?」
「私を悪女呼ばわりしましたか?むきー!その言葉そっくりそのままお返ししますよ!そっちこそミナト君に付きまとう異常者じゃないですか!」
と返した。
「付き纏ってなんていません。片桐君には私がいるんです。隣にいるなんて許せません。」
「どうして私たちだけなのかしら?ひよりと桃花も一緒にいるのに。」
「その二人はどうでもいいです。何年いても進展しない小娘は相手になりませんもの。可愛い妹みたいなものですから。」
「私たち小娘扱い!?」
「私だってがんばってるのに!」
よくわからないが、ひよりと桃花は対象外らしい。
「とにかく、片桐君の隣にいるのは私であるべきなんです。あなた達には先に死んでもらいます。」
「色々言ってるけど結局はそういうことね。そっちの方がわかりやすいわ!私たちの敵は早めに対処するわ!」
「私も言われっぱなしは主義じゃありません。返り討ちにしてやりますよ!」
「もちろん俺も相手だ。元々は俺が目的なんだしな。二人にばかり任せてられない。」
「そうやって片桐君は二人の味方をするんですね。私を差し置いて。うふふ。浮気は許しませんよ?」
里見さんから殺気を感じる。額に汗をかいてしまう。以前感じた殺気よりもより鋭い殺気だ。
「あ、あう…」
殺気に慣れていないひよりと桃花はその場に座り込んでしまった。だが今は気にしてる余裕はない。少しでも目を逸らせばその隙にやられてしまうだろう。
「今日は私が直接手を下すのではなく私の僕にやってもらいます。行きなさい!ポチ!」
里見さんはポケットの中からカードの様なものを取り出した。取り出したカードをそのまま前に投げた。カードから煙がモクモクとあがり、煙の中からそいつは現れた。体長は3メートル以上はあるだろうか。全身を毛で覆われ前足には鋭い爪、口の中に見える歯は鋭く噛まれたらひとたまりもないだろう。
ポチという名が相応しい犬がそこにいた。見た目こそ愛らしいがデカさがデカさだ。それだけに恐ろしい。
「私の可愛いポチがあなた達を食べちゃいます。あ、でも片桐君だけは食べちゃダメですよ。私が後でいただくんですから。」
ポチが鳴き声を上げながらこちらへ突っ込んでくる。準備してる間もない。
「ミル!ひより達をお願い!ミナト行くわよ!」
ネリネの号令の元俺たちは行動に移した。俺はペンダントから剣を抜き出し正面を向いた。ネリネはいつもの双剣を持っていない。どうするのかと思ったが、ネリネの両手から光が集まっていた。その光が剣の形になった。ネリネが武器がなくても戦う方法があると言っていたがこういうことなんだろう。
「はっ!」
ネリネが突進をかわしそのまま前足に切り傷を入れる。俺もそれにならい、突進をよけ前足を剣で切る。しかし浅かったのか突進は止まらない。そのまま後ろにいるミル達に突っ込んでいく。
「あぶない!」
そうは言ったがポチの突進が止まるわけでもない。
「堅固たる守護の盾、障害を阻まん!ロッカシールド!」
ミルの前方に円形の盾が展開された。盾はポチの突進を受け止め弾き返した。ミルは杖がなくても魔法が使えたのか!
「ポチ!そっちよりも剣士の方を先に狙ってください!」
ポチが方向を転換し、こっちを向く。ターゲットをネリネに絞った様だ。そのまま、ネリネに突進していく。
「何度やっても同じよ!はっ!」
ネリネはポチの突進をジャンプでかわし、そのまま頭を切りつけた。
「きゃうん。」
ポチが痛そうな鳴き声を出した。ただ、突進するだけならネリネはおろか俺すら倒せない。それをわかっているはずなのに、里見さんの表情は変わらないままだ。まだポチだけで倒せると思っているのか?ただ、脅威なのは変わりない。
「炎刃!燃え尽きろ!」
俺はポチに炎刃を放ち一気に勝負にでた。ポチに時間はかけられない。すると思ってもみないことが起こった。ポチは迫り来る炎の太刀を見るとジャンプでかわした。図体の割に俊敏な動き!その着地に合わせてネリネが双剣で斬りつける。その斬りで胴体に傷を付けた。だが、浅い。擦り傷程度のダメージを与えるだけで決定打にならない。
「ミナト!私から仕掛けるわ!その後頼むわ!」
ネリネが先に動いた。ネリネが双剣を構え、ポチに迫る。
「雷光剣!」
ネリネの剣が雷を帯びた。ジャンプしその雷の剣でポチに斬りかかる。その時ポチの口元が赤く光った。なんだ一体?
「わおーん!わんわん!」
ポチの口から炎が吐き出された。
「何!?」
予想外な攻撃。しかしネリネは攻撃を止めない。雷の剣で炎を切りつけた。二つの攻撃はせめぎ合い、相殺された。互角の威力であったようだ。俺はその間にポチの背後に回り剣を振るった。
「炎ニ斬!燃えろ!!」
ポチを燃やし尽くすつもりで技を放つ。しかし、
「わおーん!!」
背中からも炎が噴き出し、俺の剣の前に展開される。俺もネリネのようにそのまま斬りつけたが、炎に阻まれ効果はなかった。マズイ。俺の炎攻撃全体的に効かないかもしれない。その時。
「流れ出ろ洪水。我が視界に映るものを飲み込まん、アクアスパイラル!」
ミルが後ろから水魔法の援護をくれた。ポチを中心に水が渦巻状に流れ出る。火は水で消える。ポチには効果的なはずだ。それに水圧もある。かなりきくはずだ。
「このまま決める!雷光剣!」
「俺も続く!炎ニ斬!」
水に濡れたポチには電気がよく通るはずだ。雷の剣がよく効くだろう。俺は俺で渾身の一撃を相手に喰らわせた。
ポチに渾身の一撃を喰らわせた俺たち。それでもポチは倒れない。
「がうがう!」
ポチが鋭い牙で噛み付いてきた。噛まれたらひとたまりもない。俺はバックステップで噛みつきをかわす。俺が攻撃されている隙にネリネが背後に周り、双剣で切り付ける。
「わうーん、わうわう。」
ポチが悲しい声を上げる。しかしダメージはそれほどでもないようだ。やはり技を連続で当てるしかないか!ポチが再び炎を吐いてきた。ネリネはそれをジャンプでかわす。そのジャンプついでに、
「光刃翔!」
剣が輝きを増し、斜め上に切り上げながら上昇する。俺もその横で
「乱舞!」
剣撃の舞をお見舞いする。ポチのあらゆる場所を切り刻んでいく。
「打ち砕け雷鳴!仇なす者に鉄槌を、サンダーブレイク!」
ミルの魔法が放たれ、ポチに直撃する。三人の攻撃が連続で決まった。流石に倒れてくれ!しかしポチは倒れなかった。だが、息も絶え絶えといった様子だ。後少しだ!
「ポチ、戻りなさい。」
里見さんの命令に従い、里見さんの元に戻るポチ。再びカードを取り出した里見さんはポチをカードの中に戻した。後少しだったのに。
「ポチ一匹じゃ流石に倒せませんか。次は別のことを考えてきますね。それまで待っていてくださいね、片桐君!あと泥棒猫の皆さん。」
その捨て台詞と共に去っていくかと思ったが、その場から消え俺の前に現れた。
「なっ!?」
ネリネにも見切れなかったらしい。彼女にしては珍しい声を出している。びっくりしている俺たちをよそに、里見さんは少し背伸びをし、俺に口付けした。
「あっ!」
背後からびっくりした声が聞こえる。
咄嗟のことで避けられなかった俺は、自分の唇に柔らかい感触があることを感じた。こ、これがキス…。
「さようなら、片桐君♪」
そして里見さんは今度こそ、その場から姿を消した。




