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46話 魔石覚醒

 空を飛ぶ修行を始めて数時間。俺は1メートルくらい浮かぶことができるようになった。毎日反復していけば自由に空を飛べるようになるだろう。ネリネも3メートルまで高さを伸ばしていた。ネリネは俺よりも空を飛ぶのが上手だ。ミルは自由に空を飛んでいる。そこまで自由に飛べるなら異世界でもドンドン飛べばよかったのに。

「空飛べますけど代わりにスピードが出ないんですよね。他の魔法もファイヤーボールくらいの簡単な魔法しか使えないですし。逃げる時には使えないんですよね。戦う時も中途半端な戦術にしか使えないですし。ゴールドやプラチナランクの冒険者くらいのスピードで飛べればいいんですけどね。今回はそれに近づくための修行だと思ってますよ。」

 と言うコメント。見ていても、早いとは確かに言えない。地上からネリネがピョンとジャンプした方が早いだろう。だからミルはあまり空を飛ばなかったのだと言う。

 今日は目指せ3メートル!と思って再度呪文を詠唱しようとしたところ、

「ねぇ、みんな!私の中が何かおかしいの!どうしちゃったんだろう!?」

 ひよりが突然叫び出した。なんだ一体?全員が一斉にひよりのところに集まる。

「ちょっと前から胸の辺りが暖かかったりなんかぐわわわーって感じなの。でも悪い感じはしないんだけどなにかななにかな!?」

 ちょっと慌てた様子のひより。なんかその感覚は覚えがあるぞ。

「ひよりちゃん。それは多分魔石による魔力の覚醒です。魔力を使えるようになったんですよ、ひよりちゃん!」

「おめでとうひより。言われた通りずっと魔石を持っていたのね。」

 と、異世界組に言われるひより。

「私はまだだから先越されちゃったね、ひより。おめでとう!」

「うーー!やったー!これで魔法が使えるようになるんだね!夢にまで見た魔法が使えるんだ!」

 ひよりが飛び切りの笑顔で喜んでいる。魔法少女になりたかったひよりにとってはとても嬉しいことだろう。

「魔法だって使い方によっては危ないんだから気をつけろよ、ひより。」

「わかってるよ、みな兄!きちんと先生たちの言うこと聞きますって!」

 いつになく上機嫌だ。そんな姿を少し微笑ましく見る。こんなに喜んでるひよりを見るのは…結構あったわ。

「何から教わろうかなぁ。私も空飛んでみたいからみな兄たちの修行に混ざっちゃおうかな。それともミルちゃんにお願いして初心者コースを作ってもらおうかなぁ。どっちにしても楽しみ!」

 コレからのことを考えるだけで楽しそうなひより。その時だった。隣に立っていた桃花が突然糸の切れた人形のようにその場に倒れた。立ち位置的に隣にいたネリネが不意の出来事ではあったものの抱き止めることに成功していた。だが、突然の出来事にみんな頭の処理が追いついていない。

「桃花、しっかりして!どうしたのよ、一体!」

 抱き抱えたままネリネが桃花に問いかける。当然ながら桃花は答えない。ネリネは桃花の手首に指を当てる。ほっとした表情から脈はあるようだ。どうやら気を失っているだけのようだ。

「桃花!どうしちゃったの?桃花!桃花!」

 今にも泣き出しそうな声のひより。俺もどうしていいか分からず、その場に立ち尽くすだけだ。

「コレは…。」

 桃花の額に手を当てて神妙な顔で呟くミル。何か事情を知っているのかもしれない。

「何か知っているのか?ミル?」

「桃花ちゃんの内部で魔力を感じます。ひよりちゃんと同じで魔力の覚醒があったんだと思います。ただ、非常に珍しいパターンだったようです。これは先祖返りです。」

「先祖返り?先祖返りってあの?」

 ネリネも聞き覚えがあるようで反応する。先祖返りとはなんなんだろうか。

「そうです。桃花ちゃんの祖先に強い魔力の持ち主がいたみたいで、その力が桃花ちゃんに受け継がれていました。それが今回の魔石の魔力で祖先の力が解放されたようです。桃花ちゃんは今祖先の力が解放されたことのショックで一時的に眠っているだけです。ひとまずは安心して大丈夫です。」

 その説明を受けて俺たちは安堵する。桃花に害があるわけじゃないみたいでそれはよかった。すぐに目を覚ますみたいだ。

「でもミルちゃん。先祖の力が解放されたって、桃花に悪影響はないの?今まで眠ってた力が起きちゃったんだよね?」

「…。元々魔力を感じていなかった状態から強い魔力を感じるようになるので最初は戸惑うでしょうけど、慣れてくると思います。なんてったって自分の力なんですから。ただ…。」

 そこで話を一旦区切るミル。ただ、何があると言うのだろうか。

「先祖返りした人の多くはその力の強さゆえ迷う人が多いと聞きます。それで性格が変わる人もいるみたいですのでそこが心配ですね。今までできなかったことができるようになるんですから。」

 先祖返りをした人は力ゆえに性格が変わる人もいるという。強い力は人を変える。良い方にも悪い方にも。それは分からない話でもない。

「桃花に限ってそんなことありえないよ!桃花しっかりしてるから大丈夫だよ!」

 ひよりが力強くそう言う。俺も桃花のことは見ているが、俺もひよりの意見に賛成だ。桃花は自我がしっかりしている。大きい力を手に入れたくらいで性格が変わるとは思えない。そこは大丈夫だと思う。

「そうね。もし力を持て余すようなら私が相手になるから大丈夫よ。」

「いや、そういうことじゃないから、ネリネ…。」

「ネリネちゃん、相変わらず脳みそ筋肉なんですから…」

「ネリネさん、私でもわかるよ…」

 みんなでネリネの発言に呆れつつ、今後のことはみんなでサポートしようってことに決まった。


 桃花を部屋の中に連れて行き客室に寝かせた。ミルの見立てでは数時間は起きないだろうとのことだ。今日の修行には参加できそうにないな。ひよりはやる気満々といった感じでいる。空に浮かびながらミルが考える。

「やっぱり最初の魔法はファイアーボールですかね。何事も基礎ってありますから。この魔法が全ての基礎だと思うんですよね。」

 そう言って浮いたまま、杖を前に出して詠唱を開始した。

「炎纏し眷属よ、その身を持ちて我が敵を燃やせ、ファイアーボール!」

 杖の先から炎の球が現れた。それをミルはまっすぐ飛ばした。それが木に当たる前にふっと消した。

「とまぁこんなもんです。簡単な魔法ですけど初めての魔法です。出すのは難しいと思いますけどやってみてください。大事なのは集中とイメージです。それで魔法は発現されます。」

 真剣にミルの話を聞くひより。初めての魔法はうまくいくだろうか。ひよりがその場で目を閉じ、胸の前で手を合わせて集中する。

「やってみるね。炎纏し眷属よ、その身を持ちて我が敵を燃やせ、ファイアーボール。」

 手のひらを前に出して魔法を出すポーズを取るひより。その手のひらから火球が現れた。大きさはピンポン玉くらい。その火球を前へ飛ばした。そのまま木にぶつかりちょっとだけ焦げ目がついた。

「やった!魔法出せたよ!私にも!やった!」

 ひよりは大喜び。俺の時は全然だったのにひよりは最初からファイアーボールを出した。俺より才能あるかも。

「やりましたね、ひよりちゃん!後は練習あるのみですよ!ファイアーボールといえど、大きさに限界はありません!やれるだけやってみましょう!」

「おー!」

 大盛り上がりの二人。よーし俺も負けてられない!やってやるぞ、アイキャンフライ!


 しばらくして桃花が起きてきた。足取りはしっかりしていて安心した。

「あの、先輩。私どうして家の中で寝ていたんでしょうか?よく覚えていなくて。」

「ああ、それなんだけど、どう説明したものか。ミル。お願いしていいか?」

「こういう時はいつも私に任せるんですから。いいですよ。代わります。桃花ちゃん。桃花ちゃんに起こったことを説明しますね。」

 そう言って桃花に起こった出来事を説明するミル。聞いている桃花は真剣だったが、話が進むにつれて神妙な顔つきになった。

「先祖返り…。私の祖先にそういう言い伝えがあるとは聞いてはいないけど…。ちなみにミル。私の力はどのくらいのものなの?」

「今はまだ目覚めたてですから、力が使えないと思いますけど、魔力量だけなら私たちの中でもトップですね。ミナト君やネリネちゃんよりも上です。魔力を使えるようになったら相当強い魔法使いになると思います。」

 その見立てに驚く俺たち。潜在力はトップクラス。

「そうなんだ、先輩よりも…。」

「それに先祖返りしたことによって先祖が使っていた魔法も使えるはずです。それが何かわかりますか?」

「ううん、わからない。今では体の中が暖かい感じがするだけなの。今までと何が変わったかと言われてもわからないくらい。」

「そうですか。何かきっかけがあるのかもしれませんね。それは様子を見ましょう。今は魔力が覚醒した状態とほとんど変わらない状態です。ですからひよりちゃんと同じことをしていきましょうか。」

 ひよりと変わらないらしい。だからファイアーボールを練習をしているひよりに合流するみたいだ。

「そうなんだ。わかった。ひよりと同じことしてくるね。ミルちゃん教えてくれる?」

「もちろんですよ!いきましょう!」

 桃花はひよりの元へ近づいていく。

「桃花!良かった!目が覚めたんだね。なんともない?」

「うん、なんともないよ、ひより。ごめんね心配かけて。」

「ううん、なんともなくて良かったよ!私は先に魔法を教わってるの。ちょっとだけど魔法できたんだよ!」

「そうなんだ!私もやってみたいからお手本見せてくれる?」

「お、お手本だなんて、そんな。でもやってみるから見てて!」

 ひよりが姿勢を正し、胸の前で手を合わせて集中する。

「いくよ!炎纏し眷属よ、その身を持ちて我が敵を燃やせ、ファイアーボール!」

 ピンポン玉より大きい火球がひよりの手のひらから現れた。その火球を前方へ飛ばして木に当たった。木は少し焦げた。

「凄いよひより!本当に魔法できたね!」

「でしょ!やってみたら、できてよかったよ!桃花もやってみよ!」

 次は桃花の番。桃花も姿勢を正し、胸の前で手を合わせる。ひよりと同じポーズだ。その様子を空中でネリネも見ている。

「いくよ。炎纏し眷属よ、その身を持ちて我が敵を燃やせ、ファイアーボール。」

 その時とんでもないことがおきた。桃花の前に桃花の身長と同じくらいの火球が現れた。その場にいた全員が驚いた。この火球が木に当たったら火事になる!火球がゆっくりと前へ進んだ。

「我らを守る守護の盾、生命の源!アクアシールド!」

 ミルが詠唱し木の前に水の盾を出現させる。火球と水の盾がぶつかり水蒸気が発生した。見ると火球は消え、水の盾だけが残っている。

「ふぅ、間に合いました。それにしても最初からこのサイズのファイアーボールとは凄いですね。これが、先祖返りなんですね。」

 ミルのおかげでなんとかなった。

「桃花凄いな。もう俺よりも強いんじゃないか?」

「先輩、私なんだか怖いです。急にこんな力を手に入れてしまって。」

 桃花からしたら怖いか。女の子が急に強大な力を手に入れてしまったのだから。

「大丈夫だよ桃花。ネリネとミルがついてる。その力が安全なものであるようにサポートしてくれるよう。頼らないかもしれないけど俺だってついてる。心配するなって。」

 頭をポンポンとしながら、俺にはそう伝えることしかできなかった。

「そこは俺に任せろって言って欲しかったですね、先輩?」

 と笑顔の桃花がそこにいた。少しは桃花の力になれたかな。

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