40話 求愛
「はぁっ!!」
俺は咄嗟に地面を踏みつけた。踏みつけた場所から炎が吹き出し、俺と里見さんの間に壁を作った。そこで里見さんは攻撃を中断し身体を後ろへ移動させた。その間に自転車を放ってバックステップで里見さんとの距離を空けた。
「何をするんだ、いきなり!危ないじゃないか。」
「あの攻撃を避けるんですね。それに炎を出せるなんて流石、片桐君です。ますます惚れちゃいます。」
俺の言うことなんて聞いていない様子の里見さん。警戒は解かずに里見さんを見る。里見さんの右手には不似合いな鋭いナイフが握られていた。アレで切られていたら、俺の首は半分になっていただろう。
「出来れば痛みを感じずに死んで欲しかったんですけど、ダメですか?あちこち切りつけられるってとても痛いと思うんですよね。そんなのって嫌じゃないですか?」
「そもそも死にたくないよ!なんで殺そうとするんだ!」
「なんでってさっき言いましたよね。私はアナタが好きなんです。私のものにする為にはしょうがないじゃないですか。」
「俺が振ったから殺そうって言うのか。随分自分勝手なんじゃないのか?」
「いえ?振られなくても片桐君は私の手で殺されるんです。それでいつまでも二人は一緒にいられるんです。」
何を言っているのかわからない。俺の頭がおかしいのか。
「だから片桐君。大人しくしていてくださいね。手元が狂うと余計に痛くなりますからね!」
再び里見さんがこちらへ迫ってくる。その速度は速い。だが俺の視界はその動きを捉えていた。俺はペンダントに手を伸ばしスーリアを呼び出した。
『スーリア!剣に変形を!』
『これは一大事だ、すぐ変形するよ。湊の国にも変な人はいるんだね。』
スーリアもそう思うよね、やっぱり。よかったー。おかしいのが俺じゃなくて。
ペンダントを精霊剣に変形させて里見さんに向き合う。
「へぇ〜。その剣もどこから出したんですか?実は魔法使いだったりします?」
「魔法使いではないけど近いもんかな。ってあんまり驚かないんだ。」
キンッとナイフと剣が合わさりあう。リーチの差で俺の方が有利なはずだが、懐に入られたら対処できない。
「私の父にそういう知人がいると聞いています。案外この世界は不思議なことだらけですよ。」
「その不思議筆頭に、言われたくないだろうさ。」
里見さんの攻撃は早く鋭い。俺は防戦一方だ。一撃一撃が素早い。俺の剣を避けるかの如き攻撃に、こちらは剣を合わせるのに必死だ。合わせられない時はギリギリのところで避けている。
「俺まだ死にたくないからさ、諦めてくれないかな。君とは価値観が違いそうでさっ!」
ナイフを弾きながら里見さんに言う。
「いいえ、ダメです。片桐くんは私とずーっと一緒にいて、幸せになるんです。そのためには死んでもらわないと困ります。」
「その理屈がわからんのよ!」
里見さんには話が通じそうにない。俺の命を取る理由も全くわからない。全然攻撃も緩まりそうにない。このまま防御してても埒が明かない。里見さんとの距離を取る為に右にステップした。しかしそれにも即座に反応されてナイフを振られる。
「くっ!」
左、後ろ、と次々にステップで距離をとるが、やはり即座に距離を詰められる。避けているのも限界がある。体力がいつまで持つか分かったもんじゃない。
「どうしました?ちょっと呼吸が乱れてきましたよ?」
「最近運動不足気味でね。いい運動になってるよ。そっちこそそろそろ疲れてきたんじゃない?」
「いいえ、私は大丈夫です。なので、いつ死んでもらってもいいですよ?優しくしてあげます。」
全然意見の変わらない里見さん。確かに息が上がってきた。このままでは…!
「ぐっ!」
里見さんの一撃を左肩にもらってしまった。しかし当たりはそこまで深くない。ちょっと切られた程度だ。
「アハハ!綺麗な血ですね。ゾクゾクしちゃいます。」
里見さんはウフフと笑っている。流石に怖い。このままでは傷ばかりが増えていく。俺は一か八かの攻撃に移る。
「里見さん。諦めてもらう為にちょっと燃えてもらうよっ!炎刃!」
剣に炎を纏わせてナイフと斬り合う。ナイフのように刃先が短い刃物ならスーリアの炎の熱に耐え切れるはずない。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
炎を激しく出して里見さんを燃やす。流石の里見さんでも炎の一撃には耐えきれまい。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
里見さんは炎に燃やされてその場で立ち尽くす。倒れた瞬間に炎は消すから早く倒れてくれ。
「なーんちゃって!」
「えっ!?」
目の前で燃やされていると思った里見さんの背後に本物の里見さんがいた。また超高速で移動して炎から逃れたようだ。この攻撃もダメだった。あと残されてる手がどれほどあるか。
「もう諦めてください、片桐君。こうやって片桐君と戯れてるのも楽しくてキュンキュンするんですけど、片桐君と一つになりたいんですよね。」
なら次はっ!
「防炎陣!これで近づかないだろう!」
俺の周りの地面から俺を囲うように炎が噴き出す。これなら近づくことはできまい。
「確かにこれから近づけないですね…。でも!」
里見さんが素早く動き炎の周りをぐるっと一周した。そこで、飛び上がり防炎陣の頭上にきた!?
「頭がお留守ですよ!」
「おわっ!?」
俺は急いでバックステップし、その場から逃れた。俺がいたところにはナイフを突き刺しているポーズの里見さんがいた。もう少し回避が遅れていたら、頭から刺されていただろう。
俺の実力よりも里見さんの実力の方が上だ。いくら炎が操れようと自力が違う。倒すのではなく逃げる方向にシフトするのはどうだろうか。いや、逃げるにしても彼女の超スピードから逃げる術はあるのだろうか。
「じゃあ、そろそろ殺しちゃいますね。私に身を委ねて下さい。すぐに気持ちよくなりますから。」
「そういうわけにはいかない。俺はまだ生きていたいんだ!」
俺は剣に炎を纏わせて構える。最後まで抵抗してやる!
「そうですか。まだ諦めてくれませんか。でもそうですね。今日のお遊びも楽しかったですし、諦めてくれるまで待つのもいいかもしれないですね。今日のところはここまでにしておきます。片桐君が諦めてくれるその日まで。また近日中に来ますね!」
突然の意見の変更についていけない。今日のところは帰ってくれるのか?
「では、またです。片桐君。いつか必ず私のものにしてあげますからね!」
こちらが何かを言い出す前に里見さんはその姿を消した。またしても超高速で移動したようだ。里見さんは突然現れて突然消えた。俺はその場でへたり込んだ。俺が戦ったことのある人の中で一番強かった。ネリネと戦ったあの、ジャケツと同じか、それ以上の強さかもしれない。俺は息も絶え絶えだが、里見さんはまだ余裕があるようにみえた。まだ実力を隠しているかもしれない。今回はたまたま気が変わったようだが、次回はどうなるかわからない。初めて告白されて殺されかけるって何?意味がわからない。ひとまず、今生きてることに感謝しよう。
「俺ってなんて人に好かれてしまっちゃったんだろう。変われるもんなら変わって欲しいよ。」
「まぁ、可愛い子だったじゃないか。それだけが救いだよね、湊。」
「励ましになってないよ、スーリア…。出来れば命を狙わない系の子に告白されたかった…。」
色々考えることはあるが、家に帰ることにする。とにかく疲れた…。痛む肩を気にしながら自転車を拾い帰路についた。




