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4話 ほっと一息

 ネリネと一緒に飲み物を飲んでいると、先程出会った大男、クラースが店に入って来た。

「クラース!こっちこっち!」

 ネリネがクラースを呼び寄せる。

「待たせちまったな、ネリネ。えーと、ミナトだったか。改めて、俺がクラースだ。よろしくな。」

「はい。よろしくお願いします、クラースさん!」

 ネリネがあらかじめ頼んでおいた飲み物を、クラースさんは一気に飲み干した。

「仕事終わりの酒はやっぱりうめぇなっ!お前らもジャンジャン飲めよ!ウルフ退治の祝杯でもあるんだからよっ!マスターおかわり!」

 早速2杯目を注文するクラースさん。豪快な飲みっぷりってこういうことを言うんですね。

「さーて、ミナトについての話だが。迷子って言ってたが旅人にしては身軽な格好すぎるし、逃亡奴隷にしては小綺麗な格好をしているな。お前さん、何者だい?」

 ギロッと睨まれた。その顔で睨むの反則でしょ!?悪いことしてなくても、俺が悪かったですって言いたくなりますよ!?

「え、えーと、ネリネにはもう話したんですけど、こことは違う遠い場所にいました。日本っていう国なんですけど。そこで、キラキラする鏡のようなものが突然現れて、それに触れたら遺跡の中にいました。遺跡から出た後はウルフに襲われて、ネリネに助けてもらいました。以上です!」

「遺跡っていうのはこの街から南西の方角にあるやつね。」

 と、少しかしこまりながら、ネリネに補足されながら、俺は今までの経緯を話した。じーっとこちらを見ていたクラースさんが口を開き、

「日本…聞いたことない国だな。世界は広いからどこかの地域の国なのかもしれないけどな。」

「やはり、知りませんか。ネリネも知らないと言ってたので…。」

「その鏡っていうのもわからんな。転移魔法か魔道具の一種かもしれないが。少なくとも俺は知らないな。」

「クラースでもわからないかぁ。経験豊富な貴方なら何か知ってるかと思ったんだけど。」

「世の中俺の知らないことの方が多いわい。この時期にウルフが大量発生するなんてありえなかったからな。」

 あの化け物も生物だけあって繁殖時期があるらしい。今回の件は異例のことだったんだと推測する。

「なにせ今日の朝方だったからな。街の外に大量のウルフが歩いてるって情報が入ったのが。今までウルフは数え切れないほど狩ってきたが、あんなにいたのは初めてだったな。」

「ええ、100体以上いたわよねきっと。ウルフ程度の弱いモンスターじゃなきゃ危なかったわね。」

「100!?」

 あんな化け物が100体も!?考えただけでも恐ろしいのに目の前の2人はそうではないらしい。ちょっと珍しいことが起きた感覚で話している。

「あのー、ウルフってそんなに弱いんですか?俺出会った時凄く怖かったんですけど…。」

「お前の国にはウルフいなかったのか?まぁ、一般人からすりゃそうだろうな。俺たち冒険家からしたらミニスライムと同じくらい弱い。力も強くないしな。そこらの人よりちょっと足が速いくらいだ。」

 ひょっとして見掛け倒しで俺でも倒せたのかな?いやぁ、あの凶悪な棍棒をみたらそうは思えませんわぁ。

「話がそれちまったな。なんだか昔の御伽噺にもこんなのあったよな。神のイタズラであっちこっちに飛ばされちまう話。」

「クラースもそう思った?私もそう思ったの。もしかしたら、実話だったのかもね。」

「お前さんも災難だったみたいだな。力になれることはやってやるから元気だしな!さぁ、飲め飲め!」

 クラースさん優しい人!異世界で知り合った人達が優しい人達ばかりで、その点だけは幸運だったと心から思う!


あの後もずーっと飲んで食べてで色々話をしていた。周りの酒飲み連中にも日本のことを聞いてみたが知ってる人はいなかった。そんな中クラースさんがネリネに問いかけた。

「ネリネは今度いつ旅に出るんだ?もう1ヶ月くらいいるからそろそろだろ?」

「そうね。もう2.3日したら出発する予定だったんだけれど、ミナトのこともあるしどうしようかしら?」

「俺?」

 俺がいると何かあるのだろうか?

「偶然とはいえ、ミナトを助けたのは私なのよ。ミナトの境遇も知ってる。ほっとけないでしょ。これでミナトを置いて旅に出られるほど、薄情じゃないわ。」

「ネリネさん!アナタって人はどこまでいい人なんだ!抱きしめてもいい?」

「それは遠慮しとこうかなぁ…あはは…。」

 おっと酒の空気に当てられてちょっと酔った気分になってるみたいだ。僕はお酒飲んでませんよ、ええ。ホントです。

「放っといても俺の方で面倒みるぜ。力仕事は腐るほどあるからな!」

 とクラースさんからも温かい一言が。

「クラースさんもいい人だ…!抱きしめてもいいですか?」

「こっちくんなよ、ぶん殴るぞ、オメェ!野郎に抱かれて喜ぶ趣味はねぇ!」

 慌てるクラースさんを見て俺達は笑った。ホントいい人達だ。

「ネリネさえ良ければ、ミナトを連れて旅に出たらどうだ?元いた国への帰り方知るのにも旅の方が都合いいだろう。」

「うーん、そうね。そっちの方が私としても楽しい旅ができるかも。旅の荷物も1人だと重たいし。」

「俺にとっては願ったりな話だけど、いいの?戦うことができないから、それこそ荷物持ちくらいしか役に立たないけど。」

「基本的には荷物を持ってくれたら嬉しいわね。こう見えても私結構強いから、ある程度のモンスターは倒せるし。もし気になるなら護身術程度なら旅の途中でも教えられるわ。護身術程度でもウルフは倒せるわ」

 今出ている話は俺にとって願ったり叶ったりな話だ。この街に居させてもらうのも一つの手だが、一つの街では得られる情報に限りがある。色んな街に行った方が元の世界に帰る方法が見つかる可能性は高い。

「じゃあネリネ。お願いしてもいいかな。俺も旅に連れて行ってくれ。」

「もちろんよ。旅は道連れって言うしね。任せて!」

 こうして俺の今後の方針が決まった。ネリネに付いてあちこちを旅して回ることになった。


 俺たちが酒場にやってきてからかなりの時間が経った。周りの客達も酒を飲み飲み大きな声で騒いでいた。俺たちも周りに負けず大きな声で騒いでいた。

「ネリネ!さっきは旅に行けなんて言ったが、アレはやめだ!旅人なんて辞めて俺の息子の嫁にこい!」

「絶対に嫌!お断りよ!アイツ、私を見るたびに近づいてきてお尻触ってくるんだから!あんなスケベ野郎お断りよ!」

「なんだとあの野郎!ネリネに向かってそんな羨ま…じゃないけしからんことを!?帰ったらとっちめてやる!」

 お酒を飲んでヒートアップしたのかドンドン内容がお構い無しになってきた。俺も酔ったらああなるのかなぁ。

「ミナトはどう思う?スケベな男って?やっぱり男はみんなスケベなのかしら?」

「全員が全員じゃないです!俺のような紳士がいるからな!スケベ野郎は最低だね。」

 キリッと歯を見せ、紳士なポーズを取った。

『あはははははははっっっ!!』

 2人に笑われた。そんなに笑わなくてもいいのに!

「笑われたって俺は紳士です。女性の嫌がる事は致しません!女性の敵は俺の敵です!」

 おっと俺も発言が酔ってきた。おかしい、お酒は飲んでないのに。空気に酔ってきたか。

「男は多かれ少なかれ、みんなスケベだわい!紳士言ってる奴ほどよーっぽど怪しいわい!」

 クラースさんが酒を飲みながらそんなことを言う。するとネリネも

「男性のそういう視線ってわかりやすいのよねぇ。分かってないとでも思ってるのかしら?こっちからしたらバレバレなのよね!」

 怖いこと聞いた!?今後視線は顔に固定しよう。


 そうこうしていると、ネリネは寝てしまった。テーブルに突っ伏して寝ているだけなのに、妙に色気があるのが不思議だ。

「ミナト、悪いがネリネを部屋まで連れて行ってやってくれ。2階の1番奥の部屋だ。ついでにお前もそこで寝ろ。」

「連れて行くのはいいんですけど、一緒の部屋でいいんですか!?俺も一応男なんですけど!?」

 そう、俺も一応男の子。綺麗な女の人と2人っきりで寝たら何があるかわからない。しかし、クラースさんはニヤニヤしながら、

「お前さん、紳士だからそういうことしないってさっき言ってたろ。それにどうこうしようにもネリネには勝てないよ。」

 と、言われて納得した。確かに間違いが起こる可能性は少ないわ。

「じゃあ、おやすみな。旅に出る前にはまた顔をだしてくれ。」

「色々とありがとうございました!おやすみなさい!」

 クラースさんは店外へ出て行った。さて、俺たちは部屋に行きますかね。

 甘い吐息を肩口に感じながら、ネリネを背負って部屋へ行く。おんぶしているが、重さをあまり感じない。見たまんまネリネは軽いようだ。

 部屋についた。部屋はベッドが二つありその近くにテーブルも置いてある、ちょっと豪華仕様だ。片方のベッドにネリネを寝かせる。

「んんっ。」

 扇情的な光景にずっと見ていたい気持ちにさせられたが、命の恩人にそれは失礼だと心を鬼にし、ネリネにサッと毛布をかけた。俺はもう片方のベッドに寝転がり毛布を被った。元の世界に帰れるのかどうか考えると不安な気持ちになる。今日は色々あったけど結果的には幸運な一日だった。危機的状況を助けてもらえたんだから。考える事は色々あるが、ひとまずは無事に眠りにつける事に安堵し、眠ることにする。

 おやすみなさい。

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