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38話 1日の終わりに。

 久しぶりに受ける授業は中々楽しかった。いつもは子守唄に聞こえる先生の言葉も、何が書いてあるかわからない教科書も、今日に限ってはとても楽しめた。体育の時間はちょっと大変だった。身体テストで色々と測ったんだが…。

「50メートル走、5.5秒!?世界記録に近いじゃないか!?」

「ハンドボール投げ、60メートル!?ソフトボールじゃないよな!?」

「シャトルラン、カンストしてるやつ初めて見た…。」

「立ち幅跳び、300センチ!?走り幅跳びじゃないんだぞ!?」

「反復横跳び、80回って床焦げるわ!てかマジで焦げてない?」

「握力80!?その体でなんつーゴリラパワーや!

「上体起こし35回!?いや、そこは普通なんかい!」

「長座体前屈、33センチ!?いや、かたっ!体かたっ!!」

 セーブしたつもりがほとんどの項目で高得点を出してしまった。いやー、またなんかやっちゃいましたか?おかげで運動部から熱烈な勧誘を受ける羽目に…。演劇部があるから受けるつもりはないけどな。こっちの世界にいる限りは力をセーブする必要があるな。怪しまれてはいけない。そうしたら捕まってけんきゅうされちゃうかもしれない!(漫画の読み過ぎかもしれないけど。)


 放課後の部活動は日中よりもさらに楽しく過ごせた。いつもやる筋トレも役者と混ざっての発声練習も楽しく行えた。役者と混ざってやったエチュードも楽しくできた。やはりモンスターや盗賊達が襲ってこない日常って最高!あの日々も楽しいことがなかったわけではないが、やはり平和に勝るものはない。日本に居ただけではわからなかった感情だろう。俺は久しぶりの平和を満喫していた。


「だから今日のみな兄ちょっとニヤニヤしてきもちわるかったんだね。」

「不思議に思ってたんですけど、納得です。でもあの顔はちょっとどうかと…。」

「いいだろっ!どんな顔してても!お前達にはわからんよ、この平和の尊さというやつは。」

 部活が終わって帰り道。ひよりと桃花と三人で帰っていた。今日もウチへ来るようだ。今日の俺の顔はよほど変だったらしい。二人からそう言われてしまった。

「ネリネったら、結構スパルタでさ…。修行だって言って、モンスター退治を俺一人に押し付けるとか多かったんだよ…。その時に比べたら今の平和を謳歌してもバチは当たらないとおもうんだよね!」

「へぇ〜そうなんだ。ネリネさんってしっかり者の教育ママさんタイプなんだね。」

「ネリネさんならあってそうだね。教えるのとか上手そう。」

「確かに教えるのは上手いんだけど、厳しいんですよ。死にかけるギリギリの所を攻めるのが上手いんだよね。」

 まだ異世界にいたのが昨日のことなのに、随分時間が流れたように感じる。生死をかけていた日々。さよなら。

「先輩。色々あったことはわかりましたから。大変でしたね。お疲れ様です。」

「そうそう、無事に帰ってこれてよかったね!いや、帰ってこなかったから許さなかったけどさ。」

「そうですよ。帰ってきてくれてありがとうございます。まだまだ先輩のお世話になっていたいので、よろしくお願いしますね。」

 そう言って貰えると帰ってきた甲斐があったというもの。ちょっとジーンと来てしまった。あの数ヶ月の苦労も報われるというもの。

「ネリネさん達を連れてくるってトラブルはあったけど、楽しくなりそうだよね!」

「うん。魔法早く使ってみたい。先輩も教えてくださいね。」

「ミルと一緒にサポートするよ。多分俺も一緒に習うことが多いと思うけどね。」

 魔法に関しては俺もまだまだ修行中だ。教えられることがあればいいけど。

 三人で夕方の田んぼ道を自転車で帰る。夕暮れに染まる田んぼ道というのも中々の風情がある。二人がどう感じているかはわからないけど、俺はこの風景が好きだった。つい遠くを眺めていたくなる。異世界での景色も綺麗だったけど、この日常の風景も負けずと綺麗だと思う。


 三人で家に帰宅すると中は騒々しかった。なにやら言い争ってるみたいだ。

「だーからー、ちょっとでいいから魔石ちょうだいよ。残ったら返すからさ〜。」

「ダメなものはダメです!そういう時って絶対残らないやつですから!魔石貴重なんですから、スーリアちゃんを癒すために使うのはダメです!私だって癒されたいのに!厳しいですよ、この世の中!」

「二人とも落ち着きなさい。みっともないわよ!」

「私今日は疲れんだからちょっとだけ!ホントちょっとだけでいいから!お願い!」

 なんの騒ぎかは知らないが収集がつかなそうだ。

「あ、湊!ちょうどいいところに帰ってきたね!聞いておくれよ。ミルったら魔石を独り占めするんだ。ちょっとくらいくれてもいいよね?」

「だから魔石は残り少ないのでダメですって!こっちの国でも手に入ることがわかればあげるって言ってるじゃないですか!」

「そこをなんとかお願いしてるんじゃないか!魔法が使える以上魔石だってあるよ!きっと。」

 スーリアが魔石欲しくてワガママ言ってるみたいだな。確かにこっちの世界であるかわからないので貴重な物であることは確かだ。

「スーリア。我慢できないか?魔石の数が少ないのは分かってるだろ?それに魔石探しなら今度付き合うからさ。」

「湊まで、そう言う…。今日はこの世界に馴染むように身体を調整してたんだ。それで魔力をちょっと使って疲れたから魔石で癒されたかっただけなのに…!」

 そうだったのか。昨日の夜から作業してたみたいだからそれは疲れるよな。うーん。

「他に代わりになるようなことってないか?例えば俺の魔力をスーリアに渡すとかさ。ようは、魔力が渡ればいいんだろう?」

「それでもいいのかい?湊が少し疲れちゃうと思うけど?」

「そもそも身体の調整だって、剣を持ち歩けないこっちの国に合わせてもらうためにやってもらってることだもんな。それくらい安いもんさ。」

 スーリアのためになるのならそれが一番いい。

「そうか。ならそれがいい。湊からちょっと魔力をいただこうかな。」

 スーリアが普段は見せない蠱惑的な表情で舌なめずりし、こちらを見た。その表情を見て俺は背筋がゾッとするのを感じた。見間違いかと思いもう一度見ると凄くにこやかな表情をしていた。

「じゃあ、湊。こっちへ来てくれ!」

 ソファの上を指し示し誘導してくる。それに従い俺はソファに腰をかけた。その後スーリアはそのまま俺の太ももの上に乗り上げてきた!?

「ちょちょちょ、スーリアさん!?なにしてるですか!?」

「何って魔力をもらう準備だよ。魔力をもらうにはこの格好が一番だからね。恥ずかしがらなくてもいいよ、湊。」

 だからってこの格好で恥ずかしがらずにはいられない。二人からならともかく周りの目もある。周りを見てみると、ふむふむと頷き顔のネリネに、何をするのか分かっているのか顔を赤くして目を手で隠すミル。いや、隠せてないわ、隙間から目が見えるわ。ひよりと桃花も顔を赤くして口元を隠していた。何が行われるかわからないのもあるがこちらをガン見である。つまり、誰も助けてくれなさそうである。

「じゃあいくよ、湊。体が硬くなってるよ。リラックスして。そうそうその調子。その首に巻いてある布取っちゃおうか。」

 そう耳元で優しく言うスーリアの声に従いながら身を委ねる。スルスルっと首に巻いてあるネクタイが取られ、ワイシャツのボタンも上から二つ目まで開けられて首元があらわになった。

「最初はちょっと痛いかもしれないけど我慢してね。すぐ終わるからさ。」

 と、言ってスーリアは俺の首元を優しく撫でる。そして、

「それじゃあ、いただきまーす。」

 と、俺の首元に噛みついた。痛いと言っていたがそんなことはなく、むしろ柔らかい。甘噛みをされている感じだ。まるで吸血鬼に血を吸われているみたいにチュウチュウされている。その間身体中から力が抜けていく。これが魔力を渡す…いや魔力を吸われている感覚。

「はぁ、ご馳走様。湊ありがとう!おかげですっかり元気になったよ!」

「そ、それはよかった。こういう感じなら最初から言っておいてくれれば良かったのに。」

「ん?何か問題あったかい?そんなに特別なことをしていたわけではないと思うけどね。」

 スーリアの感覚では特に問題ないらしい。いやまぁ、問題ないと言えば問題ないのだが。周りのみんなはそうではなかったようで、みんな顔を赤くして下を向いている。

「先輩は私達にコレを見せてどうするつもりなんですか?満足できましたか?」

「え、ちょっと待って!俺もこんな風だとは知らなかったんだよ!」

「そうだよみな兄!私達には刺激が強すぎるよ!」

「だから俺も知らなかったんだって。」

「私はどういうものか知っていたんですけど、まさかここまでとは。勉強になります…。」

「私も予想外だったわ。ミナトとスーリアの関係を知らなきゃ、勘違いするところだわ。」

 助けになってくれそうな二人も驚きでそれどころではないみたいだ。ひよりと桃花に詰められている俺。責められるいわれがないだろうに!

 今度スーリアに魔力をあげる時は個室でやろうと決めた。


「ところでスーリア。作業の結果はどうだった?」

 一悶着あったが、それも解決した後。俺は事の発端である出来事を聞いてみた。

「うん、自分で言うのもなんだけどとてもいいものが出来たよ。ちょっと待ってて。」

 スーリアが部屋を出ていく。とっとっと二階へ上がったようだ。スーリアはすぐに部屋に戻ってきた。手には剣であるマスデバリアを持っていた。

「それが剣のスーリアちゃんなの?綺麗だね!」

「そうだよ、ひより。珍しい精霊剣だからね。そんじょそこらの剣と一緒にされちゃ困るね。」

 スーリアも少し得意気だ。確かにいつ見ても綺麗な剣だ。剣を見る機会が少ない、ひよりと桃花もじっくりと剣を見ている。

「今日は剣に細工をしてこっちの国でも持ち運べるようにしたんだ。ちょっと見ててね。」

 スーリアは手を剣にかざし始めた。すると剣が輝き始め形態を変えていく。ちょっと小さい形へと変化していき、輝きが消えたと思ったら、そこには赤い宝石のついた首飾りが置いてあった。

「どうだい?この大きさの首飾りなら持ち運ぶこともできるでしょ?このサイズにするのに苦労したよ。」

 大きな剣から小さな首飾りへと変化した。これも魔法によるものだろうけど驚きだ。

「剣の状態と首飾りの状態は好きな時に変化させることができるようにしたよ。だからいざ戦う時が来ても戦えるよ!」

「戦う時が来るとは思えないけど、それはいいな。いつでもスーリアを外に連れて行けるな。流石に剣を下げては出歩けないもんな。」

「これでこっちの世界も見ることが出来るよ。私に楽しい世界をたくさん見せてくれよ、湊。」

「ああ、色んなところに連れてくよ。任せてくれ!」

 これでスーリアはお部屋で待機ということも無くなった。ちょっと気がかりでもあったからこれはよかった。

「それにしても魔法って色々あるんだね。形を変える魔法があるんだ。」

 ひよりが関心したように呟く。魔法を見て二日目のひよりと桃花にはまさに珍しいだろう。それにひよりは魔法少女になりたいらしいからな。衣装チェンジの魔法があれば覚えたいらしいし。

「本当は形状変化の魔法はとても難しいんですよ。今の私では無理ですね。それこそ、プラチナランクくらいの魔法使いじゃないと出来ないですね。それが出来るなんてスーリアちゃんのレベルの高さがわかりますね。」

 ミルが凄まじい物を見たとばりに首飾りを見ている。そんなに凄いことなのか。

「これでミナトが外に出歩いても戦う手段が出来るわね。そこが心配だったのよ。私やミルは武器がなくても魔法や格闘技がある程度使えるから問題なかったのだけれど。」

「こっちの世界で戦うようなことはないと思うよ。喧嘩だって滅多にないんだからさ。」

「念のためよ。いざという時っていうのは、なんてことない日に来るものよ。」

 ちょっと心配性がすぎるような気がするが気には止めておこう。ネリネの経験則で言っているのであろうから。

「では。色々終わったみたいですのでご飯にしますね。ひより、ミル。手伝ってくれる?」

「はーい、喜んでー!」

「私も喜んでー!」

 今日の夕飯も三人で作ってくれるみたいだ。昨日も美味しかったから今日も期待だ。

「先輩?待っている間順番にお風呂に入っちゃってください。人が多くなってるのでちゃっちゃと入らないと詰まっちゃいますよ。」

「はい。わかりましたよ、桃花さん。風呂掃除からしてくるよ。」

「はい、よろしくお願いします。」

 俺は俺で作業が割り当てられたのでしっかりやるとしよう。家事の分担は当然だよね。

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