22話 クエスト前夜
まずは男の行き先を調べるべく街へ戻った。どこを探すべきか分からなかったからだ。あそこまで大々的に強奪を行っていたのである。なにかしら手がかりが街にあると踏んだ。こういう情報収集にはギルドが一番であるらしいので、ギルドへやってきた。
「ギルドのクエストボードを見てみましょう。悪さをしている盗賊とかならクエストが発注されているかもしれないわ。」
そう言われ、クエストボードを見ることにする。盗賊のクエストは………あった!
「盗賊団の討伐クエストあるな。推奨、シルバーランク以上。街の近くに住んでいる盗賊の討伐。生死は問わず…か。この盗賊団にあの男が入っているかどうかだけど。」
「恐らくは入っているでしょうね。一人でやりきるほど、優しい世界ではないでしょうから。」
「そういうものですか。クエストを受けるんですか?」
「うーん、俺たちの目的はあくまでも強奪された魔導具の奪還だろ?それなら盗賊団の討伐まではしなくていいと思うんだけど。」
「私は討伐の方がいいと思うわ。ここで奪い返しても、また奪い返しにやってくると思うわ。ああ言う連中はメンツというものを大事にしてるから、絶対にやってくるわ。」
「なるほど、やったらやり返すの精神だね。そこは昔から変わらないね。」
そうなると、取るべき選択肢は一つか。俺たちはクエストを受けにカウンターへ向かう。
「すみません、盗賊団の討伐クエストを受けたいんですけど。」
カウンターで仕事をしていた受付のお姉さんは仕事を止めてこちらへ向き直った。
「はいはい、クエストの受注ですねぇ。って盗賊団の討伐ですか!?結構難しいクエストなんですけど、大丈夫ですか?大丈夫。ならいいです。クエストの詳細ですが、この街の近くの洞窟に盗賊団が住み始めました。その盗賊団は遺跡から発掘された物を中心に強奪していきますので、発掘家から恐れられています。規模は10数人程度ですが、中に強い盗賊がいるようです。クエストを受けた冒険者が何名か返り討ちにあっています。ですので、クエストには気をつけて行ってくださいまし!」
中々に難しいクエストのようだ。失敗した冒険者が何人も出たから、シルバーランク以上が推奨になったのであろう。
「あ、クエストをリタイアする場合は、こちらへお知らせ下さいね。特に罰則などはありませんので!」
と、朗らかに教えてくれるお姉さん。
「洞窟へは明日むかいましょう。今日は遺跡の調査で疲れているでしょうから。疲れがある時に動くべきじゃないわ。」
「そうですね。正直ヘトヘトですぅ。ご飯食べてベッドで休みたいです。」
この日はこのまま宿屋へ行くことになった。
宿屋でご飯を食べた後、自由行動の時間になった。と言ってもやることのない俺はすぐにベッドへと入った。明日は盗賊達と争うことになる。今までのように、モンスターではなく、人と戦うことになる。以前戦った盗賊達の時は、無我夢中だったからどうにかなった。でも今回はこちらから戦いに挑む。もしかしたらそこで死人が出るかもしれない…。その覚悟が俺に持てるだろうか。それにネリネと互角に戦っていたアイツがいる。そいつと対峙した時に俺はやられずに戦い抜けるのだろうか。そのことを考えると中々眠れない。
「中々眠れないみたいだね、私の契約者さんは。」
剣の中で休んでいたスーリアが、剣の中からでてきて俺に話しかけてきた。どうやら、心の内はお見通しのようだ。
「そうなんだ。中々寝付けなくてな。明日のことを考えるとどうにも不安でな。」
「同じ種族同士の争いは、いつだってそんなものさ。特に慣れていない時はね。私は剣だからそんな感情はないけれど、私と契約してきた人たちはみんなそうだったよ。」
スーリアと契約してきた人たち。俺の前の契約者は数百年前だって言ってたけど、何人かいたんだろうな。その人たちも俺と同じ悩みを抱えていたんだろうか。
「でも一つアドバイスできるとしたら、躊躇わないことさ。湊が躊躇っても、相手は躊躇ってくれないからね。その一瞬の隙が文字通り命取りになっちゃうからね。湊には、これからも私に世界を見せてもらわなくちゃいけないからね。こんな所で死ぬなんて駄目だよ。」
そうだ。俺はこんな所では死ねない。元の世界に帰ってひよりや桃華達に再会するんだ。それにここまで手伝ってくれているネリネ達に申し訳が立たない。
「ありがとう、スーリア。こんな俺を励ましてくれて。おかげで少し気持ちが晴れたよ。明日は俺、躊躇わないよ。覚悟を決める。みんなのため、そして俺のために戦うよ。」
「うんうん、それでこそ私の契約者さ。忘れないでくれ。君には私がついてるし、私には君がついている。こんなに心強いものもないんだ。心配しなくていい。」
「ああ、そうだな。俺には強くて可愛い精霊様がついてる!これで何かがあるわけないよな!」
俺の不安になっていた気持ちが晴れていった。これで明日は普通通りに戦えるはずだ。俺は一人じゃないみんながついてる。
スーリアと話し終え、眠ろうとしたその時部屋の入り口がノックされた。
「どうぞ。」
そう言うと扉が開く。現れたのはミルだった。
「どうしたんだ、ミル?トイレについて行った方がいいか?」
「そんな理由じゃありません!子供扱いしないでください。私はもう立派な大人なんですから!」
そう顔を赤くして否定するミル。そういうところが子供だと思うんだけどなぁ。
「ちょっと聞きたいことがあって来たんです。少し時間いいですか?」
「ああ、別に構わないよ。」
そう言って中に入るミル。ベッドのふちに座り黙り込んだ。こんな夜更けに可愛い女の子と部屋の中二人きり。それに二人ともベッドに腰をかけている。別にどうってこともないんだが、緊張してしまう。子供扱いはしたけど、ミルと俺は歳がそんなに離れていない。異性を意識しないのはどう考えても無理である。外ならともかく部屋の中は無理。緊張からか何を話せばいいか分からない。俺ってこんな人間だったっけ?
「ミナト君は怖くないんですか?」
ミルが口を開いた。」
「怖い?何に対してだ?」
「明日のこともそうなんですけど、今のミナト君の状況ですよ。一人でこの国に飛ばされてきて、それでも平気そうにしてるじゃないですか。どうしてそんなに強くいられるんだろうって思ったんです。」
そんなことを思われていたとは。俺としては普通通りにしてるとしか言えないけど。
「どうしたら…どうしたら、ミナト君のように強くいられるようになるんですか?私は怖いです…。」
そこで、ミルは言葉を切ってこちらを見やる。いつもの余裕な顔ではなく、切羽詰まった女の子の顔がそこにあった。なぜそこまで思い詰めた顔をしているのかはわからない。でもミルにとってとても大切な質問なんだろうっていうのはわかった。だからこそ、俺も真面目に答えないといけない。
「俺はさ、別に強くないとおもうんだよね。」
「え…?」
俺の発言に少し戸惑うミル。それはそうか。質問がいきなり否定されたんだもんな。
「別に強くないと思うんだよね。こっちの世界に来た時もすげー心細かったし、明日のことだって凄くビビってる。さっきスーリアに相談したくらいだしな。」
「でも、そんなこと表情にも出さないじゃないですか。戦闘経験の浅い人なら尚更ですよ。なのにミナト君は普通にしてるじゃないですか。」
「うーん。それは多分仲間がいるからじゃないかな。俺一人だったらそれこそ心折れてたと思うよ。」
「仲間?」
「そう。ミルがいてネリネがいてスーリアがいて。みんな大切な仲間だ。みんながいてくれるから俺は頑張れるんだよ。」
「でも仲間がいても、結局やるのは自分じゃないですか。仲間が全部手助けしてくれるわけではないじゃないですか!」
「確かに仲間が全部やってくれるわけじゃないさ。だから俺も頑張らなくちゃって思うんだよ。仲間がいると心強いんだ。だから俺が強いんじゃない。みんながいたから強かったんだと思う。これで答えになってるか?」
「………。」
そこで黙って俯いてしまったミル。しばらく様子を見る。
「私にも少しわかった気がします。ミナト君はみんなのおかげで強くなってると思ってます。でもそれはミナト君自身の力なんです。それがわかりました。」
「うん?まぁ、納得できたのならよかったよ?」
「納得しきれたわけではありませんが納得しましょう。ミナト君のペースに巻き込まれると訳分からなくなりそうですから。」
ひどい言われようだ。俺ほどわかりやすい人間もいないと思うんだけどな。
「では、明日に備えて寝ることにします。お休みなさい。よい夢を。」
「ああ、おやすみ。」
そう言ってミルは自室へ帰っていった。




