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1話 輝く鏡

 俺、片桐湊が目を覚ますと、まだ目覚まし時計が鳴る前だった。早く起きすぎたので寝直そうかとも思ったが眠れなさそうなので起きることにした。目覚まし時計のタイマーを切るとふと、違和感を感じて自分の部屋を見渡す。そこにあるのは小さい頃から使っている学習机と漫画本が入っている本棚、テレビとゲーム機くらいしかない普通の部屋だ。一瞬キラキラしたものが見えた気がしたが気のせいだろう。どうもまだ寝ぼけているらしい。眠気覚ましにとコーヒーをいれた。早起きしたからこそできることだな。ついでに朝ごはんも食べよう。と言っても料理ができるわけではないので、昨日買った菓子パンを食べることにする。両親が海外出張でほぼ家にいないので実質一人暮らしみたいなもので、怠惰な生活を満喫している。昼は学食で済ませ、夜はコンビニ弁当かお隣さん家でご馳走になるという生活を繰り返している。料理ぐらいできるようにならないとなぁと思いながらテレビを見てみる。とくに面白そうなニュースはやっていなさそうだ。コーヒーを飲みながら普段よりゆっくりとした朝を過ごしていると、


ピンポーン


 と、チャイムが鳴った。

「やばっ!もうそんな時間か!?」

 時計を見ると家を出る時間間近になっていた。やばい、優雅な朝を満喫しすぎた!

 急いで玄関の方へ行き、扉を開けた。

「悪い、ひより!ちょっと待っててくれ!」

「はいはい。いつまでも待ちますよーっと。」

 と、ちょっと眠そうにひよりは答え、家の中へ入りリビングへ向かった。

 楠本ひより。俺の1つ年下の幼馴染だ。長い髪を後ろで縛っているいわゆるポニーテールで活発な子だ。ちょっと身長は小さめで目元に黒子がある。ひよりのご両親と俺の両親とが昔から仲がよく、小さい頃からよく遊んでいた。娘を溺愛しているおじさんに何かあっては危ないからと頼まれて、朝は一緒に登校するようにしている。ちょっと過保護ではとは思うけど。

「珍しい〜。みな兄朝ごはん食べてたんだ。傘とりに戻ろうかな?」

「なんで俺が早起きして朝めし食ってたら雨が降るんだよ!?」

「いつも寝癖つけていそいそと出てくるからじゃないかな?」

「ぐぬぬ」

 その通りなので何も言い返せなかった。普段はギリギリまで寝ている俺です。

「まったく。どっちが年上だか、わかんないねー、ホント。」

「どう見ても俺の方が年上だろうが!主に身長とかな!」

「ホアッチャー!」

 ひよりが鋭い回し蹴りをしてきた。ひよりは身長の話をされるのが好きではなく、からかってくる奴には容赦なく攻撃をする。ひよりは、運動神経抜群なのだ。

「部屋の中で回し蹴りをするな!危ないだろ!」

「うるさい、みな兄が悪いんでしょう!私は小さくないの、ちょうどいいの!いいからくらえ!」

 ひよりがブンッブンッ回し蹴る。

「だからってスカートで回し蹴りすると危ないぞー、色々と〜!」

「かぁぁぁぁ!ゆるさいよ、エッチみな兄!!」

「ガハッ!」

 ひよりの蹴りが俺の腹へと命中する。なんて重い一撃なんだ…。ガクリ。

「まったく、みな兄ったらいつも一言余計なのよ。」

「お前はいつも過剰に反応しすぎだと思うぞ…。」

「そんなことないし!いつもみな兄が悪い!」

 ぷんっとちょっと怒ってる風なひより。こうなると機嫌が直るまで長いんだよなぁ。と思っていたんだが、時計を見たひよりが慌てた様子で、

「大変!こんなことしてないで早く行かなきゃ!桃花が待ちくたびれちゃうよ!」

 おっとそうだった。いつもはひよりと2人で登校しているが今日はもう1人約束しているんだった。ひより1人ならどうでもいいんだけどね。


 高校までは自転車で通っている。高校生になるときに定期に憧れて電車で行こうとしたが通学時間があまり変わらないことがわかり、しょうがなく自転車登校にした。クラスの連中がスマホやスマートウォッチで改札通るのを見ると凄くカッコよく見えて仕方ないぜ…。なんて最先端な時代になったんだろう。

 家を出てひよりと一緒に自転車を走らせる。

「そういえば、なんで桃花が今日待ってるんだっけ?なんか約束してたっけ?」

「言ってなかったっけ?私と桃花、今日日直だから朝一緒に行こうって約束してたの。1人で行かせると日直の仕事全部やりかねないし。」

 そんなことも確か聞いたような気がするし聞かなかった気もする。

「なるほどな。じゃあ、お前は今日朝の練習は休むんだな?」

「そうそう!部長には言ってあるから伝えなくて大丈夫!」

「りょーかい」

 俺たちは演劇部に所属している。。普段は朝からミーティングや練習、裏方作業をしている。今日も朝から演技の特訓だ。と言っても俺は役者側ではないので、演技を見て口を出す側だけどな。俺は照明、大道具、小道具等、裏方専門のスタッフなのだ。舞台が映えるかどうかは大道具とや照明にかかってるからな。手を抜けない立派な仕事だ。


 平和な田んぼ道を自転車で漕ぐ。最初は電車通学できなくてテンションが落ちたが、今では自転車通学自体、割と嫌いではない。今はまだ、田んぼには何も植えられてないが、鮮やかな緑色に染まった景色を見ながら漕いだりすると最高に気持ち良かったりする。これは自転車登校だけの特権だと思う。

「あ、そうそう。桃花に会うんだから、あの約束忘れないでね。」

 うぐっ。

 忘れていたかった約束を思い出し、テンションがガタ落ちした。ひよりとしていた約束…ホントにやるのか?

「ほらほら、暗い顔しないの!駅前でまってるはずだから、会ったらよろしくね〜!」

 話をしている間に、俺たちは駅に着いた。俺たちの通っている高校の最寄駅は、あまり大きくない木造の駅だ。売店もなく近くにコンビニもないのでちょっと不便だったりする。駅の前のロータリーで待っていたのは、ひよりの同級生の柚木桃花だ。桃花は中学の頃からひよりと仲が良く、よくひよりの家に来ていた。その繋がりで隣の家の俺とも友達になった。髪の毛は肩あたりまで伸びたショートカットで、学校でも話題になるくらいの美少女だ。一応ひよりも話題になるくらい美少女らしいのだが、昔から一緒にいるのでそんな感じはしない。桃花はひまりとは対照的に少し大人びている。ちなみに桃花も演劇部に入っている。

「おはよう、ひより。先輩もおはようございます。今日もいい天気ですね」

「おはよう桃花!ホントにいい天気だね!」

 ニコニコと、いやニヤニヤとひまりが桃花の挨拶に答える。そして俺は、

「ホント可愛いな桃花!太陽に負けないくらい輝いているよ桃花!桃花に会えないのはホント寂しかったよ〜。寂しくて泣いちゃった!死んじゃうかと思った!これからまた毎日会えてホント嬉しい!桃花成分を摂取させて〜。」

 場の空気が凍るのを感じた。固まった時間が動き出すのに時間がかかった。

「え?先輩気持ち悪いです。すっごく気持ち悪いです。どうしたんですか?頭でも悪いんですか?」

「グフっっっ!!」

 普通にキモがられた。いや、普通以上にキモがられた。後退りしながら両腕で自分で抱き、心底気持ち悪そうにする桃花。そんなにひどかったか?

「あ〜っははは!!!お腹痛い、おかしすぎる〜!!」

ひよりが大爆笑していた。

「あー、またひよりとの賭けに負けたんですね、先輩!私を巻き込まないでくださいよ!」

「俺だってこんな恥ずかしい事やりたくはなかったさ!でも意外とこのアホが将棋強くて…」

 なんで成績悪いのに将棋あんなに強いんだよ。最後の方俺の王が1人で戦うハメになってたぞ。あ、俺が弱いのかな?

「あー笑った笑った!さぁ、学校へ行きましょ!」

俺は朝から疲れましたよ………。


 俺たちが通っている高校はちょっと高い丘の上にある。高校までは長い坂を登り、駐輪場に自転車を置いて、さらに急な坂を登る。家から近いところに行こうと思っていたので学校説明会に行かなかったので入試の時に急な坂を登った時は、受験したのを後悔するレベルだった。それくらいに急だった。隣の中学校はさらに急なので、そこの中学生とすれ違う時は頭の中で応援している。頑張れよ、少年。学校まで凄く遠くて高いぞ!

「なんで湊先輩はいつも負けるのに勝負するんですか?いいかげん学んでもいいと思うんですけど。」

「いや、ひよりに負けるって屈辱じゃないか?アホなのに、煽ってくるんだぞ!?やーい雑魚って!」

「子供ですか2人とも…。私はひよりには負けたことないので、全然わかりません。」

「みな兄が弱すぎるだけだって!!将棋もオセロもチェスもトランプ遊○王もポケ○ンカードもTVゲームも!!ゲーム系はとことんダメだよね。やーい雑〜魚雑〜魚!」

「このクソガキガァぁぁぁ!!」

負けたことは事実なので、直接手を出すことはないが、凄く屈辱的だ。ぐぬぬ。

「それにしても2人とも凄く仲良しですよね。お休みの日もよく遊んでるし。これでなんで付き合ってないんでしょう?」

「ん?何か言ったか、桃花?」

 桃花が何か呟いたが、あまりに小さい声だったので聞き取れなかった。

「いえ、なんでもありません!こんな罰ゲームは今回だけにしてくださいよ。鳥肌立ちましたから!」

「そんなに嫌だったんだ!?」


 そう、長い坂を喋りながら歩いていたのだが、ふと目の前に違和感を覚えた。目の前が少しぼやけて見える。曇ったガラスを見ているように目の前の景色がぼやけた。ぼやけた部分の周りはキラキラ輝いている。隣を歩いていた2人も違和感に気づいたのか、

「何これ?私の目おかしくなっっちゃたかな?目の前が目薬さしたあとみたいになってるんだけど。」

「…ひより。その例えなんなの?でも確かにぼやけて見えるね。湊先輩にも見えますか?」

「俺にも見えるよ。なんだろな、コレ…」

 今のところ俺たちに影響があるわけではないが、少し気味が悪い。俺はこの鏡に嫌な予感を覚え遠回りしようとした。が、

「なんだろうね、コレ。気になるね。」

「あ、バカっ!!」

何も考えないアホはそれに触れようとした。咄嗟に俺は体を前へ出し、ひよりの手を右手で引き戻した。その時に触れてしまった。鏡に左手が触れてしまった。触れた途端、

「うおおおおおおおおおおお!!!!????」

俺の左腕が鏡の中に吸い寄せられてる!?早いスピードで吸い寄せられる。抜け出そうとしても手が抜けない。

「湊先輩!」

「みな兄!」

2人の必死な声が聞こえたような気がしたが、気にしている余裕はない。それほどまでに急速に吸い寄せられている。あっという間に左腕の肩の近くまで吸い込まれた。抜け出そうにも踏ん張るための足も吸い込まれてしまった。

「今引っ張るから!!痛くても我慢して!!」

俺の右腕を2人が引っ張る。

「いたたたたたたたたたたた!!??」

確かに痛いほど引っ張ってくれた。だが、抜ける様子はない。それどころか徐々に鏡の方へ吸い寄せられている。そこで、

『きゃっ!?』

 俺は2人を突き飛ばした。このままでは2人も一緒に吸い込まれてしまう。2人まで巻き込むわけにはいかない。お兄ちゃんで先輩だからな。そうして、

「うわあああああああああああ!!!!?」

俺は中に完全に飲み込まれてしまった。

そして俺は意識を失った。

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