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◆第四話 《器用大富豪》爆誕


 地下の隠し部屋から、元いたフロアへと戻ってきた私達。


「さてと……じゃあ、このモンスターはキッチリ始末しないと――」


《洗脳》が解除され、私達に敵意の目を向けてくるダークストーカーに、刀の切っ先を向けるライレオ。


 その瞬間だった。


「キィッ!」


 ダークストーカーの体が、その場から移動した。


「あっ!」


《影縫い》を行っていたキミカゲのナイフが、キィンッと床から弾かれた。


 ダークストーカーは、まるで無理やり引っ張られるような体勢で床を走って行く。


「……逃げられるぞ!」

「早く追わないと!」

「待って!」


 慌てて追い掛けようとするキミカゲとシフォンを、私はそこで制止する。


 ダークストーカーが移動していった、通路の先――その向こうから、何かがこちらにやって来る気配を感じた。


「……ククッ」


 真っ黒い、人の形をした存在だった。


 その身に、同じく漆黒のマントのようなものを羽織り、闇色の王冠が頭上に浮かんでいる。


 頭部から伸びる長い髪のような部位が、陽炎のように揺れ動いている。


 引っ張られたダークストーカーは、その存在に吸い込まれるように消えていった。


「この私の城を荒らす不届き者が、また現れたか……」


 発するのは、人語。


 その全身から溢れる気配は――尋常なものではない。


「そんな……」


 冷や汗が、じわりと肌に浮かぶ。


 確かに、あのダークストーカーは影の中を移動し、《影沼》で隠し部屋に落とす力こそ持っていたけど、モンスターとしての戦闘力は弱すぎた。


 攫った冒険者達を倒す為には、仲間のダークストーカー……もしくは、もっと強い敵がいると思ってた。


 だけど……まさか、ここまでの存在が発生していたなんて。


「先輩……あれは、まさか……」


 瞬時に臨戦態勢を取ったライレオも、キミカゲも、シフォンも、本能で理解したようだ。


「うん……《ダークルーラー》。“支配者(ルーラー)”クラスだ」


【ヴィザールの靴】にいた頃も、数える程しか戦ったことのない相手。


 文字通り、ダンジョンを支配できる実力を持つモンスターであり、支配者クラスのモンスターが統治しているダンジョンは問答無用で高難易度に分類される。


「調査依頼の報告書に、ダンジョンの難化(アグルベイション)報告も追加しないといけないね……」


 このダークルーラーがどこからやって来たのかはわからないが、もうこのダンジョンの危険度は以前までの比ではない。


 それほどまでに、支配者クラスは強力な存在だ。


 モンスターとしての危険度はダークストーカーやロングレックスパイダーの遙かに上。


 Aランク冒険者でなければ討伐不可とされている。


「シフォン!」

「う、うん!」


 ライレオがシフォンに指示を出す。


 シフォンも、ライレオの意図を理解し行動に出る。


「《浄化Lv.1》!」


 シフォンのサブジョブは《白魔道士》――神聖系スキルが扱える。


 そして、神聖系スキルは闇属性のモンスターに対してダメージ効果が高い。


 回復魔法でさえ反転しダメージを与えられるほどだ。


 だが、シフォンの放った《浄化》――目映い光の塊は、ダークルーラーの体の遙か手前で掻き消された。


「ん? 今、何かしたか?」

「そ、そんな……」


 コケにするように嘲笑うダークルーラーと、瞠目するシフォン。


 ダメだ、流石は支配者クラス。


 魔力の差が大きすぎて、シフォンの神聖系スキルでは効果が無い。


「ハァッ!」


 裂帛の気合いと共に、ライレオが疾駆する。


 刀を振るい、ダークルーラーに斬り掛かる……が、《浄化魔法》同様、ダークルーラーの手前で弾き返されてしまった。


 おそらく、ダークルーラーの周囲で冒険者のスキルで言うところの《重力》や《斥力》が発生しているのだろう(私も持っているからわかる)。


「くっくっ……どうしたどうした? 遊んでいるのか?」


 ……圧倒的だ。


 物理攻撃も、魔法攻撃も無効化されてしまう。


 戦う手立てが無い。


「……仕方が無い」


 その時だった。


 ライレオが、シフォンとキミカゲに目配せをする。


 そして、三人はまるで壁になるように、私の前に立ち塞がった。


「先輩、今の内に撤退して下さい」

「え? 何を言って……」

「時間を稼ぎます、早く」


 私は、厳密には部外者だ。


 正式な、彼等【三日月の剣】の一員ではない。


 だから、逃げるための殿になろうとしてくれているのだ。


 それはつまり、全員がどこかで実感しているのだろう。


 向こうは冒険者でいったらAランク――Lv.3相当のスキルに匹敵するか、それ以上の力を持つ存在。


 この場の戦力では、残念ながら差は明白。


 だから、死を覚悟で私を助けてくれようとしている。


「私も、一緒に戦うよ」


 私の言葉に、三人は驚きの表情で振り返る。


「ダメです! 先輩は……」

「私、こういう時のためにスキルをいっぱい覚えてきたんだ」


 役立たずでも、才能が無くても。


 縁の下の力持ちでも、雑用係でも、後方支援でも――支えになりたい。


 だから、私はここでみんなと戦う。


“仲間”になりたい。


「クククッ……仲の良いことだ。喜べ、全員一緒に食らい尽くしてやる」


 ダークルーラーの体が歪む。


 その黒い体の至る部位がボコボコと沸騰し、ダークストーカーが生み出されていく。


 やはり、あのダークストーカーはダークルーラーの眷属だったようだ。


 大量のダークストーカーを生み出し、あの地下の隠し部屋に引きずり込んで、冒険者を捕食……。


「……あれ?」


 そこで、私は不意に……本当に不意に、思い出した。


 そういえばさっき、あの隠し部屋で変な事が起こったんだった。


 確か……目の前に変な表示が表れて、才能(ギフト)《器用貧乏》が《器用大富豪》に成長したとか。


 ……いや、《器用大富豪》て。


 どういうこと?


「ねぇ、私の才能(ギフト)はどう変化したの? 教えて?」

「先輩?」


 急に虚空に向かって喋り出した私を、ライレオ達も不思議そうな目で見てくる。


 一方、私の目前に、再びあの表示が浮かび上がった。


『《器用大富豪》成長のボーナスにより、あなたがこれまで獲得してきた100のスキル全てがLv.3となりました。また上限解放がされ、更にレベルアップが可能となっています』


「へ?」


 瞬間、光の枠の中にダララララララララと、表示されていく私の持つスキル達。


 総勢100のスキル名が並び、その横に表示されたレベルは、どれもLv.3。


《正常化魔法Lv.3》《麻痺Lv.3》《転倒Lv.3》《催眠Lv.3》《鈍化Lv.3》《微毒Lv.3》《目潰Lv.3》《影縫いLv.3》《洗脳Lv.3》《鑑定Lv.3》《忍足Lv.3》《錆落としLv.3》《パリィLv.3》……。


 ……そんな、嘘みたいな文字列が並んでいる。


 でも、本当に本当に……これが本当なら。


「みんな、伏せてて」


 私は、ライレオ達にそう言って、ダークルーラーへの手を翳す。


「なんだ? 貴様如きに何ができ――」

「《光攻撃魔法Lv.3》《浄化Lv.3》《祈りLv.3》《聖なる歌声Lv.3》」


 私は、自分が持っているスキルの中の、神聖系スキルを発動しまくった。


 刹那、光の砲撃が、十字の光が、オーロラのような虹色のカーテンが、賛美歌のような雄大な歌声が、ダークルーラーの全身を覆い尽くした。


「ギィィィィアアアアアアアアアアアアアアアア!???」


 爆発するような光芒の津波が止むと、その奥には全身が焼け焦げ、煙を上げているダークルーラーの姿が。


 体から生み出そうとしていた夥しい数のダークストーカーも引っ込んでいる。


 やっぱり、神聖系スキルは効果が高い。


 でも、これだけ撃ち込んでもまだ形を保ってるなんて、やはり支配者クラスは只者じゃないね。


「グ……ガ……ゆ、油断、したぞ。まさか、これほどの実力者が爪を隠していたとは……フフッ、良いだろう……我も敬意を表し、本気を――」


「神聖系スキルの効果だけじゃ、まだ火力不足なんだ。なら……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、どうかな?」

「……ハ?」


 私は、スキル《聖属性付与Lv.3》を発動する。


《聖属性付与》は、魔法に聖なる加護を付加させられるスキル。


 同レベルの魔法にしか付与はできないが、今の私の《聖属性付与》はLv.3。


 つまり――。


「《火属性攻撃魔法Lv.3》!《水属性攻撃魔法Lv.3》!《風属性攻撃魔法Lv.3》!《雷属性攻撃魔法Lv.3》!《土属性攻撃魔法Lv.3》! その他にも攻撃系の魔法スキル粗方全部! 《聖属性付与Lv.3》!」

「ハ!?」


 聖なる加護を纏った業炎と津波と大地の隆起が嵐と稲妻と共に荒れ狂い、ダークルーラーを飲み込んだ。


「ゴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!????? な、なんだ!? 何が起こって――」


 もう、何が起こっているのかもよくわからない。


 ともかく、私の放った攻撃が、ダークルーラーをダンジョンも巻き込みながらめちゃくちゃにしていく。


「ま、待て、こんな、我が、こんなよくわからない攻撃で、何もできずに――」


 ――やがて、嵐が収まった。


『クロックハート城跡ダンジョン』の一部が完全に消し飛び、私の目前には瓦礫の山と空と太陽が見える。


 ダークルーラーは……消滅したようだ。


 最期に、とてもかわいそうな断末魔の悲鳴を残していったけど。


「あ」


 ダークルーラーの完全討伐を証明するように、瓦礫の山に何かが落下してきた。


 カン、コン、と音を立てながら、私の足下に転がり落ちてきたのは闇色の宝石。


 ダークルーラーのドロップアイテム、《闇波動の魔石》である。


 私はそれを拾い上げ、振り返る。


 ポカンと立ち尽くす、ライレオ、シフォン、キミカゲの姿があった。


「えーと……ダークルーラー、倒しちゃった」

「「「倒しちゃった!?」」」


 そうとしか言えないのでそう言った私に、三人は驚き顔のまま駆け寄ってくる。


「一体何をやったんですか、先輩!? さっきのは一体!?」

「し、神聖系スキルも、攻撃魔法も、物凄い数で、僕、何が起こったのか何が何やら」

「いや、それより威力だろ……! なんだ、あの威力……! Lv.1のスキルじゃなかったのか……!? 明らかに出力がおかしかったぞ……!」


 わー、パニックパニック。


 慌てふためく三人に、私はなんとか説明を行う。


「実はかくかくしかじかで」

「……《器用貧乏》が、《器用大富豪》?」

「全てのスキルが、Lv.3に?」

「……なんだそりゃ」


 うん、まぁ、そんなリアクションになるよね。


 私も同感。


「なんていうか……ごめんね、出しゃばっちゃって」

「何を言ってるんですか」


 そこで、若干落ち込み顔の私を見て、ライレオが言う。


「俺達、先輩がいてくれたからこうして生きていられるんですよ。俺達だけだったら、絶対に勝てなかった」

「ライレオ……」


 そうだ。


 何はともあれ、ダークルーラーと遭遇したにも拘わらず、みんな生き残れた。


 それが、何よりだ。


「じゃあ、ひとまず帰還しよう。何はともあれ任務は達成。調査報告をギルドに提出しないと」

「あ、報告書なら私に任せて。いつもやってたから得意だよ」

「マニャウェルさん、働き過ぎだよ。僕がするから、ホームに戻ったら休んで下さい」

「……しかし、ダークルーラーを倒したなんて報告、ギルドが信じるか」

「大丈夫。ドロップアイテムがあるから、これが何よりの証拠だよ」


 こうして、【ヴィザールの靴】を追放されて初めての……。


 私にとって、【三日月の剣】と行った初めての依頼は、幕を閉じたのだった。


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