都市の守護者たち? 破壊魔じゃなくて
「そっちに行きましてよ、ドゥバァー。頼みます」
オジーンこと守護令嬢が声をあげる。その先にいる偉丈夫ドゥバアーは大剣でもって一刀のもとに甲虫を切断していく。
「更に行きます。3匹!」
「ドゥバアーさん、付与かけます」
「おぅ」
フォセレ・ヴェレ
'主'へ祈りささげる言葉にて請い願う。
「コンフォーセレ! フォルセス<マスキュラリス>、エッセ<アグリタス>」
剛力あれ、疾きことあれ
「うおおぉおうー」
奇跡により注がれる力に、体の内側から雄叫びを上げドゥバーさんが大剣を振るった。何かが弾けるような音が三つ。甲虫が瞬殺されていった。
さすがの偉丈夫ドゥバアーさんでも既に20匹ほど切り捨てている。疲れるのも当たり前、足元が奇しく見えてきたところへ、
フォセレ・ヴェレ
『サナ<ファティガーレ>」
癒し給え
回復の奇跡を'主'へ願っていく。そして主にと聞き留められ、偉丈夫は光に包まれていった。そうして疲労をを忘れてしまったように力強く剣を振い、ドゥバーは残りの甲虫を切り捨てていく。
⬜︎
その日の朝方から行っていた教会の掃除が終わり、ミサの準備を始めていたところ、街中で甲虫が大量発生したという話が教会にも流れてきた。
帝都ウルガータの誇る回廊城壁の外に広がる下町に埋もれるようにあるパラスサイト教会。ここの聖女見習いとしてお勤めをしている私には、そんな話は関係ないはず、そう、ないはずなんだけどね。
そんな思いも虚しく、教会の入り口に4頭立ての大型馬車のキャリィッジが教会の入り口に横づけされた。豪奢なキャビンのドアが開き、緋色の騎士服に乗馬パンツ、革のブーツの出立ちで、三つ編みにした長いブロンドの髪を靡かせて女性がが降りてきた。
挨拶もなしに、
「トゥーリィ、準備はできていまして?」
口上一喝で教会へ入って来た。
「さあ、貴女はこちらに着替えて、私たちと共に、この都市の平和を脅かすものを駆逐致しましょう」
彼女の呼び名はレディ.コールマン。この、帝都ウルガータの侯爵家のご令嬢で、もう一つの呼び名は'守護令嬢'。自身、魔法使いとして、帝都で起きた事件を解決しているお方なのだ。それもボランティアとして、報酬も貰わず。
最近、とある出来事で知り合ったのだが、私自身の秘密を知られることとなり、彼女の活動を手伝いをさせられるということになり、守護戦隊に組み込まれた。 どうやら、私の所属する聖教会もこの事を黙認しているよう。全く、いくら寄進をされたんだろうね。
「ささっとこれに着替えていただける?」
彼女の持参したコスチューム一式なんだけど、お揃いの乗馬服は、絶対、嫌だと突っぱねて、フード付きのバーヌースにしてもらった。前あきの儀典コートみたいなものなんだね。しかも色は藍色。その色は聖女様の色なんだよ。私みたいな見習いの身分が羽織るもんじゃないと主張したんだ。そこで、ごねる、泣き喚くとか、したけどダメだった。せめてバーヌースの下には、いつものアンバーの見習い服を着るということで妥協するしかなかった。
そんなんならと、どうせ無理なんだし聖教会本部にある聖具ジェズル権杖を頼んだら、早速持ってきやがった。
おい、聖教会本部、そんなホイホイ、お偉いさんの儀典用の大事なもの持ちだすなぁ。余計、断りにくくなったじゃないですか。
どうして、あんな杖がいるって、それはね。
あの守護令嬢おぉ、魔法をぶっぱなすのは良いのよ。
「ドゥバアー、援護します! <ウィンディカッター> 重ねてもう一つ!」
良いのだけれど、当たらない。全く当たらずに見当違いに後ろや周りにあるものを破壊して行くのよ。そりゃもう、目を瞑ってるのというぐらい酷いんだ、これが。
だから、私は、なんで?っと聞いて見たんだ。守護令嬢にもドゥバアーさんにも。
「こんなもんでしょ」「こんなもんだろ」
「………」
一体全体、誰が治すんですかと聞いたら、親指で自分たちを指している。彼女たちが供出するって言うんだ。それが市中に金が流れるからいいじゃないかとの事。
という事は何⁈ もしかして私が壊したら自分か教会が治すの! そんなことになったら、教会なんか消し飛んじゃう。私は、よるべを無くして夜をひさぐ女になるの。
そんなこと、いやぁ、帰るって言ったら、私の分も彼女たちは負担はしてくれるとの事。
でも、いつ、彼女達の気が変わるか分からないから、
フォセレ・ヴェレ
「オブリィゴ<ディスペル>、<ディスペル>、<ディスペル>……」
主に願い出て、彼女が外した魔法塊を解呪していく。できるだけ彼女のぶっ放した魔法塊に当たるようにするのに権杖を使い狙って解呪していく。そうやって被害を少しでも軽くしてるってわけ。
巷でレディコールマンも歩く迷惑とか、緋色の破壊魔とか言われるのが減ってきていると聞いた。私の涙ぐましい努力を褒めて、ねえ褒めて。誰かほめてよぉ。
私がぶつくさと文句を垂れ流していると、風がいきなり吹いて私の羽織っているバーヌースのフードを剥がしてきた。解呪して行き場をなくした風の精霊の悪戯だね。
雑に短くしたハニーブロンドと、鈍色のフェイスマスクが表に出てしまう。甲虫退治やらで見にきている野次馬たちに私の素顔を曝け出してしまった。
「仮面聖女、聖教会の仮面聖女様だ」
の声が群衆の中にザワザワと広がって行く。
お願い、それが良い意味で巷に知れ渡っていますように。
それに私は聖女見習いなんですよぅ。普段は、アンバーの見習い服をきていますよぅ。
でも今、羽織っているバーヌースは蒼いのよね。
「藍の仮面聖女様!」
はいはい。良い意味ですよね。周りの見物人たちの綻んでいる顔を見ながら安堵した。
概ね、大量発生した甲虫は退治できたようで、あたりの喧騒は静かになっていった。
飛び散った甲虫の亡骸はドゥバアーさんたちが手配していた人たちが回収している。