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姉妹の絆 家族の思い

よろしくお願いします。

 騒動の翌日はジリジリ痛む額に耐えながらネイヴ(会衆席)で木とガラスの破片の片付けと掃除に終わってしまったのね。

 お日様が地面に沈もうかという時に、私は教会の奥庭にある水瓶の近くで胡麻色紫色の裏白の犬を1匹洗っていた。ゴシゴシと。

 教会の玄関の建付けが昨日の騒災で悪くなってしまい開いたままになってしまった。そこへ、いつの間にか入り込み、中に紛れ込んで来たようで、奥に座り込み、悲しそうに泣いて外に出てくれなかった。

 1日粘られて根負けした。円らな瞳で私を見てくるんだけど、何か心に引っ掛かる。

 何となくですが、どこかへ追いやるのも吝かでないとして神父様に相談の上、世話は私が全面的に見ることを条件に一緒に暮らすことにしたのね。そうしたら、泣き止んでくれて大人しくしてくれた。近づいてみると汗らしい匂いが、かなり匂うから洗って落としている。


「ふう、後、少しだからね。もう少し大人しくしててよね」


 目を瞑り、うっとりとして気持ちが良いんだと見て取れる。びしょ濡れになって頑張って洗った甲斐があるというものだね。

 そうしていると、いきなり、姿勢を正し、耳をピンと立てた。


「何か、あった?」


 私も周囲を見渡して警戒すると、


「ぜいじょざばぁ」


 教会の奥庭に通じる路地から、泣きながらひとりの獣人狼族の少女がやってきた。

 この娘は、


「シュリンちゃん! どうしたの。泣いて目が真っ赤だよ」


「おねえちゃんいないの。まってもかえらないの。さがしてもみつからないのー、シュリンきらわれたのかなー、ワァーーン」


 シュリンちゃんは溢れる涙を手で拭っている。


「ギュッとしたいのにいないの。どこいったのかなぁ」


 泣き叫ぶシュリンちゃんを私はどうしていいのかわからずに、オロオロするしかなかった。けど、暫くして涙も枯れて泣き止んでくれた。


 真っ赤に充血した目で私を見ると傍に犬がいることがわかったようで、興味を示した。


「聖女様。そのワンワンさん、どうしたの」


「これから教会で私と一緒に住むんだよ」


「いいなあ、聖女様とでしょ。ワンワンさん。私、シュリンだよー」


 シュリンは犬に近づいていくと抱きついだ。


「お近づきのギュッだよー、これでワンワンとお友達だねー、もう一度ギュ」


 赤毛のシュリンと胡麻色紫の犬が抱き合っている。微笑ましい姿に目を細めてしまうよ。


 するとシュリンは頭を離し、意外なことを口にする。


「おねえちゃん」

「えっ、シュリンちゃん。何て言ったの?」


 私はシュリンちゃんが言った言葉に驚いてしまう。確かに、彼女には姉がいた。

 でも、昨日、騒動を起こしてしまった。何かに巻き込まれて壮烈な最後を遂げたんだよ。私の目の前で粉微塵となって散華したんだ。


「シュリンちゃん。ここにいるのは犬で貴女は狼族でしょう。お姉さんじゃないよ。それに名前だって "オネエ" ではないし "インプ '' って名前をつけることにしたんだよ。ねえ、インプ」


「違うよ、聖女様。お姉ちゃんだよ。この胸のドンドンいう音はお姉ちゃんだよ。寝る時にギュとしてくれてね。いつも聞いてる音だもん」


 シュリンは再び胸の音を聞こうと抱きしめて、犬の胸に潜り込んだ。そうしてから顔を上げてシュリンは犬の顔を見上げて、


「やっぱり、お姉ちゃんの音がする。セリアンお姉ちゃん!」

「えっ!セリアンなの」

「ワン」


 私とシュリンに呼ばれて、犬は返事のつもりか、一声吠えた。 

 えっ、この犬がセリアンなの。だってセリアンは獣人狼族だったし、私の目の前で消えてしまったんだよ。

 わかんないよ。誰か、おしえて!


『やはり、血の繋がりのある姉妹といえる。こんなに早く分かってしまうとは』


 えー、まただ。私の口を使って、私ではないものが話し始めたよ。


「ウル◻︎イルよ。この姉妹は家族の絆を示しましたよ。御裁可を」


''応''


 と、額から何か開くような感覚が伝わり、頭の中に肯定の響きがこだました。この世で裁定を司る御方が語られる。


ー 偽り無し。家族の絆というものを拝見した。なれば、プロバージョン 為るべしー


 すると周りの地面から淡い光が滲み出できた。犬と獣人狼族を包んでいく。

 この光は一昨日に巨大化したセリオンを食らった光。だんだんと膨らんで大きな光球にまでなると、すぐ弾けた。


「シュリンちゃん?」


 眩しさに目を瞬かせて、彼女の無事を祈って私は叫ぶ。あの光は異形だったセリアンを食いちぎったんだから。シュリンも消えちゃうのか?

 あまりの明るさに眩んだ目が元に戻っていく。するとシュリンちゃんが誰かと抱き合っていた。確か、教会に紛れ込んでいた犬じゃなかったっけ。

 でも、彼女は自分より大きな体にしがみついていた。よく見ると抱きつかれている者の頭にモフ耳が見える。それもシュリンちゃん同じ形。ということは獣人狼族だ。


「お姉ちゃん」


 シュリンちゃんの言葉に我が耳を疑った。セリアンは、私の目の前で散ったはず。


「セリアンお姉ちゃん」


 でも、信じがたいことにセリアンが元に戻っていた。復活している。


『心優しき娘よ。彼女たちを祝福してあげなさい』


 まただ、運命の女神が私の口を使ってきた。


『この2人は試練に打ち勝ったのです。御方が裁定したブロバージョンは、罰を猶予するということ。慈悲で暫しの様子見という事です』



 待って、罰をあたえないって言ったって、セリアンは微塵となって死んだんじゃないの?


『ですが、魂の審判のため、愚かな娘は心臓を取り出されて事切れています。そこで、御方は彼女たち2人に試練を与えられた。判決のひとつ、nova nativitas' 、つまり生まれ変わりという事。それも違う生き物として』


 じゃあ、セリアンは試練として犬に変えられたということなの。


『御方は言われたはず、絆を見せよと、姿、形が変わっても家族と分かれば良しという事なのです』


 ちょっと待って、セリオンは犬になったんだ。獣人と違い犬は吠えるだけで喋ることができない。言葉の意味も理解できない。近くにいても何もわからないしできない。

 こんなんで分かろうなんて苦行だよ。まずできないんじゃないかな。無茶苦茶じゃないの。奇跡でも起きなきゃできないよ。


『しかし、幼き娘は、やり遂げた。奇跡を成されたのです』


 シュリンちゃんすごいわ。一発ヒット。御方の難問を解いちやったよ。


 いいなあ家族。私にはないもの、羨ましいなあ。2人を羨ましく眺めていると、


   ズギン


ー 汝が監察せよ ー


 頭に痛みが走るとともに有難くとも面倒臭い御方の言葉が伝わってきた。私がセリアンの行動を監視しろってことですか。なんか、大変なことを申しつかったような気がします。


とほほ


 仕方ない。私は裸でいるセリアンのため、せめてシーツぐらいかけてあげないといけないと教会に向かう。そして振り向き、2人を見ながら、手を組んで印を結び主と教祖たる初代聖女様に感謝を送った。


『グラディアス・ドゥミィニイ』

主へ、至高の感謝を 


 何はともあれ、シュリンもセリアンも生きていてくれたんだ。こんなに嬉しい事はないよ。

 私は教会から持ち出したシーツをセリアンに掛けてあげながら、


「セリアン。実はね。シュリンちゃんが朝に教会に来たんだよ。あなたをギュッとしたいってニコニコしながら帰ったんだよ」


 本当に、こんなに良い娘のシュリンちゃんをほっぽって何をやってたの。


「そうか、そうなのかよ。あー、ごめんなシュリン。馬鹿な姉貴で」


 セリアンは、私を恥ずかしそうに見てから、改めてシュリンを抱きしめて行く。


「ううん。お姉ちゃん!ギュッとできたよぅ」

 

 シュリンも姉にしがみついて至福の表情を見せていた。


「いつまでも、外にいるのも何だから、教会の中へ入りましょう。お茶くらい出せますよ」


 抱き合って動こうとしない2人を誘う。怒涛の1日になってしまったけど、なんとか落ち着きそうだ。こういう時こそ、我らが主に感謝をさざけていかないと。



 後日、守護令嬢レディコールマンがパラスサイド教会にきた。意匠の凝ったマスクをつけて。


「共にこの都市をまもりましょう!」


 私をスカウトしに来たのだという。


「御免、被ります」


 即、お断りを入れさせて頂きました。当たり前です。私は見習いとはいえ聖女の端くれ、聖行を疎かにできません。


 まあ、厄介ごとは、今回の事でお腹いっぱい、御免なんですよ。

ありがとうございました

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