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主の祝福を

よろしくお願いします


挿絵(By みてみん)

 チャンセルと呼ばれる内陣にある祭壇。サンクチュアリと呼ぶんだけれど、そこにある燭台へ蝋燭を置くのは終わった。数が多いんで結構たいへん。実を言うと蝋燭は私が作ったんだよ。 


 で,次はと、


「シュリンちゃん。もう、アルバを着られたかな?」

「はぁ〜い」


 白いアルバと言われている長衣を羽織ったシュリンちゃんが私の元にトコトコと寄ってきた。私は手に持ったストラと言われる細い帯を首にかけてあげる。


「お姉ちゃん。今日はどうしたの? いつもと違う服を着てるの? 何かあるの」

「今日はねぇ。大事なお客さんが来るの」

「大事なお客様?」

「そうよ」

「だから御めかしてるんだね。一体、誰が来るんだろ」

「お肉屋のスイッチャーさんとフラウさん。この前、赤ちゃんが生まれたんだよ」

「そうなんだ」


 子供が生まれるっていうことは、幸せな事んだけど、実際,子供を産むとなると大変なことだった。あわや,奥さんのフラウさんや赤ちゃんまで死にかけた。

 主へ奇跡をお願いして,なんとかなったんだ。重い出産で血の気かなくなり瀕死の状態だった奥さんも無事、回復して動けるようになったんで,このパラス教会に参拝するということになりました。


「だからね。生まれた赤ちゃんを祝ってあげるんだよ。おめでとうって」

「そうなの。じゃあ、私もその子をお祝いしてあげる。お姉ちゃん、赤ちゃん、可愛かった?」

「とっても。ほっぺなんかプニプニッとして,ギュッと握った手が小さくてね。可愛かったあ」

「そうなんだ。私も早く会ってみたい」

「もう少しでも来るからね。しっかりとお出迎えしようよ」

「うん」

「ところでシュリンちゃん」

「なんですか?」


 私に問われて小首を傾げてキョトンとするシュリンちゃんが可愛い。


「お唄は、覚えられたかな?」

「なんとかかな。えへへ」

「赤ちゃんに歌ってあげてね」

「うん」


 少し前からシュリンちゃんには讃美歌を歌えるようにしてねとお願いしている。練習も、しっかりしていたから大丈夫だよね。

 さてと、ストラやアルバの裾の具合を整えて、


「はい、出来上がり」

「えへへ。おニューです」


 建屋の修繕にあたり祭事に使う服も教会本部が新しいものに変えてくれました。よっぽど寄進が集まったんでしょうね。ありがたい事です。

 姉のセリアンは先に用意を終わらせて玄関前の掃除をしてもらっている。

 私はといえばアルバの上にカズラと言う刺繍に飾られた外套を纏っています。

 シュリンにかけたストラや私のカズラの色は緑色。子供の誕生、成長、そして希望を意味します。今日の祭事にはもってこいの色なんですね。

 セリアンにはピンクのストラを掛けてあげました。祝い事を表す色なんですよ。よき日にピッタリです。


   カチャッ

 

 礼拝室の入り口の扉が外から開けられた。


「トゥーリィの姉御。お客さん来たよ」


 外で掃除をしているセリアンが声をかけてくれた。

 でもね姉御はないでしょ。姉御は。私はセリアン、あなたより年下なんだよ。後できっちりと話をしておかないといけない。


「ありがと。セリアンは神父様にも知らせてあげて。準備しているはずだから」

「は〜い」


 一旦,ドアは閉まり、セリアンは神父様を呼びにいってくれたはず。

 私は壁際の側廊を通って礼拝堂の入り口へ急ぎます。扉を開ける前に一呼吸。息を整え、扉を開ける。


「いらっしゃいませ。スイッチャーさん。フラウさん。パラス教会まで、ようこそ、お越しくださいました」


ポーチに佇む、お二人。違った。白いベールに包まれた赤ちゃんがいるから,お三方ですね。


「トゥーリィ。今日は,よろしくな」

「はい」

「来るのが遅くなってすまんかった。此奴の肥立が思うように行かなくてな」

「大変な出産でしたからね。来れるようになって良かったですよ」

「ああ、本当にトゥーリィのおかげだよ。あんたがいなかったら、どうなっていたか」

「それは、主の思し召しですよ。私は、お子さんも奥さんも無事を願っただけですから」

「そののお陰で二人とも無事だったんだから」

「主へ感謝ですね」

「全くだ」


 グラディアス・ドミニ


 私は手で印を組み、感謝の思いを主へ送った。


「さあ,中へ。式を始めます」


 私が案内をして身廊を進み、三人を内陣手前まで案内して長椅子に座っていただく。


「式が始まるまで、もう暫くかかります。どうぞ、こちらでお待ちください」


 神父様もそうだけど、私自身、準備は終わっていない。一度、礼拝堂を出てウインブルを頭から通して髪の毛を隠す。その上に鍔のついた白いコルネットを被る。

 そうこうしているとタダイ神父が礼拝堂に姿を現した。トュニカに肩衣のスカプラリオを纏いミトラを被っている。手には権丈。

 こうして見ると威厳があるように見えるから不思議なんですよね。普段は生臭さが滲み出ているのにね。言ってもしょうがないか。私も大急いで姿を改めて内陣へ急いだ。

 内陣の手前にクッションの敷かれた台が置かれて、その上にベールに包まれた赤ちゃんが置かれる。スニッチャーさんは向かって右に,左にはフラウさんが並ぶ。祭壇に近い方にタダイ神父様,隣に私,更に隣にセリアンとシュリンちゃんが並んだ。


 そして神父が一言、


「では、式の前に。スニッチャー様,フラウ様。お二人の子の名を教えていただきたい」

「「フリーダと名づけました」」


 二人は揃って答えます。えっ、フリーダ。私は最近、その名を耳にしている。何か、縁があるのかしら。


「わかりました。では始めましょう」


   リーン


 タダイ神父が鳴らすハンドベルの音が礼拝堂の隅々までー響き渡り、壁に染み入っていく。

私は、印を結び、主へ祈りを捧げる。


フォセレ・ヴェレ

我は乞い願う


『クァエソ<アッケンデ・カンデラス>』 

どうか、蝋燭らに火を灯していただけますか


 主へ願いが届けられて祭壇に並べてられた蝋燭の一つに火が灯る。ジジッと音を立てて炎が付く。そして隣の蝋燭にも炎があがる。また,一本,そしてまた一本と居並ぶ燭台の上の蝋燭全てに火がついた。


 ユラユラの揺れる炎に祭壇が照らされる中、タダイ神父が聖典である詩篇パサールの前文を奏上していく。


隣人よ

この詩篇を信じ行うは難し、

隣人よ

この詩篇を信じ行うものなれば

主は歓喜せん。

なれを祝福せん。

なれの信心と勇気を褒め称えるであろう。

なれ戒めをもって、行ずるものなれば無上の道行ならん。

淳善の地に住するなり、

隣人よ 隣人よ


   チリーン


 神父はハンドべるを鳴らす。そして祝福の儀が始まる。

 神父様は唱えます。


「首の御前の出るはスニッチャーとフラウのお二人。互いを愛する者たち」

「主は愛する者たちへ贈り物を与えようとなさるお方です」

「主から、新しい命を贈り物としてあなた方に授けられました。あなた達は命を育まれますよう」


「静謐な空の下、正常な水の流れる盤石な大地へCunae animaeクナエ・アニマエ魂のゆりかごより出しスニッチャーとフラウの子、フリーダへ主からの思いを伝えます」


 私は、用意してあった小皿に聖別してある水を注ぎ入れ、主からのお二人への賜り物である赤ちゃんの傍へ近づきます。

 赤ちゃんの顔を覗き込むと、円な瞳が私を見つめ返してきます。何が見えるのか不安そう。

 でもね。大丈夫だよ。私は口角を上げ頬を綻ばせて見つめてあげます。


   キャハ


 私につられたのでしょう。赤ちゃんも笑ってくれました。


 そして私は唱えるのです。


「主があなたを祝福し、あなたを守られますように」

「主の御顔があなたに照らし、あなたを恵まれますように」

「主の御顔はあなたに向けられ、あなたに平安を与えられますように」


 私は小皿に注がれた水に小指の先をつけてフリーダと名付けられた赤ちゃんの下の唇を濡らしてあげます。


「主は願われます。この子に乾きがないように」


 私は再び、小指の先に聖別された水をつけるとフリーダちゃん上唇のキューピットボウを濡らす。


「主は願われます。この子に飢えがなきように」


 次に指先に聖別された水をつけると額にチョンと、


「主は願われます。この子に苦しみのなきように」


 もう一回、同じところへ


「主は願われます。この子に痛みのなきように」


 そして、私は手のひらを上に向けて


フォセレ・ヴェレ

我は乞い願う


『ドミニィ・アブ オムニ モルボ デフェンダット』 

主よ。あらゆる病から守りたまえ


 願いが聞き入れられ、手から金色の光が吹き出しフリーダちゃんに降り注ぎます。

 もう少しだからね、後、ちょっとで終わるから。


 私は再び、聖別した水が注ぎ入れられた小皿に指を浸し、フリーダちゃんの両方の瞼にチョンチョンと指先をつけて雫を残します。


 緑に覆わるた大地を、そこに咲く青や赤、黄色に彩られた花たちを見てほしい。どこまでも続く青い空、風に流される、ぽっかり浮かぶ白い雲を見てほしい。

 お父さんとお母さんの優しい笑顔を見てほしい。主と共に貴女を慈しんでくれるんだよ。


 両の耳の耳たぶにもチョンチョンと指先をつけて雫を残します。


 囀る小鳥の鳴き声を聞いてほしい。首の声を、お父さんとお母さんが優しく貴女を呼ぶ声を聞いてほしい。世界には色んな音と言葉が満ち溢れているんだよ。

 

 最後に、私はフリーダちゃんの胸に手を翳し祈ります。



主よ。そして、主のお言葉を受けし大聖女よ。


フォセレ・ヴェレ 

我は乞い願う。


『アド・マイオーラ』 

この者に幸あれと  


   リーン


 タダイ神父がバンドベルを鳴らす。そして高らかに、


「主の愛する者よ。あなたが、魂に幸いを得ているようにすべての点でも幸いを得、また健康であるように祈ります」


フォセレ・ヴェレ

我は乞い願う


『クレスカット<エッ・フローレアト>』 

成長し、そして花開くように


「スニッチャーさん。フラウさん。お子様を健やかにお育てください。主の願いでもあります故」

「「はい」」


 祝福の儀の終わりを告げました。




 私は振り返り、祭壇の横に立つシュリンちゃんに目配せをした。お願いねと。

 彼女を首肯して息を吸う。



今日という日はお友達の誕生日。おめでとうございます。お腹の中で眠っている時から主は貴女を守ってくれていたんだよ。


今日という日はお友達の誕生日。おめでとうございます。目が開いて澄んだ光を見ることができた時から主は貴女を愛してくれているんだよ。


今日という日はお友達の誕生日。おめでとうございます。耳を澄まして清らかな音を聞くことができた時から主は貴女をは慈しんでくれているんだよ



 シュリンちゃんは讃美歌を歌う。伴奏はなくても、優しく心のこもった声で歌っていく。この歌は聖教会に務める私たちからの贈り物。フリーダちゃん。元気に大きくなってねと。


 私も一つ送らさせて頂きます。

 では、


天のめぐみ受けて みのる穂はかがやく

イーヤ・サカ 主の栄えを 朗らかに唄おう


地のめぐみ受けて 育つ稲は たなびく

イーヤ・サカ 主の栄えを 朗らかに唄おう


主よりめぐみ受けて 祈る子供は健やか

イーヤ・サカ 主の栄えを 朗らかに唄おう


   シャラララララ


 讃美歌を唄い終えてスレイベルを鳴らします。

 どうでしょうか? 拙い唄ではありますが届いたでしょうか。


 礼拝堂へ響くスレイベルの音も壁に吸い込まれ静寂が辺りを支配します。

 そしてタダイ神父が持っていた権丈で空中に印を描き、身を引いて祭壇を後にしました。

 私はその姿を追って見てしまいます。辺境の教会に飛ばされたとはいえ、神父様は神父様なんですね。それらしく見えました。これからは神父様の見方を変えないといけないかしら。


「いやあ。トゥーリィ。素晴らしい式だったよ。ど偉い祝福をもらえた気がする。なあ、お前」

「そうだよ。おかげでこの子もすくすくと育ってくれそうだ。ありがとうね」


 神父を目で追っていた私の背中から夫妻が声を掛けられました。私が慌てて振り向くと、奥様は赤ちゃんを抱き上げてあやしている見たい。キャッキャと笑う声が聞こえてきます。


「いいえ。どういたしまして。無事に終わることができて安心しました。実を言うと初めてだったんです。子供に祝福をあげるのって」

「そうなのかい。妙に堂に入っているように見えたんだけどなあ」

「そうですか。あはは」

「ああ、立派な聖女様だったよ」

「ありがとうございます」


 聖教会の教導部を出てパラス教会に来て初めての祝福の儀。何度も練習したとはいえ、無事に筒がなく終わることができて良かったです。

 どこかで祝詞を言い忘れるんじゃないかってヒヤヒヤものだったんですよ。肩の荷が降りました。


「ところで、お子さんにはフリーダちゃんって名をつけられたんですね」

「ああ、そうだよ。生まれたばかりのこの子の顔を見たら、頭の中にピーんとき来たんだ」

「私もそうだよ。“フリーダ”って名が頭に浮かんだのさ」

「そうだったんだ。でも、私もそう思いますよ。この子にはフリーダちゃんって名がお似合いだって」

「そうだろ。ありがとうな」


 私は、ベールに包まれたフリーダちゃんの顔を覗き込みました。


   パチッ


 え! ウインク?

 フリーダちゃんが笑顔で私に向けて片目を瞑るんですよ。どう見てもウインクです。フリーダちゃん。貴女はもしかして………、

 思い出しました。

 私はフリーダちゃんが生まれて命の火が消えそうな時にレスレクティの奇跡を願った。傷つき欠けた魂を補完するという。

 そして、あの人の魂送りの時に額の御方のリジェれネーションのお言葉。


 やはり、フリーダさんなんですか?

 私は、再び、フリーダちゃんの顔を覗き込む。彼女はキャッキャッと笑顔を返すのみ。

多分ですけど、これも奇跡なんでしょう。そう思うしかありません。



また、貴女に会える事に,


主に感謝を


グラディアス・ドミニ

ありがとうございました。

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