ささやかな、お茶会
よろしくお願いします。
大聖堂に魔物が侵入した事件から、幾日が経ち、周りもだいぶ落ち着いてきました。壊された大広間の修理も始まっています。
私はといえば、ウリエル様から王城に参内せよとの知らせがあり、急遽、登城の運びに相成りました。
新しく戴いたアンバー色のハビットを纏い、急いで出向いた先は、王への接見室ではなくて、ウリエル様の私室。
乳白色を基調にした部屋で落ち着いた雰囲気お部屋。所々に季節の花が置かれ、華美でない調度品がバランスよく配置されていて、すごくリラックスします。
「久しいの。息災か?」
締め付けの緩い、ゆったりしたブリオーと言われたオーバーチュニックにコルサージを着て、ソファーに横座りをするお姿も麗しい。王妹のウリエル様からお言葉を頂きました。
私は手を胸に置き、腰を落として、
「はい、ウリエル様には、ご機嫌麗しゅう…………」
挨拶をしようとするのですけど、
「そう、かしこばるな。ここは我のプライベート、畏まるではない」
「と、言われましても、ウリエル様は………」
「構わぬと言っておろう。あまり、形式ばった付き合いは好かぬ。もっと、肩の力を抜いてくれぬか」
「はあ、それでよろしければ」
「うむ」
まあ、四六時中、鯱鉾張っていたら肩が凝ってしょうがないですからね。うん、うん。
「では………、お陰様で、疲れも取れました。お勤めも無事、続けることもできています。ウリエル様やコールマン様、フィリップ卿の援助で教会の修理も進んでいるんですよ。ありがとうございます」
「そうか、そうか。我もお主の元気な顔を見れてよかったぞ。なあに、援助のことは気にするな。我は元より、ルイの命まで救ってくれたのだ。礼とするには微々たるものよ」
「あれが、微々たるなんて、過分に過ぎます」
パラス教会は、もともとあった、家屋を手直しして作り替えた中古物件なんです。老朽化して、手直ししないといけない場所も沢山あったのですが、修理と称して、土地は広がるは、床から壁や天井まで、建物毎、新築するような勢いで作業しているんです。祭壇部分も立派になって………、
「まあ、気にするでない。気持ちよ。気持ち。受け取ってたもれ」
「気持ちって、」
「ところでな………」
「シュリンはどうして一緒ではないのか?」
傍にいた、幼い子供から声が掛かりました。ウリエル様と同じブロンドの髪と碧眼を持つルイ様ですね。ウリエル様の五人目のお子様。
「ルイ様。シュリンは教会でお留守番をしてます」
「なぜだ。一緒にくると思って待っておったのだぞ」
「すっ、すいません」
ルイ様には、勢いよく捲し立てられました。ルイ様は先の聖教会本部であった騒動で瀕死の状態まで陥りました。
私とシュリンちゃんで、主に奇跡を願い、なんとか生き延びられたんです。
でも、怒ることが出来るぐらい元気になられたようで、微笑ましく感じます。
「ふふっ、ルイや。そう急くでない。事情は色々とあるもの、察してやれ」
「でもぅ、でもぅ。会えると思って楽しみにしてたのですよ。母さま」
楽しみにされていたのにシュリンちゃんを連れて来られなかったのは、心苦しいのですけど。
私と一緒にいるシュリンちゃんは、差別意識の高い人族の多い王都の中には、入りずらい獣人浪族なんです。城へ参内となると以ての外と断られるに決まっています。
「困ったのう。そうじゃ、ルイがシュリンの元へ行けば良いぞ。次のミサにでも、共に向かおうかの」
「流石は、母様」
「と、言うことじゃ。トゥーリイよ。次のミサには、ルイ共々参拝させて頂くとしよう。良いな。シュリンにも、しかと伝えておいてもらえるか。我らが参るとな」
「えっ、えっえ〜」
「なんぞ、問題でもあるかの?」
「めっ、滅相もない。ウリエル様。ルイ様のお越し、お待ちしております」
タダイ神父じゃないのですけど、心臓が止まるかと思いました。ウリエル様だけでなく、ルイ様まで来られるなんて。
「ふむ。そうだのう、いっその事、家族総出で伺うとしよう。楽しみじゃのう。ルイ」
「はい。母さま」
ええ,って、王族の皆さんが来られるなんてことになったら、タダイ神父様の心臓が破裂しちゃうじゃないですか。
「お越しになるのは良いのですが、パラス教会は修理の真っ最中なんですね」
ウリエル様の王族の方々だけでなく、レディ・コールマン様の侯爵家、フィリップ卿ナバール家までが援助していただいて、パラス教会の修理だけでなく、壊れた街の復興まで行われているのです。
「しかしな、ミサは行われるのであろう」
「はい。教会の前を使って屋外で執り行う予定なのですが」
「なら、そこにいくまで。宜しかろ」
「はぁ」
これは、急ぎ戻って神父様や教会本部にまで相談しなと行けません。
「わかりました。ウリエル様のご来訪を心よりお待ちしております。早速、教会へ帰って準備を始めます。粗相があっては行けませんから」
「はっ、はっ、はっ。そう急くな。今日は我がお主を呼んだのだぞ」
「そうでした。あまりなことで動転してしまいました。で、以下用なことなんでしょうか」
「急くなと申したであろう。まずはテーブルに座ってたもれ。隣国から良い茶葉をもらってな。主と、共に楽しもうと思ったまで」
「ありがたい申し出なのですが、私如きでよろしいのですか?」
「トゥーリィ。あまり畏まるなと言ったではないか。肩の力を抜いてくれ。我は主とゆっくりと話がしたかった。それだけのこと」
「はぁ」
「我が茶を入れるでな。暫し、待っておくれ」
ウリエル様は準備のために立ち上がり、湯気のたつポットが置かれたテーブルへと行きます。ルイ様がトコトコと彼女に寄り添っています。何やら、ウリエルのお手前を見ているようですね。親子で語らっているなんて,なんか微笑ましく感じます。
あれ? ちょっと待って、王妹のウリエル様は手ずから私にお茶を入れてくれるということでしょうね。
名誉なことなんでしょうけど、緊張しすぎて味なんか解るのでしょうか。手が震えてカップを落としたりしないでしょうか。
王族が使うカップって幾らくらいするのでしょうか。もし割ったりして弁償ってことになったら………、夜毎、街角に立って春を鬻ぐしかないかしら。貧相な私に需要あるかしら。
なんて、考えを回らしていると、ウリエル様、自ら私の前にカップを差し出してくれました。緊張で身が縮む思いです。でも、茶を注がれたカップから香りを吸い込んでみたら………、
「スゥ」
芳醇な香りに緊張など吹っ飛んでしまいました。すごくリラックスするんです。
一口飲むと、柑橘系の味がして口の中に広がります。
「ほうっ」
恍惚としてしまいました。
「どうじゃ? なかなか、美味しかろ」
「はい。変わった味ですけど。爽やかで口の中がさっぱりします。これなら甘味も入りませんよね」
「じゃろ。我もこれが好きでな。隣国から送られ来るの楽しみにしておる」
「ですね。納得の味です。ウリエル様は羨ましいですね。こんな美味しいものを飲めるなんて」
「羨ましいとな。なんということはない。お主が、ここへくれば良い話。いつでもも飲める。他にも色々とあるぞ」
「いえ、そんな私如きが………」
「そんなに自分を卑下するでない。我と飲み友達にでもなったと思ってくれれば良い。さあさあ、たっぷりと作ってあるでな。継ぎ足してあげようかの。おかわり自由じゃ」
と言って、私のカップに手ずから注いでくれました。仕方ないですね。ウリエル様のお気持ちを蔑ろにはできません。
ここは腹を括ってお付き合いするしかありません。断ったとしても強制呼び出しをされるのがオチでしょうし。
その後、テーブルを挟んで、和やかに、お話ししました。騒動のこと、市中のあれやこれや、私のスチューデント時代のこと。
話し終えて、しばらくすると、
「なかなか、面白い話であったな。また、話てたもれ。ところで、今日、お主を呼んだのはな………」
いきなり、話を変えられ、私はごくりと生唾を飲みました。」
「トゥーリィ、何か望むものはあるかの?」
へっ?




