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貧乏くじを引いたかも

よろしくお願いします。

挿絵(By みてみん)

仮面聖女38


 さあ、やりますか。  


 私は、瓦礫と化したテーブルの隙間を縫うように進み、彼奴の直前で姿を晒した。軽めの瓦礫を祓いあげるように立ち上がったから、嘸かし目についたんだろうね。

 私は指を組み替えて、再び印を組む。


「フォセレ・ヴェレ」

我は乞い願う

「ウェア<ヴェスティス・ルーティス>」

光の衣、羽織る


 私の周囲に幾つもの光の玉が滲み出て、体の周囲をクルクルと回り出す。そして周りに光放ちながら周回する。見た目には華やかなものになっているはず、


「おい、そこの減らず口ばかがなりたてる、木偶の坊! 主の清浄な光のシャワーはどうでした? お気に召していただけましたでしょうか」


 私は木偶の坊を煽る。派手に見えるようにしたおかげか、木偶の坊は触手を振り回すのを止めた。そして立ち上がった私へ刺すような気配ををぶつけてくる。


「オメェカ、おれ艶やかて滑らかな肌をチンケな種火で燃やそうとしたのは」


 頭の芯に奴の濁声が突き刺さってくる。しかし、なんでだろう、それまで頭に血が登って暴れて振り回されていた触手が力を失い、だらんと垂れ下がってしまっている。


「なんでぇ、なんでえ、鶏ガラみたいな野郎だな、期待してがっかりだぜ。俺はもっと清純で高潔な魂をその身に宿すのが出でくるかと期待したんだぞ」


 ガックリと気を落とした失望感が伝わってくる。


「寸胴で胸もねえ。ちゃちな体つきで、そんな見窄らしい器に、不貞腐れて、いじけた魂が入ってる。おれはなあ、聖女と呼ばれる奴らの無垢な心を惑わし、拐かし、唆して、闇に染めていくのが楽しいのだよ。その純粋さが汚れていく様を見ていくのもオツだぜ」


 全くもってゲスが! 聖女のことをなんだって言うんだい。そりゃあ、私が貧相な体っていうのは承知しているんだ。同じ教会に勤めている獣人狼族のセリアンなんかと比べればわかる。だから気にしない。気にしない。気にしてない。気にしないようにする。うん、気にするもんか。なんか涙がてできそう。


「そんでもってだなあ、欲に塗れて荒み切って腐る寸前のところを一飲みするさあね。うまいぜえ。そうそう、心が汚れ切ったところを正気に戻してー堕ちた自分を悔いて絶望してもらうって、のもいいなぁ。舐めた時のエグ味がたまらん」


 どこまで腐った野郎なんだ。こういう輩には、


「そんな、荒んだ言葉をまともにできるのは主のお力のみ。己の罪を懺悔しなさい。そして全てを主に帰依することを願い出なさい」


 私の周りを回っている光の魂の軌道を大きなものにして、煌びやかさを演出する。


「さすれば、地に落ち、汚泥に塗れ、荒んだ魂とて、静謐な主の座す世界に導かれるでしょう。悔い改めなさい。咎人よ」


 そして優しい口調で諭していく。


「主は寛大です。その広きお心で貴方の魂を慰め、そのうちに巣食う闇を薙いでいただけるでしょう」


すると、奴の触手が微かに痙攣したかに見える。少しは私の有り難い言葉が届いたのかな。


「そんなありきたりな御題目なんか、聞き飽きてるぜ。表面だけ取り繕った言葉なんか通じない、通じない」


 そりゃあ、こっちだって直ぐに改心するなんて思ってもいないよ。


「だが、お前は、俺様の体に、ほんの僅かだが焦げ跡を残した。その報いは受けてもらう」


 と、言うが早いか、


「はっ!」


 私の首筋にピリっとしたものが走ったんで兎に角、頭を横に振ったんだ。

 ブチブチって頭に被っているウインプルからはみ出ている髪の毛が引っ張られて抜けた。

 目を横に動かして見ると青色やら黄色やらと気色悪い配色をしたぶっといものが私の頭があったと思われるところに見えた。

 もしかして木偶の坊の触手か? いつ、こんなの伸ばしてきたの。構えなんて見えなかったよ。

 勘だけで避けるとが出来たことを主に感謝しないと。背中になんか流れる感じもする。冷や汗か。

 今更、それを感じるなんて。危機一髪だったんだ。くわばら、くわばら。


「オメェ、良く避けられたなあ。悪運だけは強そうだ。だが残念だなあ。動かなけりゃ、俺の腕がお前に突き刺さって、テメェの魂を吸い出してやったのによお。吸われる時って、

得もしれねえ快感があるってぇよ。折角、悦楽の海ってのににな浮かべてやろっていうんだ。ありがたく、俺に差し抜かれよな」


 そう言って奴はこれ見よがしに触手を振り上げた。


「動くなよ。今度は避……」


 しかし木偶の坊は最後まで言えない。


「フォセレ・ヴェレ」

我は乞い願う


 主への嘆願の声が上がる。


「パジィフィロ<コル・マルム>」

邪なものの浄化を


 奇跡を願う言葉が紡がれる。

 アナスタシアだ。聖女見習いの上級生徒アドヴァンスのアナスタシアが祈りの言葉を奏上する。

 私たちスチューデントの中で抜群の冴えを見せる浄化の奇跡が顕現する。木偶の坊が一瞬にして光の柱に包まれる。


「アグュッ………」


 僅かな呻き声を私の頭の中に響かせて奴は光に飲み込まれていった。

 私が願っても奇跡が顕現するまで、僅かだけどタイムラグが出来てしまう。でもアナスタシアなら一瞬にして精緻にして強力な浄化の光を彼女は顕現させる。

 暫く光の奔流は木偶の坊を焼き払っていく。


 私が曲がりなりにも2度も浄化の奇跡を施したんだ。それに主はアナスタシアの渾身の聞き止めて頂いたんだ。これであいつも滅するに違いない。ダメな時の策もアナスタシアには授けてある。

 私は奴が暴れ回って崩れた瓦礫の下に埋もれたはずの、


「ウリエル様。シュリンちゃん。大丈夫? 聞こえたら声をあげて。お願い」


 彼女たちを探すために広間の上座へと向かう。

 砕かれたテーブルや椅子の破片で走りずらいったらありゃしない。あと少しで彼女たちか座っていたとこへ着くと思った瞬間。目の前が黒いものに塞がれて何かにぶつかった。


  ゾクっ


 当たったところから、熱が奪われて冷えていく。背筋を冷たいものが走る。勢いよく当たった反動で跳ね返り、尻餅をついて転んでしまった。そのまま仰向けに倒れてしまう。


「え、何?」


 慌てて、当たったものを見ようとしたのだけれど、体が上手く動いてくれない。片方の手がぴくりとも動かない。指先も固まったようになっしまっている。足も反応しない。ピクともしないんだ。体の半身が全く動いてくれなかった。


「え、ええぇ」


 動く方の手で動かない腕を引き出して見てみて、さらに驚いた。

 着ているハビットの袖の生地がなくなっている。肘から先がスッポリとなくなっていた。

 スカートの部分を手繰り寄せるとやはり大きく生地がなくなって、下に履いていたペチコートも大穴が開いて真っさらな肌が露出していた。


「あわわわっ」


 慌てて隠そうとしたんだけど、丁度、テーブルクロスも周りにあったんだけど瓦礫が乗っかっていて引っ張り出すなんて出来なかった。況してや片手じゃ不可能だね。

 すると、


「⭐︎◇⚪︎※、%⭐︎△⚪︎◇◁◁」


 全く、聞いたことのない言葉が耳に入ってくる。動きずらい体をなんとか左右に捻り、目も上下左右に動かして周りを見渡すと………。

 居たというか、あったというか。何かがそこに立っていた。そういう表現でいいと思う。頭らしきものがあって2つの腕があり2本の足で立っている。人の形にはなっている。

 でも………、色がない。真っ黒というか影というか。光さえ反射してないみたいな暗黒な、そう闇にしか見えないものが人の形になっている。

 それが動いた。

 私に向けてかがみ込み手を差し伸べてきたんだ。シルエットにしか見えないけど、多分、そんな動きだろう。

 所作から背は高く肩も張り、筋骨隆々としている。それでいて全体のバランスがいいのだろう、鈍重さは皆無だった。むしろ精悍に見えた。


【全く、しっかりと前を向いて走らないと危ないだろう?】


 そんな、こっちをいたわる言葉が私の頭に入り込んできた。バリトンの低くて魅惑的に声色が響くんだ。


「あガガガがぁ」


 でも、圧が凄くて頭が割れそうになったよ。乙女に、あるまじき叫びをあげてしまう。しかも背中を悪寒が駆け上がってきてる。体の奥底にある本能が此奴は危険だって警鐘を鳴らしていた。


ありがとうございます。

挿絵(By みてみん)

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