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魔族侵入

よろしくお願いします。

イラスト入りました

挿絵(By みてみん)

   リーン 


 大広間にベルの音が広がる。ハンドベルの高い音が壁にに染み入っていく。


 全ての音が壁に収められて、静寂となった。


   ほっ


 私は内心、胸を撫で下ろした。何も起きない。安堵したよ。

 昨日まで何度となくベルを鳴らしたんだけど、碌なことしか起きなかった。

 死せるものの魂が、この世に還って来たなんてことは、聖教会の仕事。私たちの御勤めとなるから良いといえる出来事。

 でもね、地面に穴が空いてサンドワームに喰われるとか、更に馬鹿でっかい怪異に引きづり回されるなんてことは真平ごめんと言いたい。


 と安堵して気が抜けた瞬間、


   くらっ


 私の目の前の風景が傾いでいく。まるで目眩を起こしたようだ。

 そのうちに、頭の中が締め付けられたようになって、立ってもいられないて片膝をついてしゃがみ込んでしまったよ。


   ぐう、 

     あぁ

   うううう


 大広間の中を、うめき声やうなり声が上がる。既にテーブルに突っ伏しているものもいる。

 吐き気もするから、耐えきれずに、胃の中のものを戻していなければ良いのだけど。

そして、


    パキンっ


   きゃあああ

      なに、これ

   いたっ、


   痛い、痛い


 聖女の見習いが逃げた先から、苦痛に満ちた声が聞こえる。え


 と何かが割れる音が耳に入る。頭の中にも響いた。音が脳髄に突き刺さってくるようだよ。

 大広間がうめき声だけじゃなく叫び声も上がっていく。

 そのうちに嫌な匂いがしてきた。生臭さが半端ない。鼻の奥を舐めてくるように刺激して喉が嘔吐いてくる。

 あまり酷くて床に胃の中のものをぶちまけている娘もいるじゃないの? 生臭さに酸っぱい匂いが混ざってきている。


 ここ、聖教会へはお貴族様の子女様から見出されたり、私みたいに下町の路地に打ち捨てられた幼子で運よく見つけられたりして集められているんだ。


 流石にここまで気持ち悪くなる状況を経験しているとか、たとえ経験してといても、そんなに何回もないから耐えられるものではないよぉ。


 しゃがみ込んではいた私だけど、なんとかテーブルに手ついて頭をテーブルから出すことはできた。

 うっすらと目を開けて左右に動かして、一体、何が起きたと覗き見たよ。


「なに、あれ」


 大広間の真ん中に木が生えていた。人の背丈より少し高い幹にはの葉っぱのない枝か伸びている。

 でも、色が木のそれじゃない。薄黄色や、腐った果物に付くカビみたいな青。地面に近づくほど、どす黒くなっていく。

 生理的に気持ち悪くなる色だね。


   ぬっ


  動いた。幹が震えたかと見えると枝に見えるのが蛇が這うように波打ち出す。


 いやぁああああああ


 とうとう、恐怖に駆られた声が聞こえる。

 流石に、ここまでは、気持ち悪くなる状況に耐えていたけど生理的な嫌悪には耐えられなかっなようだよ。

 その子の絶叫が他の子達の意識を揺り起こし、心を恐怖に染める。我先にと、ひとり、ふたりと起き上がり椅子に足を取られながらも逃げていく。

 

 あの嫌なものから離れようとした。


  しかし、


     ヴァン

 

 いきなり、頭の中に何か放り込まれた。熱くはない、

 何かの意識かな。あまりにも強かったんで中から爆ぜるんじゃないかと思ったよ。

 逃げようと立ち上がったりしたものは、また頭を抱えてうずくまってしまう。



《………い。………まい。………うまい。………んて、うまい》


 頭の中に入ってきたものが言葉となってきた。聞こえてくる。



《何てうまいんだ。恐怖に駆られた心の叫びってのは、うまいぜ。甘露よ》


 それは、男の声に聞こえる。ちょっと高めかな。



《しかも、大人になっていねえ純な心の叫びってのは極上だぜ》



 あまり、育ちが良くなさそうだ。



《俺様の自慢の一物も猛っちまうってもんよ。まあ、顕現したこの姿にゃあないけどよ》


 

乙女には見せちゃいけないイメージと共に言葉が語られる。こいつ下品だ。


   いやぁあああああああ


 再び、叫び声か上がる。そりゃそうだ。目を塞いで見たくなくても頭の中にイメージが浮かぶんだ。私だって叫びたい。でも唇を噛み締めて喉から出ないようにしている。



ー汝、理解せよ。魔のものなり。闇に堕ち冥府の底を彷徨うものたちー



 いきなり、私の頭の中から声が響いた。私の額で何かが開く感じがする。私のとは違う瞼が開いていくんだ。

 実を言うと私には皆んなに秘密にしていることがある。神様が私の中にいるんだよ。神の座するところなんだね。

 私には見ることはできないけど両方の眼が額に表れているはず。そこにおわす御方。

 それまで静かに沈黙していたけどいきなり話しかけてきた。



ー汝、理解せよ。魔のもの、糧として息とし生けるものの魂を弄び喰らうものー

 


 ああ、わかりました。現実に目の前にいて危険な状態なのは理解しましたとも。


ー汝、己の持つ全ての力を使い、生き延びよ ー



 後は自分でなんとかしろっていうの。


   酷くない!


 まあ、いつものことなのも理解してますよ。それでも、ここまで意識を保っていられる事態が御方がそこら辺を守っていてくれるおかげなんだろうからなぁ。


 

 やってやるぜ!



 彼奴には、木偶の坊って仮に言ってやる。その木偶の坊は、現れたその場から動いていない。


   ひい、

     ひいい、


 あろうことか、逃げ遅れて、へたり込んだ子たちに己の長い触手を向けている。

 ピトッ、ピトッて触手で彼女たちをつつき、嫌悪からくる恐怖を煽っている。


《うまい! うまい! ガキの魂が垂れ流す恐怖は美味え、ほれ出せ、もっとだせ、出しやがれ》


 彼奴、木偶の坊の涎を垂らす歓喜に満ちた思念が私の頭に入ってくる。


 彼女らが逃げないことをいいことに弄びやがって、いい加減しろって叫びたい。

 彼女たちで遊び続けている木偶の坊に、制裁を加えるべくテーブルの影で手で印を結ぶ、さあって構えた時、


「痴れ者が!」


 叱咤の声が飛ぶ。


「べテレ・エト・ミッテレ<ブリット>」


 魔法弾が放たれる。怯えている子たちの周囲の触手か弾かれた。

 声から察するにヴァレットメイドのゾフィーさん。王妹ウリエル様の守護にして魔法騎士なる女傑だよ。

 彼女が木偶の坊を糾弾する。


「王妹の御前にでなんたる狼藉か。平伏せよ。甘っさえ、聖女らをいたぶるなど恐れを知らぬ痴れものがぁ」


 彼女は、次を放とうとしている手を木偶の坊に向けている。


「ここ聖教会は、結界に守られし場所、更に王妹の防護ために幾重にも重ねて貼りましているところへ、何故入れた? どうやって入り込んだ。言え、言わぬ………があ」


 最後まで彼女は糾弾の台詞を言えなかった。

 木偶の坊が触手先を尖らせてそれをを伸ばしてゾフィーさんの着ていた軽装鎧の肩を貫いて、壁まで飛ばして貼り付けてしまった。



    ズダン

大広間に衝突音が響く。壁が割れ、破片がバラバラと落ちている。


「ぐう、」

「ゾフィー」

「ぬかったわ」

「お主、無事か? 大丈夫か?」


 ウリエル様とゾフィーさんの声が交錯する。


 ゾフィーさんは壁に磔にされたままになっていた。刺された方の腕の先から赤いものが滴り落ちている。

 ちょっと傷か。深いかもしれない。



《ひでぇな、チイっと遊んでやってる時に石ころ投げてきて? 俺様の気を引きたいってか?》


 木偶の坊の矛先がゾフィーさんの方へ向くのがわかる。


《ちったあ、待っててな。こいつらを吸い尽くしたら、次はお前にしてやる。多少、薹が立って肉も匂いそうだが、趣向が違うのも一向だしな。腐りかけがうまいんだぜ。知ってるか。まあ、待ってなよ》


 あろうことか、木偶の坊はゾフィーさんに刺している触手を大きく震わせた。我らま


「ぐっ」


 傷口をさらに抉られたのだろう。ゾフィーさんのうめき声がます。血が滴るじゃなくて流れ落ちていく。

 出血がひどくなったようだよ。急いで治療しないと命に関わるよう。


《そういやぁ、何で結界の中に入って来れたかって聞いてたねえ。今の苦痛に満ちたうめきは美味だったよ。スパイスがピリって効いてる。褒美に聞かせてやるよ》


 ゾフィーさんの苦痛を味わって、よっぽど気に入ったのだろう。

 残る触手を振り回している。まるで歓喜に震えているように見えたよ。


《なあに、簡単なこと、我ら、魔に属するものの刻印をこの結界の中に入れれば良いだけだ。少し前にバジリスクとやり合っただろっ、その時にちよっちょいとね》


 木偶の坊はよっぽどご機嫌なんだろう。ペラペラと言わなくてもいいことを垂れ流していく。


 しかし、今回の魔族侵入って私も関わっているの。

 服職人のフランマが言っていたじゃない、私の着ていたスカプラリオに 『変な文字みたいなのがあるある』って。あれがそうなの。

 まずぅ、まずいよ。何とかしないと、私の聖女見習いの立場が危ういかも。

 悪ければ魔族に協力した咎で首チョンパなんてことになるかも。


   いやぁ!


 その時、こりゃまずいって、みんなを守りたいって言う正義感より保身の気持ちが上回ったかもしれない。

 急ぎ、私は手で印を組むと空中を三角に大きく擦らえる。


 フォセレ-ヴェレ

   我、乞い願う。


「パジィフィロ<コル・マルム>」

   邪なものの浄化を


 願いが聞き遂げられて。木偶の坊が立っている場所を中心に光の線が三角に描かれていく。

 3点全てが繋がった時、そこから光の壁が立ち上がっていった。

 3面で木偶の坊を囲っていく。


 そして、その中が白金に光に満ちた。


   ぎゃああああああ、



 木偶の坊の絶叫が吠え上がっていく。空中に散りばめられていく。














ありがとうございました。

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