聖装へ
よろしくお願いします。
「おい、ちょっといいか?」
「えっ」
被覆室を出たのはいいものの、直ぐ呼び止められた。フランマが被服部の開戸から顔を出している。
「トゥーリィ、すまんな。呼び止めて」
「いえ、フランマ、何?」
「おメェの着てたスカブラリオだか。何、ここんとこにしみっつうか、文字つうか、文様みたいなのがあったんだが、おめえ知ってるか?」
私は彼のところまで戻ると切り裂かれた生地を受け取る。当時に着いたものなんだけどど。
「ほれ、ここ、わかるか?」
フランマは、布地を捲り裏地を見せると、その場所を指差してきた。私は、そこへ目を近づけるのだけど、
「確かに、文字みたいに見えるし、何かのマークかなあ。フランマが下げ札代わりに焼き付けたのでは?」
「そんなことしてないから聞いているんだ。聖衣は主からの賜りもんだぞ。売りもんじゃない」
憤懣やる方ないと怒鳴り返されてしまいました。
「ヒェ、すみません。私も分からない。知らないものですよぉ」
見たことはないのよね。肩を竦めて答えるしかない。
「怒鳴ってすまんな。オメェも知らねえか。わかった。他を当たってみるよ。なんか気になるんだ」
そんな彼の言葉を聞いているととタブリエの裾を引っ張られた。
「えっ! シュリンちゃん」
私の側に付き従っていた彼女が引いたよう。
「いきなり、すまないね」
いつもと口調が違う。ということはこの子は…。私は声を顰める。
「つかぬことを伺いますけどフロース様で?」
「そうよ。トゥーリィ」
この幼い獣人狼族の娘の中には、この聖教会を創設した古えの大聖女の魂が入っている。今までも幾度となく現れてきた。今のは彼女の口調だ。
「どうしたんですか?」
「この子シュリンが嫌な匂いがするっていうんのよ。あの男の持っていた服が臭いって」
「えっ、私の体臭が染み付いたスカブラリオが臭いって言ってるんですか? あんなことしたから、汗かいたかなあ」
昨日、バジリスクに関わった時は、舞って大地のエレメンタルに嘆願したんだ。全身を使って動いたから、汗が染み付いたかもしれない。
「違うよ。この子が感じるんだよ。私は感知することについては、壊滅的にできなかったからね。シュリンは、そっちに素養があるかもれないねぇ」
えっ、シュリンは、大聖女よりできる子なの。すごいや。
「じゃあ、魔とか闇に属することなんですか?」
私は大聖女の魂に聞いてみる。
「多分、そうだろ。本当に微かなんだよね。敏感な獣人族なればこそかな」
シュリンは話が判らずポカンとしてる。でも最後ところだけは褒められたと思ったのか、ニコッで微笑んでくれたよ。
「だから、トゥーリィ。あの仕立て職人に伝えてあげないといけないわ。何かがあってからじゃ遅いのよね」
「えっ!」
そうなんですか? 早く伝えないとしたけど、既に被覆室の前にはいなかった。
廊下の奥へ行く後ろ姿がチラッと見えたよ。
さあ、追いかけて……いけなかった。
側で被服部から出てくる私を待っていたサマンサが声をかけてきたんだ。
「トゥーリィ。これから王族の方々が隣席なされての御食事会があります。貴方も同席しなさい」
王族の方々って、どなたたちなんだろう。緊張で体が強張るよ。
「どなたがお見えになられたんですか?」
最近、よく目の前に現れるんだ。王族の方。ビンス様然り、ウリエル様然り。
「驚かないでね。王妹殿下にあられます。ルイ王子も一緒なのですよ」
へえぇ、ルイ王子というとウリエル様の5人目の子だっけ。それでいて、あのプロポーション、あの肌の艶、張り。信じられないほどの美魔女だね。
割と気さくな方だから、それほどガチガチに儀式ばらなくても良いかも。
それにあのゾフィーというヴァレットメイドをしている魔法戦士もいるしね。警備も万全なはずだよ。
この聖教会本部も聖女の強固な結界がなされて守られているのよね。
「そうだ。トゥーリィ。貴方、聖衣を受け取りに来たのでしょ。受け取ったのなら着替えなさいな」
「今の着ているタブリエじゃダメですか? 何気に楽なんですよ。ステイも巻かないし」
そうなのだ。聖教会のハビットの下にはステイというコルセットを巻くんだ。
トゥニカやタブリエはしないからお腹とか締め付けられなくて良いのに。
「王族の方が見えています。正装で参列するのは当たり前、貴女も見習いとは言え聖女として市中に出たのですから着替えなさい」
あ〜あ、修練生時代の気分も思い出せるかと考えたのに。ちぇ〜。
「わかりました。着替えますね」
「宜しい」
仕方ない、被服部へ逆戻りをする。
「すみません。シュリンを連れて先に行ってもらえますか?」
二人を遅らさせてしまうわけにはいかないからね。
「はいはい、早く来るのよ」
「はぁい」
「では、行きましょう。可愛い見習いさん」
サマンサは、シュリンの手を引いて廊下を進んで行った。シュリンは時折、こっちを向いて心配そうな視線を向けてくる。
さて、着替えますか。被服部の奥にある小さな小部屋に入る。
タブリエをおろし、ギャンブを脱いでいく。綿生地のシュミーズ姿になるとステイをとり、腰に巻く。
前ホックのコルセットだから一人でもできるし、リボンで締め具合も調整できる。苦しくなるほどには締め付けない。
次に膝下ワンピースへを取って広げて足を入れていく。腰から下がスッポリと入ると、袖に手を通して肩まで羽織る。そして前山を閉じてボタンで留めていく。
その後に腰に細い革製のベルトを履く。ベルトで腰にくびれができて見た目もよくなっていくのね。足には編み上げのハーフブーツ。
そうして次にウインプルを取る。包みたいな形になっていて顔をそこを通す。生地の端で帯が作られる。それに皺ができないように額にぴたりと合わせて伸ばしていく。
いつもなんか、額帯だけのをかぶるんだけど、王族の列席となるとね。貞淑を旨としみだりに髪をさらさないとして、ウインプルで隠してしまう。後頭部へ回った生地を3本のピンで留めていく。
こうなると顔の爛跡を隠して包帯を巻いているせいで口と目が異様に目立ってしまう。
ちょっと異様なんだよね。いつもしている仮面も止め紐の交換を頼んである。ボロボロの聖衣を渡す時に一緒に頼んだ。髪だけでなく顔も隠せるモーニングベールをするしかないな。
ウインプルが変に突っ張っていないかを確認してからシスターカラーを肩から胸元にかけー。これもウインプルにピン留め。
最後にベールを手に取る。黒布と白布で出来ているベールのうち、黒色の方を顔の前に垂らしていき、白布はウインプルにピン留めする。
そして黒布を後ろに翻して、ベールを被りハビットを着た女の子が出来上がる。
さあ、行こうか。修練時代の懐かしい仲間やウリエル様たち王家の方々の待つお広間へ
ありがとうございました。




