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作っていただけることに

よろしくお願いします。

作っていただけることに


 壁には一見、入り口がわからないように衝立がしてある。そこを裏側へ回り込むように入って行くと奥に行けるようになっている。

 ここから先は聖教会へ勤めるものの生活空間になる。

 サマンサが前を進んでいく。シュリンがその後をついていって、最後に私だ。

 さっきまでステンドグラス越しの光のところにいたせいで明かり取り窓から入る日の廊下光で目が痛い。

 廊下を進んでいくと、応接そして司教様たちの執務室があり、以前ウチの教会へきた文官の方がいる出納、そして用度室と続く。

 今日は王室の方々がお見えになっているので司教様、文官の方々が総出で付き添っているらしい。だから、ここも静かなものになっている。

 少し進むと階段があり上に上がると宿舎になっているんだ。司教様、住み込みの文官たちの寝室。私のいた教導部の4人部屋もこの上にあるんだ。ここで生活している方用の小さい礼拝堂もあるんだね。

 この礼拝堂ではテーブルもあるから私たち聖女見習いは勉強もする。パサールもここで書いたよ。

 でも、本日の行き先は、この下。


 階段を下に降りていく。すると、


「さっきからしていたいい匂いが強くなった。お姉ちゃん、ここって」

「さすが鼻が効くね。シュリンちゃん。ここがに厨房があるの」

「厨房?」

「そう、ここでみんなが食べるものを作るんだよ。今は昼ご飯の仕込みかな」


 鶏ガラを煮出す独特の匂いや野菜や肉を煮込む香りが漂ってきている。


「可愛い見習いさん。よかったら昼ごはんも一緒に食べていきません」


 1番前を歩いているサマンサが振り返りシュリンに聞いている。


「いいの? 私も食べていいの? 一緒にいいの?」

「構いませんよ。同じ大聖女様を慕うもの。何の遠慮がいりましょう」

「うぁーい」


 シュリンは両手をあげて喜ぶ。その本部というより、聖教会自体、獣人族への偏見は少ない。シュリンの処遇について安心して任せられる。

 厨房を過ぎてスカラリー、ランドリーと水を使うところが集められ、その奥に私たちが来ている服を扱う被服部がある。


「フランマ居る?」


 サマンサが被服部のドアを開けて入っていく。


 被服部のフランマ、本名フランマスキュータム。聖教会住みのクロスメイカー、テイラーの服飾職人。


「どうしたい、サマンサ」


 部屋の中から濁声が返ってくる。


「ほら、覚えてるトゥーリィを」

「あの、破壊魔か。俺が手づから縫った服を悉く使いもんにならなくするヴァか野郎か」


はっ、破壊魔。


ひどい言われようだよ。よよよ。私だって好きで破いているわけじゃ無い。色々と巻きここまれ体質なんですよ。

あまりの剣幕に、引いていたサマンサも、話が進まないとして、


「そのトゥーリィが来ているのですよ。どうやら、与えた聖衣が着れなくなったとかで」


私も、この被服部のドアを入るのは、怖い。フランマの服飾にかける熱意の凄まじさは知っているんだ。

それがボロボロになってしまったんだ。なんて申し立てしよう。とほほ。


「失礼します。そのヴァカ女郎のトゥーリィです」


恐縮して縮こまって部屋に入っていく。


「トゥーリィかぁ、なんだ、そのタブリエ姿は。教会勤めぇ、首になって、こっちにもどったてのかい」


 濁声の応酬に、更に首をすくめてしまう。

 白髪混じりの口髭顎髭を生やし、頭の方は少し後退してる。眉も薄く円な瞳は皺の刻まれた目尻も構わず開きギラギラとコチラを見てる。

 解禁シャツにズボンにベージュのエプロン。首からメジャーをたらして。私に喚いてくるんだ。


「ももも」


 あまりの剣幕に、言葉も出ない。私の前にいるはずのシュリンも目を瞑り耳を手で覆い、しゃがみ込んでしまっている。


「もっ、戻ったわけじゃないよ。折角、フマンマに作ってもらった聖衣が着れなくなって、新しいのを頂こうかとしたんですよ。神父様からも手紙貰ってる。渡してくれって」

「着れなくなったって、何があった。あれらに、どれだけ加護を付与してると思うダァ」


 フランマは、私の顔に喰らいつくぐらいに近づいいてがなりたてる。ちょっと唾を飛ばさないで、


「持ってきてるんだろ、出しな」


 フランマに催促され、私は手持ちのバックを差し出す。中にはボロ切れとかした聖衣が入ってる。

 彼は、私の手元から、それを奪い取り近くのテーブルの上にバックから引き出して広げていく。


「なんだぁ、この酸っぱい匂い。生地が溶けてるじゃないか。糸も弱くなってすぐ切れちまう。ぐぬぅ」


 手にとって、状態を見てうめき出した。


「こっちは、ざっばりキレてるし、おい、これ、灰化して崩れてるぞ。あぁ」


 彼の背中が震え出した。


「トゥーリィ……。何があった。何があったか話せ」


 その震えが止まったと思ったら、それまでの剣幕もどこへやら、凪いで話しかけてきた。拍子抜けしてしまうけど、当時を思い浮かべていく。


「ハビットの方ですね。確か、サンドワームに食べられたんですよ。地面にぽっかり空いた穴に落ちて」

「サンドワームに消化させられただぁ。酸が、それで………」

「水をたらふく食わせて、なんとか吐き出させたんですが、この有り様」

「………、で、こっちは」


 彼はスカプラリオとトゥニカをを指さして、問うてきた。


「鶏の頭を持った、でかい怪異がですね。目が光ったんですよ。ピカって、そして変な魚見たいのに引っ掛けられて」


 フランマは、引き裂かれたところを擦っていく。


「聞いたぞ、バジリスクが壁の外に出たっていうじゃないか。お前も巻き込まれたくちか?」

「えへへ、ちょっと当事者です」


 怒られるかと思って手で顔を隠しつつ、私は答えた。指の隙間から彼を見ると、煤けた生地をじっと見ている。


「剣撃じゃ破れない筈だ。灰化の呪いをかけられたか。うーん」


 ブツブツ言って、考え込んでしまった。

 暫くして


「トゥーリィ、おめえ」

「はい、なんでしょう」


 唐突に言ってきたのね。そして、


「よく生きてたなあ。ごき⚪︎⚪︎並の生命力だぜ。以上かも知れねえ。しぶてぃなあ」


 珍しいものを見るように、ジロジロ見てくるんだよ。


「酷くない。⚪︎⚪︎ブリとなんて」


 拳を握り、ブンブン振って抗議してやったよ。


「褒めてんだよ。このオカチメンコ」

「褒められてる気がしません。このスットコドッコイ」


 お互い、言い合っていた。と、そこへ、


「お姉ちゃん、神父様から手紙受け取ってなかった?」


 拉致合わなくなる前にようこそ止めてくれた。ありがとう、シュリン。


 私は、バックの底にあったタダイ神父様からの手紙をだし、フランマに渡す。

 彼は、それを受け取り徐に開けて、中身を出して読んでいく。すると次第に彼の肩が震え出した。


 えっ、なに、なにかが書いてあるの。


「はははっ、トゥーリィ。タダイの奴からはな。聖衣を頼む。こいつを守るためにも丈夫な奴を、だってよ」


 神父様。ありがとう。そんなに心配してくれていたんだね。神父様が主と重なって見えるわ。


「お代は、お前が払う。搾り取ってくれていいからだってな」


  ええ、酷くない。感謝でいっぱいだった心が萎む。落胆してしまう。


「トゥーリィ、お前、50年は無償奉仕だぞ。あの聖衣は手間ぁかかっいやがるからな」


  ええ、私、給金貰ってないのって、この聖衣のせいなの。50年! 死んでるかも知れないじゃないですか。

「神父様のヒトデナシー」


 しまった。心から溢れて本音が漏れてしまった。


「折角だ。魔王と戦えるもの作ってやる」


 鼻息荒く、フランマは言ってくれる。


「もっと、まけてくだされぇ」


 私は泣きを入れた。



「まっ、冗談だ」

「お代ですか? 対魔殲滅用? どっちなんです」

「どっちもだ。聖衣は、主よりの賜り物。もっと大事に使え」

「はぁい」


 ほっとしました。脅かしっこなしです、


「まあ、色々と手間ぁ掛かるから時間もかかる。出来たら連絡してやる。取りに来い」


「はぁい。あれ? 出来上がるまではどうしましょう」

「コモン服でいいだろ」

「えー」


 黒か。ストイック過ぎて、いまいちなんだよね。


「聖女は静謐を旨とするんじゃないのかい」

「はぁい」


 お勤めするのに、色なんか気にしてられない。四の五言わないことにします。

 黒色のハビットを頂いて被服部を後にしました。


ありがとうございました。

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