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賑やかになる前に

よろしくお願いします

 目の前が明るくなっていく。瞼が開いてくんだ。

 見るのは顎。あっ、髭が見える。ポツポツと顎の厳ついラインに沿って生えてきているんだ。

 ボーっと見ていたけど頭の後ろが痛くないです。なんか柔らかいもの上に頭が乗っているんだ。そのうちに意識がはっきりしてくる。髭ってことは、も、も、もしかして男⁈ 男の脚の上に頭を乗せといるというの。

 意識をしたせいか体が微かに震える。身じろぎを感じたのだろう。


「起きたか? 気分はどうだ? 」


 ざっくりと切られた濡れ羽色の髪の毛が見える、その下から碧眼が私を覗き込んでくる。

 先ほどまでの厳しい目線ではなく、優しく見てきてくれる。こんな表情も出来るんだ。いつでもこんな表情していれば、女の子にモテるのにもったいないなぁ。


「はい、なんとか。大丈夫みたいです」


 確かに、体はだるい。動きたくないって主張しているのだけれど気分はよい。すっきりとしている。物事をやり遂げたって言う達成感が感じられる。彼が私を膝枕してくれているようだ。まずい、確か、彼は止ん事無きかたの一門。私なんかと関わるはずのない人なんだ。


「すいません。足が重い………」


 私は身じろぎをして、起きあがろうとした。すると、頬や瞼に空気があたる。そよいだ風が肌を撫でていく。


   あれ?


 いつも仮面をつけていて、額とかで直接に風とかは感じられないんだ。


   あれ?


 いつもつけている仮面は、どうしていたっけ? 私の顔の額から頬にかけて、爛れたような痣があるんだ。額には御方がいて、閉じられた瞼が見えるはずなんだ。それを隠すために鈍色の仮面をつけている。

 でも今はそれがあるようには感じられない。素肌が曝け出されている。すっぴんだぁ。

見られた。

 この痣とかで、虐められて死線を彷徨ったことだってあるんだ。それを見られた。

 私は、両の手を動かして顔を覆う。そして、体を彼の足の上で捻って彼の視線から顔を見えないようにした。


「すいません。お見苦しいものを見せてしまったようで。すぐに退きますので」

私は片手で顔を隠し、頭を浮かせる。反対の手で肩肘をついて上体を起こして彼の足から退こうとしたんだ。でも、


「別に気にはしてない。そんなに気になるほどではないぞ」


 そんな、優しすぎる言葉をかけてくれた。

 そして、肩ぐちを押し戻されて、パフんと再び膝枕してもらう羽目になってしまった。

 顔を覆った手の指の間から彼を仰ぎ見る。私を覗いてくる彼の視線と重なった。それは慈愛に満ちた優しい目だ。そんな目で私を見てくれているんだ。私の頬が熱くなる。覆っている指の下の顔は真っ赤になっているに違いない。


「勿体無い。私ごときにそんな、お言葉をかけていただくなんて勿体いです」


 呻くように私は言葉を吐き出す。


「そんなに自分を卑下することはないぞ。俺にはお前が、かの大聖女に見えたよ」


 普段、褒められ慣れていない私には、尊過ぎる言葉を掛けてくれた。


「あれだけの怪威を、曲がりなりにも鎮めたんだ。もっと自分を褒めていいんだよ」


   だめっ


 そんなこと言われて、赤くなっている顔がさらに熱くなっていく。


「もう、勘弁しておくんなまし、恥ずか死んでしまいます」


 そう言うつもりだけど、彼に伝わったかな。多分、アウアウとしか聞こえてないんじゃないかな。もう、どうにかしてぇ。体をギュッと縮込ませるしかなかった。


 私自身どうにかなるまでに話の向きを変えるつもりで聞いてみる。


「ところでウリエル様、どうですか? ゾフィー様も」

「叔母上もゾフィー殿も、無事だ。お二人とも、今は寝られている」


 即座に返事が返ってくる。


「お前は、おっと。トゥーリィは、凄い。死の淵にいた叔母上をこちらに呼び戻しやがった。大したもんだよ」


 また、すぐに返されてしまう。でも、実際には、施術を行ったのはシュリンだ。理由があって私が奇跡を嘆願して無事に生き返ったことになっている。


「ヴィンス様もお怪我をなさっていたはず、具合はいかがでありますか?」

「そんな、鯱鉾ばった喋りはよせって、前に言ったろ。普通に喋れ」

「わかりました。肩は、まだ痛みますか?」


 何時迄も恥ずかしがってはいられない。少しは休むことができたはずだ。


「まだ、痛みが続いているよ。早く医官に診てもらわないといけないな」

「見習いとはいえ、聖女を目の前にして、そんな言葉は、こ無体でしょう。私がさせていただきます」

 

 未だ朱に染まる顔を隠すために片手を残して、もう片手だけで印を組み、


「フォセレ・ヴェレ」


 奇跡を嘆願する。


「ヒール<マニプラティブ>」


 ゴキン、かなり大きな音がした。関節が元に戻ったのだろう。嘆願は聞き入られた。

 しかし、彼の顔には、脂汗がにじみ出ている。痛みかつづいているのだろう。



   続けて、


「キャタプラズマ<ポールティス>」


 痛みが残っているだろう肩の患部に印を解いた手を翳して、嘆願する。


「多少、痛みが引いてくるはずです。このままで」

「あゝ、確かに、助かるよ。ありがとう」

「どういたしまして」


 地面が捲り上がり、瓦礫が散乱する中で2人の周りだけ、穏やかな時間が過ぎていった。




ありがとうございました。

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