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蹂躙 それを蹂躙

 シュリンちゃんを抱えたセリアンが立ち去った後、教会の玄関の掃除を続けいると、なんか焦った声が聞こえてきた。


「聖女様! 聖女様!」


 くたびれた感のある毛並みを持った犬族の獣人が駆け寄ってきた。よく見ると、このあたりの世話役だ。ここに赴任した時に一度挨拶に行っている。


「どうか、されましたか。そんなに慌てて」

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、良かった。ハァ、ハァ、すっ、すぐに見つかりました」


 息を切らしているあたり、どうやら結構な距離を走ってきたようだね。


「城壁の門の前で、どデカい獣人が暴れているんです。門番の衛士だけじや守りきれなくて、こっちの住民まで巻き込間れています。怪我人が出てる。治してもらえないだろうか?」


 朝っぱらから、とんでもない事態が動いたような。


「えっ」


 遠くから、木が折れる音、石がぶつかる音、建物が崩れる音が聞こえてきさた。拙いことに音が大きくなってきてる。こっちに近づいてきてるようだし、往来をこちらに向けて走ってくる人や獣人が見えてきた。甘っさえ、その人数が増えてきている。

 喧騒に慌てて、飛び出して住人やらで教会の前は、人で溢れてしまっている。そんな中、


「あの守護令嬢も、こっち城壁外に出張ってきてるってよー」


 何処からともなく、そんな噂話も聞こえてきた。

 守護令嬢って私も聞いたことあるよ。守護令嬢、又の名をレディコールマンと言う。コールマン侯爵家の令嬢で魔法使いなんですけど、こういった荒っぽい事件に顔を出しては、魔法をぶっ放して無理やり解決していくという、トンデモ令嬢であったりする。

 上手に解決できれば良いのだけれど、実際のところは魔法の力技で決着つけてしまうのよね。だから周りの被害も尋常じゃない。確かに勧善懲悪の好きな物見の人たちには良い話題なのだが、事件に巻き込まれた人たちにとっては、いい迷惑な方だとか



 色々と破砕された騒音が、すぐ近くまで差し迫ってきた。神父へ話をしようと教会に入りネイヴに入ったところ、教会の外から鈍い音が聞こえた。

 すぐ様、頭上からガラスが割れ木が砕ける破壊音が降ってくる。落ちてくる木っ端微を避けて頭上を仰ぎ見ると明かり取りの天窓を銀色の塊が突き破っている。


「いきなり、何! 何が飛んできたの」


 なんて、言っているうちに、それがズルリと滑り落ちてくる。危ない。落ちる。落ちたら床が抜けちゃう。


 咄嗟に手で印を結び、


「フォセレ・ヴェレ」

主へ乞い願う


「シィカットウ・フォリア<カァデントウ>」

木の葉の如く、緩慢に


 そして重ねて願う。


「アウジェスト<ボテェスターテ>

 我に剛力の付与を


 ゆっくりと落ちてきたものを掴み、自分自身を中心に振り回して、頭上に力任せに、ぶん投げて壊れて広がった天窓跡かに外へ放り投げかえしてやった。

 中まで壊されてはたまらないからね。蹴り飛ばすぐらいしてもよかったけど聖女の見習い服が裂けるから素手で振り回してしまいましたの。ごめん遊ばせ!

 私を、お転婆とは言わないで。以前にいた教会の神父に武道派がいらっしゃっていろいろと鍛えられましたの。

 すぐ様、玄関を開けて様子を見に外に出る。目の前の道路には異形なものが横倒しになっていた。

 それは上背のある赤い毛皮の巨大獣人と、その腹の上に銀色の塊。折り重る様に倒れている。鈍く光る固まりを、じっくりと見るとあれはプレートアーマー鎧かな。ちょうど外に待ち構えていた獣人に向かって飛んでいき、見事に当たった様ね。偶然にしては出来過ぎ。ラッキーデイかしら。


   ヴ ヴュ


 先に息を吹き返した獣人が、腹に乗る鎧を払い除けて立ち上がった。

 大きいな。2階建てになってる教会より背が高い。ガタイも大きい。胸から背中の筋肉が分厚く、腕や脚も筋肉が盛り上がっている。獣毛から見える指先から鋭く長い爪まで伸びているじゃない。

 うわ、獣人が胸を張って大きく口を開けた。息を吸ってるんだ。て、ことは、


ウォオオオン オーン


 狼の遠吠え、甲高くそれも大音量。ハウリングだ。耳を塞いでも頭がシェイクされる。獣人も狼族。開けた口から長い牙まで出てるよ。


 叫びが消えてくる頃、銀色の鎧が立ち上がる。紋章も見てとれるから騎士か。こちらも人にしては大きいし背も高い。片手で頭を支えてヘルムを左右に振っている。

 そこへ、


「ドゥバァー、大丈夫?」


 空から三つ編みにした長いブロンドの髪を靡かせて女性がが降りてきた。緋色の騎士服に乗馬パンツ、革のブーツの出立で。顔立ちは整ってはいるが、表情にはまだ幼さが残ってる。


「援護します。こちらに退いて」


 そう、叫んで彼女は次々と魔法を連発、巨大獣人にぶつけていく。


「ウィンディハンマー、ウィンディカッター」


 様になっているのは良いのだけれど、外れた術が獣人の後ろや横の家屋を破壊していった。被害が広がっているよ。唖然として開いた口が塞がらない。


「そこに突っ立っている貴女! お逃げなさい」


 彼女は教会の玄関に立ち尽くす私を見ると非難を促す。


「あら、ごめん遊ばせ。聖女様でしたのね」


 しれっと言っていますけど、この惨状はどうするの。瓦礫の山とかす街並みを呆然と見ているしかなかったよ。


 ふと、視界に入った獣人が構えて踏ん張った。息を吸ったのだろう。大きな体が一回り大きくなったように見える。


   えっ、おっぱい?


 そいつの胸を見て驚いた。晒された大胸筋の上に乳房が見えたのだ。かなり大きい。

フン、羨ましくなんてないやい。

 悔しがてら胸を見るとおっぱいの間辺りに澱んだ色のブヨブヨとしたものが蠢いている。なんか気持ち悪い。禍々しいんだ。


ヴぉロロロロォオオーン


 再びのハウリング。前よりも強いよ。諸にくらってしまった。魔力も付与されているのか圧力まで感じるんだ。とうとう頭のヴェールも飛んでしまった。荒く切って短くしたプラチナブロンドの髪が拡がる。踏ん張りきれずに後ろに飛ばされた。


 令嬢も吹き飛んでいくのが視界の端に見える。


ブチっ


 ハウリングの威力に負けて額の仮面の止め紐が切れた。大気の圧力で頭から外れて後ろに飛ばされてしまった。爛れて痣もある額が外気に晒される。堪えきれずに吹き飛ばされ、何度か地面を転がって止まってくれた。

 埃まみれの顔を上げると少し前の位置に令嬢も、うつ伏せになっているのが見えた。

 そのうちに気がついたのか半身を起こして周囲をみだして私を見つけた。そして何かに気づくと私の顔を凝視する。


 彼女に見つめられたに額が熱くなっていく。ジリジリと焼かれるような熱さじゃない。額に力が集まってくる感じなの。なんか、戒めが解けた感覚もある。閉じられたものが開いていく。

 レディ・コールマンの顔が驚愕に変わる。驚きに目を見張っている。


「あなた、その額」


 彼女の言葉の続きを聞く余裕がなくなったのね。強大な意識が私に入ってくる。

 他人には誰にも話していないのだけれど、実は私の額には世の摂理を司る神々しい方が一柱座していらっしゃる。名を口に出すことも憚れる御方なんです。迂闊に名を語ろうものなら天罰が降ってしまいます。その御方が担うのは、裁定。




ー汝に問おう? 今、裁きの刻か?ー



「ギャン」

 頭の中で力持つ言葉が響く。言葉に秘められた御力に頭が爆ぜてしまいそう。私にできることは蹲って頭を抱えて耐えるしかなかった。


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