フロース・プルクラー
よろしくお願いします
目の前が明るい感じがする。だんだん目の前にあるものがはっきりしてきた。
私の前には女のひとが座っている。明るい色のブロンドのロングヘアーに藍色のハビットを着て髪を後ろに流している。
そうかベールをしてないんだ。そして青い瞳をもつ目で私を見詰めている。
「どう、意識は、はっきりしてるかしら? これ、指は何本立ってる?」
彼女ははVサインを出してくる。
「2本」
彼女は首肯した。
「よろしくてよ」
にっこりと笑う彼女が愛らしく感じる。
「私の名前はフロース。フロース・プルクラーよ。何処かで聞いたことあるかしら?」
「ちょっと待ってください。フロースって,フロース・プルウラーって大聖女様の御名じゃありませんか」
私が所属し研鑽している聖教会を興した御方なのですよ。
彼女は照れくさそうに頬を指で掻きながら,
「みなさん,私を過大評価し過ぎなのよね」
「そんな事ありませんよ。貴女は主の御言葉を聞き、普く我らにお伝えして頂いた方なのですよ。そのお言葉であらゆる危機を脱し,災害から我等を御救いになり,瀕死の者がいれば奇蹟で傷を治し,心を込めて癒していかれたではありませんか」
「それが言い過ぎなのですよ。偶々,頭に浮かんだワードが物事の行く末にピッタリと嵌ったり、少しだけ使えた癒しの奇跡が上手くいっただけなのよ」
「そんなことありません。現代の聖女も,それを目指す聖女見習いもあなたを目指しているのですよ。あなたの言葉を綴った詩篇パサールを胸に」
それを聞く彼女の顔が赤く染まる。
「そんな事,面と言われたら恥ずかしいのよね………。まあ,いいわ」
「そんなことって」
私の前で彼女は居住いを正す。
「あなた,レスレクティの奇跡を願ったでしょう。それも何度も」
「はい」
確かにここの」聖教会へ来てから何度かのお願いをしている。最初はシュリンちゃん, そして獣人豹族の男の子。
古の大聖女フロースは私を諭す。
「レスレクティは最上の癒しの奇跡,それは肉体の無くなったところだけじゃなくて,魂の缺損したところも治していくの。でもね,無くなったものは再生できないじゃない?」
「確かに,そうですね」
「だからね,あなたが獣人狼族の娘に施した時に,偶々,あなたの近くに漂っていた私が取り込まれて,この娘の魂に当てがわれたのよ」
「なんで私なんかのそばに?」
「肉体のない私が,皆の意識のつながる海とでもいうべきところで漂っていた時,あなたの魂の叫びを聞いたのよ,生きたいっていう。そうしてあなたを意識した。あなたが背負うものを知った」
私の胸の奥にあるものがドクンと跳ねた。私の額に座す御方を知っている。
「別に,あなたの定めなんだから,どうこうするつもりもなっかたけど興味が勝ったのね。行末を見てみたいってそばにいたらレスレクティ癒しの御技で,この娘の魂の補完に使われちゃったのよ」
じゃあ,あの聖教会へ抱き抱えれられてきた時に,シュリンの魂は既に消えかけていたと言うの。
「では,今シュリンの体を動かしているのは大聖女だと言うのでしょうか?」
すると
「安心して」
と彼女が片腕をあげるとシュリンがいた。大聖女の脇腹にしがみついていたんだ。腕の影にいてわからなかったんだ。
「トゥーリィおねえーちゃん」
あぁ,この呼ばれ方は本物のシュリンだ。
「この娘の魂はちゃんとあるから,少しだけ足りないところに私が住み着いている形になっているんだね」
でも,私は喋り方の違う方でも話をしている。あれは,
「もしかして,随分と大人びた話し方をしていた時って大聖女が話していたんですか?」
「そうなのよ。私が入り込んで,その時はまだ魂同士が馴染んでなかったからね。やっぱりわかるかなあ」
「本当に年不相応な話し方でしたから,何があったって心配しましたよ」
「大根役者だったてわけね。大丈夫よ。これからはこの娘が話すから,私はあなたをのぞいているだけになるわ」
でも,先ほどまで,何度か、話しかけられていたんだけれどなぁ。
「でも今回みたく,この娘の命に関わることでもあれば,浮かんで,私が主導権にいるかもね」
「何度か,良いアドバイスもらいましたから,文句はないです。でもシュリンの魂を汚すようなことだけは無しでもらえますか」
今回の騒動の中でシュリンは癒しの奇跡を行なった。それも身分として最上位の方に施したんだ。
これから聖女だ、なんだかんだと騒がれるかもしれない。しかも獣人で聖女って聞いた時ないんだね、これが。多分、最初の1人なんてことになることなら、どんないざこざになるかわからないよ。
「じゃあ、私のお話はここまでね。後は、この娘というか、私も含めてよろしくね。そろそろ、あなたの体も目が覚めたみたいよ」
確かに、微かに外の光が感じられる。頭も地面ではなく何か柔らかいものの上に置かれている感じがするんだ。
そうして、私の瞼が開いていく。
ありがとうございました。




