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微睡の奥 惨状の中

よろしくお願いいたします。

 お日様の下でシュリンが書を開いている。


「お姉ちゃん、トゥーリィ。この厚いものって何?」


(これは夢だってわかった。シュリンが詩篇パサールを持っている。何時ぞやの記憶。私は,さっきまで、こんなに穏やかな時間の中にはいなかっな。叫び声が上がり土煙も上がり、怪異が飛び回る阿鼻叫喚の中にいたんだ。そうか、力を使い果たして気を失ったんだっけ)


「それかい、それは'書'っていうんだ。詩篇パサール、聖教会の経典でもあるんだよ」

「経典?」

「う〜ん、みんなの為に大事なことが書いてあるんだよ」

「へぇー」


「大聖女様の御言葉が詩篇として書かれているんだ」

「御言葉?」

「そう、主が啓示として大聖女様にお渡しくださり、私たちにお伝えしていただいたものなんだね。それが詩…違うな'謳'として描かれているんだ」

「そう、謳」


「私も,ここに書いてあることを全部覚えたら聖女様になれるかなあ」

「シュリンならなれるかもよ。因みにそこに書いてあるのは手書き。詩篇持つものが自ら、全てを描かないといけないんだよ」

「これ全部! トゥーリィは書いたの? ぜんぶ」

「書いたさあ、夜も寝られず泣きながら書いたもんよ」

「うぇー」

「そんな渋い顔しない。聖女になるんだろ。これくらいしないとね」



(シュリンが嫌そうな顔をしてる。ふふ。私もこれを描き始めはそう思っていたんだろうね)


『トゥーリィ。貴女は'謳'を書き記すことできたかしら』


(誰だ? いきなりシュリンと入れ替わっている。私より成人している女性。ブロンドの長い髪に碧眼。藍色の修道服を着ている。私が目を瞬く間に変わった。本当に誰?」


   バサっ


(その方は詩篇パサールの1ページを開き私の前で展開した)


   スッ


(ある一節を差し示した。こんな、こんなことって)


「貴女は、一体何を話されているのですか大聖女」


(えっ私まで大層なこと喋ってるよ。大聖女ってあの 啓示受けたる大聖女 だよね)

「ふふふ」


 ここで夢がぬぐい払われた。頭の中に、


   ピッギャアアアアアーン


 嫌な雄叫びが響き渡り、頭の中を撹拌したんだ。夢から覚めたんだと思う。


目の前は闇。先の全くわからない闇。その闇の中から、


「…お姉ちゃん、トゥーリィお姉ちゃん」


 えっ、シュリンちゃんの声が聞こえる。


   チカッ


 闇の中に小さい光が差し込んだ。その光が闇を祓っていく。私はその光に手を差し向けた。そうして瞼が瞬き目を開けた。

 最初に目に入ったのは獣の顔。狼だね。しかも獣人だろう。


「トゥーリィお姉ちゃん」


 ペチペチと頬を叩かれている。シュリンちゃんだね。


「………シュ、シュリンちゃん」


 いきなり喋った言葉が掠れている。


「シュリンちゃん、ここどこ?」

「お姉ちゃん!」


 彼女は私に抱きついてきた。モフモフの感触が心地いいや。この感触をもう少し感じたいな。モフモフぅ


「起きて」


 その一言で目が覚めた。こんなだらしない事してる場合じゃない。頭が動き出す。

 私は瞼を見開き,顔も動かして左右に視線を走らせる。もう一度聞いた。


「シュリンちゃん、ここどこ?」

「聖協会の前だよ。お姉ちゃん寝ちゃってたんだよ」


 そうか、力を使い果たして気を失ったんだっけ。私は抱きついているシュリンごと跳ね起きる。


「あの後、どうなった? ってシュリンちゃん、なんでここにいるの?」


 確か、教会の中に逃げろって言ったはず、


「だっ、だって奥に隠れてたらいきなり、ドカンバリバリってなって、窓もドアも壁もなくなって、外が見えちゃって、嫌な叫び声は聞こえるし、怖くて外に出たんだよ」


 シュリンちゃんも慌てて、怯えている。体の震えが伝わってくる。私はシュリンを抱き直すと、再び視線を左右に走らせた。

 主に嘆願した障壁はすでに消えてしまっている。辺りを見ると何か埃が舞い上がって視界がかなり悪い。


「うっ、この匂いは?」


 辺りに漂う匂いは鉄の香り、そう血の匂いなんだ。それもむせ返るような匂いが辺りを充満している。ここまで臭うって,どれだけの血が流れたんだ。

 シュリンは見たところ怪我した様子はない。

 じゃあ誰? ヴィンス様は? ゾフィー様もそしてユリエル様は?


 そのうちに埃が風で払われているのだろうか晴れてきた。そうすると周りの様子がわかってくる。

 黒衣を見つけた。瓦礫であろう何かにもたれかかっている。その黒衣の肩の部分が大きく裂けて片手で庇っている。足を投げ出し、顔は苦痛に満ちている。


「ヴィンス様」


 彼に近づいていく。近くに彼の持っていた大剣が折れ曲がりひしゃげて転がっている。


「うっ」


 よく見れば、彼が手で押さえている肩の部分が裂けて皮膚を曝け出している。色は赤黒い。その下の腕はあらぬ方向に曲がっている。

 何かで打たれたのだろう頭部から血が流れて額を染めて、片目を塞いでいた。


「すまん。油断した」


 申し訳なさそうに話してきたよ。



ありがとうございました

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