障壁展開
よろしくおねがいします。
印を外し、
「グラティア<サンクス>」
奇跡に感謝をする。効果が切れる気配を感じ、玄関から外に飛び出す。
「げえぇっー」
汚い叫び声でごめんあそばせぇ。それほど酷い有様だったんです。
聖教会の前の道に、大穴ができている。下手な馬車なら、そのまま落ちてしまいそうな大穴ができているんだよ。
視線を左右に動かすと、さらにひとつづつ、合わせて3つも開いている。更に、そこから甲虫がわらわらと飛び出してきてる。甲虫はどこかに向かっているようであり、その流れの先に目を凝らすと何やら蠢いている。
左右の建物より高い場所に頭らしいものがみえ、その下から何やら蝙蝠みたいな羽根を広げているんだ。建物と比較してかなり大きいんだ。
その周りに取り巻いてるみたいな雲みたいなのって全部、甲虫なんだろうか。
あまりの光景に、頭の中で '帰ろ。帰るんだ。'っていう思いが溢れ出てきてる。経験のない現実離れした出来事に、考えることをやめたくなってきた。
替わりに絶望が湧き上がり、体から力が抜けていく。膝が崩れそうになる。
ヴアアァン
そんな弱気になった心を嘲笑うように、羽音が聞こえてきた。甲虫が私の目の前を飛び廻る音が聞こえる。
絶望し生が崩れ落ちているものにも、ご無体な。いないものとして無視してくれれば良いのに。
「お、お姉ちゃん」
後ろから声が聞こえた。恐怖に怯えてなす術もなく、私に縋ってくるシュリンの声。私の中で誰かがスロットルレバーを押す。風前の灯だった生へ、生きなきゃって燃料を流し込む。
「どうすればいいの?」
なす術のない中に、まだ生きようとするシュリンが声をかけてきた。
流し込まれた燃料に火がつく。体の中で燃え上がり、うちに蔓延る絶望を押し出していく。
「中へ、教会の中へ入って!。なんでついてきたの。奥に逃げてって言ったのに」
「だってお姉ちゃんの…」
「早く入って。奥で待っててって言ったよね」
縋り付くように話しかけてきてくれたシュリンを叱咤する。絶望し諦め、死地へ行こうとする自分を引き留めてくれた恩人でもあるのに。
「シュリンが、可愛いシュリンが巻き込まれたらって考えただけで堪らないの。お願い大好きなシュリンを守りたいの」
守らなきゃいけない人だからこそだ。嫌われたって構わない。これから行くは屠り貪られる補殺の地。守ることなどできる余裕なんてない。
「奥で祈ってて、同願ふたり。啓示受けたる大聖女と共に、主へ祈って。ねっ」
振り返り笑ってあげる。上手く笑えたかな。わからないや。再び、振り返りガレ場を見ると、後ろから正教会のネイヴの扉が閉まる音が聞こえた。よしっ、これで全力って、あんな異形達とだって戦える。
さあ、死ぬつもりは毛頭なくなった。死地へでも行って帰ってくるよ。
すると群れていた甲虫が再び、私に向かって飛んで来たんだ。
祭壇の下に安置しておいたジョゼル権杖は腰紐に2♪本ひっかけてある。一本を取り出すとーそのまま振り上げて、飛んでくる甲虫めがけて振り下ろす。
ダァグュシャア
権杖が甲虫を早く落とし、図面に激突させてつぶしてしまう。
露払いだよ。
権杖を腰紐へひっかけ、
『ヴォロ・ディセェレ』
両手でで印を組み、私は主へ請い願う。
聖女を学ぶ学舎で先達から伝えて聞いた増幅結びの印、力ある言葉と共に主へ乞い願う。
先達から伺った。
「この印と力ある言葉で請い願うと奇跡の力が増すの。とてつもなく増すの、その代わり聖力を根こそぎ持って行かれて4 、5日は寝込むの必死」
寝込むぐらいなら目っけ物。
「ムゥース<カストロム>」
障壁を張った。聖教会の前と道路を挟むように、強く壊れない城壁のような障壁を願った。
願いが効き唱えられ、私の前に背の高い光の柱が一つ権限する。同じく道路の反対側へも顕現した。
そして左右へ光が奔り、展開した。がれ場と遥かに離れた異形まで挟むように広がる。
私のうちからごっそりと力あるものが吸い出されていったけどね。
ありがとうございました




