ポルタ 扉の向こう
よろしくお願いします。
足元が揺れる。垂直に押されるんだよね。すぐ近くで揺れが起きているんだ。
前にも一度、体験している。あの時もベルを鳴らしたっけ。もうやだ。
あまりにも突き上げにバランスを崩してしまう。膝に力の入れ方を間違えて、崩れてしまう。膝をつくまでに立ち直れたんで、そのまま崩れ落ちて倒れるってことはなかった。
ドン、ドン、
空いたままになっているネイヴのドアの向こう、正面玄関からの衝突音ガ聞こえた。軽くノックするような音じゃない。音がするたびにきしみ音やヒンジの悲鳴音が混ざって聞こえてくるんだ。
ビンっ
なんかハズレ飛んだ音が聞こえる。そろそろ限界かな。
私は踵を返してチャンセルに立ち入る。奥にある祭壇へ向かった。アルター祭壇に収められているジョゼル権杖を取りに行くんだ。シュリンがその後に続いてくる。
「お姉ちゃん怖いよ。何がおきてるの」
シュリンがしきりに後ろを気にしながらついてくる。私の着ているトゥニカを握りしめて歩いてきた。
「ごめんね。私にもわからないや。様子見に行こうかと思うのよ」
「でも、玄関が反対だよ」
わたし達はアルター祭壇の下へ辿り着く。
「いいの。私もね、あの音が怖いから、これを取りに来たんだ」
祭壇横の棚になってきるところにケースと一巻きの布が安置されている。その内のケースを取り出して開けると中に棒状のジョゼル権杖が現れる。しかも2本あったりするんだ。
「なんなの、それ?」
シュリンが聞いてきた。儀式で使う宝具だっていってもわからないだろうから、
「これ、これねえ。あのなんかわからないものが来たらこれで殴ろうかと、私って孅いから、これぐらいないとね」
ジー
なんかシュリンにはみすかれている気がする。どこが孅って と。まあね。
「私が見てくるからシュリンちゃんは台所へ行って隠れていてくるかな。あそこが丈夫なんだ」
「いや」
即答でした。トュニカを握る手に力が入る。
「怖いよ。逃げよう」
本当に怖いんだろう、円らな瞳を潤ませながら懇願してきた。
「ごめんね。私はこんな見習いなんだけど、教会を守らなきゃいけないんだ」
トュニカを握るシュリンの手に私の手を重ねて、
「シュリンも、守らなきゃいけないんだ」
「いやっ」
「お願い。きいてくれる」
私はシュリンの目を見つめた。しばらくてシュリンは、頭を小さく下げた。返事をしたんだ。私は彼女の頭の毛をモフモフする」
「良いシスター見習いだよ。じゃあ私もお勤め行ってくるね」
ジョゼル権杖を持って踵を返したんだけど、
「お姉ちゃん、これは持っていかないの? 着ないの?」
あちゃー、気づいてほしくないものに気づいてくれたの。藍色の衣服。正聖女の色のバーヌース。見習いの立場の自分には着られないもの。
「それは止める。破っちゃったら私、聖女辞めないといけなくなる」
物理的に首チョンパかも。
「大事なものなんだね」
「そうなんだ」
「だから、シュリンが守ってよ。そうして教会にいてね」
屁理屈だけどシュリンを言いくるためにはしょうがないよ。
「うん。いってらっしゃい。気をつけてね」
「わかった。行ってくる。」
シュリンをアルター祭壇において私は玄関に向かった。玄関前のナルテックスに着いた
途端、
ドォン ピィギャン
玄関コーチドアの観音扉の一枚が、さっきからの衝撃に耐えきれずに外れてしまった。と同時に何が丸いものがナルテックスに入り込み、床に落ちた。
「えっ、甲虫!」
そうなんだ。先日、街中に大量発生したのを駆除しただよね。
それが…
落ちてきた甲虫が甲羅を広げろて羽根を出してきた。まずいよ飛ぶ気だ。
私は意を決してジョゼルを両手で握り後に引き寄せ、そのまま肩を軸に振りかぶった。1番上で止まったところで
「ホセェレ・ヴェレ」
唱える。我は乞い願う。そのままダウンスィングよろしく振り下ろし、甲虫にショットした。甲虫はひしゃげながら玄関を打ちだされていく。
それを目で追った私は凍りついた。背筋にビリビリが駆け上がる。
玄関の外では甲虫がいた。たくさんいた。数えきれないほど空を跳んでいた。
思わず、
「ムース<スキュターム>」
障壁をお願いする。願いが聞き遂げられたと思う。すぐにたくさん甲虫がこっちに向かってきた。
すると見えない壁でもあるように甲虫が、それに当たる。ぶち当たる。自分たちの跳んできた勢いで潰れてしまう。
空中に、嫌な色の花が咲いた。たくさん咲いた。
いやぁ気持ち悪いよぉ。
ありがとうございます。




