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清浄の鐘は鳴る

よろしくお願いします。

   パフン


 私は、シュリンの捧げ持ったトレイの前に体を滑り込ませる。そのまま体を捻って、叩きにきた手を背中に受けるようにした。

 タイミングを会わせて膝を屈伸させて、威力と音を小さくしてみた。


「止めい」


 気力のこもった言葉に叩かれた背中まですくんでしまう。本当に微かな声なのに。


「ゾフィーよ。汝は聖教会とことを構えるつもりか?」


 前に会った時はぅヴァレットメイドとして装甲メイド服を着て、厳つい雰囲気だった彼女も恫喝され、萎縮してしまっている。


「しかしですな、御前。この者たちは…」

「どのような出自であろうと、見習いだろうと、ヴェール被りし聖なる乙女なるぞ」


 ゾフィーと呼ばれたヴァレットメイドよりも高貴なる御前の方が、話がわかっている。


「あまっさえ、汝の叩こうとしたものはなんであろう」


 ゾフィーさんも、何か気づいたようで目を見開く。


「主の啓示受けたる大聖女の血肉、整体なるぞ、神にも背く行為なれば…」


 それを聞いて彼女は列の間の狭い空間に崩れて跪く。

 御前と呼ばれた女性は、こちらを向き、シュリンちゃんに話しかけた。


「我の名はユリエル。さて、汝の名を教えてもらえるか?」

「シュリンっていいます」

「可愛い名であるな。さて可愛いシスターよ。我にも整体をいただけぬか?」


 シュリンちゃんは、一瞬ぽかんとして、次に私の顔を仰ぎ見てくる。


  うん。


 今一度の口上、


「ようこそお越しいただきました。ホスティアになります。聖女様の聖体をお納めください」 

「はい。こちらになります」


 シュリンちゃんがトレイを渡していく。


「確かに聖体を承りました。謹んで受け取ります」


 ユリエル様はホスティアを捧げ持った。


「はて? これはウチのパティシエが作りしものに、似ておるが?」

「やっぱりわかりますか。教えてもらったんですよ。城内で修行中、厨房に遊びによく行きまして」


 私は頬をポリポリ、


「皿洗いやら手伝っていたら仲良くなりまして、聖女見習いとして、ここに行くって話をしたら餞別だって教えてくれたんですよ。作り方。でも甘味はこの教会で採れた蜂蜜物を使ってますからオリジナルですよ」


 あっ、もう口にしてる。


「クドくない割にコクがある。気に入ったぞ」


 お褒めに預かり光栄です」


 そんな話をしているとシュリンちゃんが、いまだに蹲っているゾフィーさんに、


「整体になります。お受け取りを」

「コラっ、ゾフィー。いつまでもそんな真似するでない。早う受け取ってやらぬか」

「はっ」


 ゾフィーさん、一瞬は顔を顰めましたが、すぐに笑顔になり、


「確かに聖体を承りました。謹んで受け取ります」


 シュリンちゃんから受け取る。そしたら顔つきかー元に戻ってしまった。


「なかなか、いけるぞ。早う食べてみ。この茶とも合うな」


 ユリエル様は完食。赤甘茶まで飲み干してしまう。本当は神父様が、ご教示の最後に、音頭をとるんだけどなぁ。

 機嫌が良い方と未だに苦虫を噛んだような顔つきの方を残して、列を移動する。

 そこには朝方、この聖教会へと案内をした剣士様がいた。背中の大剣は外され、椅子に立てかけられている。


「ようこそお越しいただきました。ホスティアになります。聖女様聖体をお納めください」


 剣士様はシュリンちゃんからトレイを受け取ると、そのまま自分の脇に置いてしまった。なんとも味気ない、いえ、すいません無口な御人だ。


「そういえば、呼び出されたって、朝方、言ってましたよね」


 確か記憶の隅っこにそんな会話をした記憶がある、でっ、私は見てしまった。彼の片方の眉毛がビクッと、一瞬動いたのを。


「叔母上って言われてましたね」


 ということは、この前にお座られる御前の関係者。この方も止む事無き御人なんですね。

 それこそ、なんで場末の小さい聖教会に来られたんだろ。まあ、私如きが考えても詮無きこと。

 参列者は、まだいらっしゃる。街の顔役の方のお見えになってる。もちろんホスティアはお渡しする。あと、老夫婦が2組ほど。

 だけど、数人はいるメイドサーバントの方達にはお断りされてしまった。陰ゆえに構うなとのこと。あれだけ目立っていて陰ということないでしょ。


「さて、本日のお話はここまでといたしましょう」


 タダイ神父のご教示が終わった。


「さて、皆様のお手元には、既に大聖女様の整体が拝領されているかと思われますが、是非とも領食されますようお願いします」

 

 これより、しばらくはネイヴの中での皆様が領聖されている。まあ、食べてもらっている。

 そして数刻後に、タダイ神父はハンドベルを 1回、2回と鳴らす。


「では、皆様、今のベルの音にて聖女様の整体が聖変化されました。ヴィスキーは大聖女の肉、茶は血へと変わりました。これらを取り込まれたことにより、皆様は一時的に主の啓示受けし大聖女様と同一となりました。では」


 タダイ神父は説教台に立ち両手を組んでいき聖印を刻んでいく。

「大聖女へ啓示授けし我らが天上におわす主よ。聖女様と我らがおいし業と罪を許されますよう。主の啓示受けし大聖女様よ主へ願い奉る」


 口上の後、神父は手元のハンドベルを3回鳴らした。 ネイヴの中にベルの音が響き、そして沁みわたる。

 ここでネイヴの後ろで控えていたセリアンが天井から降りていたローブを3回引き下ろした。すると教会建屋の屋根にある鐘楼から鐘の音が3回鳴り響き、外苑都市へ響き渡っていく。


 「皆様の業と罪は清められました。これにて本日のミサは終わりとさせていただきます。また、来週も参列されますよう」


 タダイ神父はミサの終わりを宣言した。






ありがとうございます。

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