ホリデーミサ 始めます。
よろしくお願いいたします。
チャンセルに向かう途中、廊下の明かり取りから黒いロングドレスに暗色のピナフォアを着た人たちを、ちらっと見かけた。つい最近、見ているとはいえ、まさかねと思考から外してしまった。途中にある神父様の執務室から、聖典の詩篇パサールを捧げ持ち、チャンセルに至る。向かって右にある聖典台に詩篇を安置すること。向かって左にある説教台には、神父様は到着していない。
さてと、説教台の影に隠して置いてある蝋燭を取り出す。片手で簡易聖印を結び、
「フォセレ・ヴェレ」
主へ乞い願う
「フラメル」
火を灯しください
願いが聞き届けられて手元の蝋燭に火が灯り、甘い香りが漂い出す。灯った灯りをチャンセルの中、サンクチュアリの中にある蝋燭へ火を写していく。
数10本の蝋燭に火が灯り、各々が瞬いて織りなす光の模様が一種厳かな雰囲気を醸し出す。
そう、聖教会が蜜蝋の蝋燭を作るのは、実はその使用量にあるんだよ。
一度に数10本を灯すなんて、買っていたら、費用がいくらかかるかわかりません。
このパラス教会の蜜箱は二つあった。ここの小さい規模でもかなりの量を使うのかが偲ばれる。
この建屋自身は、まだ時間が経っていない。いずれは染みついた蜜蝋の蝋燭の煙の香りが 教会の香りとなっていくのだろう。
私は聖典台のそばにある、リードオルガンへ移り、備え付けの椅子に座る。二つある送気ペダルに足を入れ、互いに違いに踏み込んで空気を入れていく。
そして鍵を3回押す。
C ♩ G ♩ C ♩
さあ、御会場の皆様。パラス聖協会、休日ミサの始まりです。
ここで、やっと
タダイ神父がやってきました。白いトュニカに赤紫のスカブリラオ。頭にはミトラを被っています。
赤紫といい司教冠であるミトラを被るなんて、タダイ神父実はかなり高位の司教なのかも。そして徐に説教台へ座ります。
おっとと、演奏、演奏。
リードオルガンのペダルを踏み込み、鍵盤を押し下げる、
C♩D♩E♩F♩G♩A♩B♩
と音階上げていく。
すると
チリーン
タダイ神父がハンドベルを鳴らして、演奏終わり、前文朗読します。
隣人よ
この詩篇を信じ行うは難し、
隣人よ
この詩篇を信じ行うものなれば
主は歓喜せん。
なれを祝福せん。
なれの信心と勇気を褒め称えるであろう。
なれ戒めをもって、行ずるものなれば無上の道行ならん。
淳善の地に住するなり、
隣人よ 隣人よ
再び、タダイ神父がハンドベルを鳴らす。小さい音なれど静かなネイヴに響きわたる。
私はオルガンに備え付けの譜面台のスコアを開き、
「本日の讃美歌は19番になります。歌詞表を配りますので、ぜひ歌ってください」
ミサの参加者へ伝えていく。各席へはセリアンとシュリアン姉妹が歌詞を書かれた木札を配っているはず。
「うぬぅ、いらぬ」
「まあ、よいでわないか」
「ですがぁ………」
ぎくっ
いや、あのね、背中越しに先日聞いたばかりの声が聞こえてきた。背筋に冷たい汗が流れるよ。なんか視界の端に白いヘッドドレス、ピナフォアを着たメイドサーバントが入ってくる。しかも数人。
動揺を隠しつつ前奏をなあ始める。鍵盤3本同時に押して和音を綴る。
主の御前に、我らに寄り添う聖女様
我らの罪と悲しみと憂いを御手にて掬いたもう
抱えし皆を悩めしか我らを御手にて誘いたもう
聖女様の祈りにて
我らの願い、主の御前へ伝えたまえ
聖女様のいのりにて
我らのたまひ 守りたまえ 救いたまえ
聖女様の祈りにて
我らのすべて主へ委ね捧げると
主の御前に、我らに寄り添う聖女様
われらの弱き心をしりて悲しみ憐れむも
我らの悩み悲嘆を聞いて慈しみ慰めるも
聖女様の祈りにて
我らの願い、主の御前へ伝えたまえ
聖女様のいのりにて
我らのたまひ 守りたまえ 救いたまえ
聖女様の祈りにて
我らのすべて主へ委ね捧げると
演奏で私の独唱になってしまうのがほとんどだが、今日は違った。ソプラノとアルトの歌声が重なる。綺麗に響いてくれた。弛まぬ鍛錬を続けないと出ないものだ。誰が歌っているのだろう。多分、だね。
讃美歌が終わる。
さあ、進行、進行。
ありがとうございました




